編集委員 滝田洋一
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- 2011/9/8 7:01
滝田洋一(たきた・よういち) 81年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ駐在などを経て95年経済部編集委員。07年論説副委員長。米州総局編集委員、論説副委員長兼編集委員を経て11年4月から編集委員。マクロ経済、金融を担当。08年度ボーン・上田国際記者賞受賞
「欧州の情勢は尋常ではないよ。先行きは相当に厳しいね」。ようやく取った休暇でパリを訪問中の大手投資信託の社長はいう。日ごろは冷静な運用のプロなのに、電話口の声は心なしか緊張している。
・9月1日フィナンシャル・タイムズ「IMFスタッフがユーロ圏当局と衝突」 |
・9月6日フィナンシャル・タイムズ「欧州債務危機への懸念が再燃」 |
・9月6日ブルームバーグ「独首相、条件未達成ならギリシャ支援見送りの意向―CDU関係者」 |
・9月6日ロイター「一部欧州銀行、ソブリン債再評価なら存続困難に―ドイツ銀CEO」 |
ハリケーン・ユーロと呼ぶべきだろう。欧州の金融市場に暴風雨が吹き荒れている。イタリア、フランスの銀行ばかりでない。大量の売りを浴びているのは、欧州の銀行を代表するドイツ銀行株だ。
月(市場) | 小平龍四郎 |
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火 | 竹中平蔵 慶大教授 |
水(企業) | 中山淳史 |
木(経済) | 滝田洋一 |
金(市場) | 梶原誠 |
南欧の重債務国が立ち行かなくなり、デフォルト(債務不履行)に陥るのではないか。その際は貸し手である欧州の金融機関が、深刻な経営難に陥るのは避けられない。そんな懸念が金融不安の根元にある。
ユーロ圏首脳会議は7月にギリシャへの金融支援を決めた。にもかかわらず、フィンランドがギリシャ支援に担保差し入れを要求するなど、各国の足並みはそろわない。
■重債務国支援、ドイツ政府に国内の抵抗
肝心のドイツ政府の腰が定まらない。「ギリシャが救済条件を満たせないなら、月内の支援は受け取れない」。メルケル首相は5日、与党キリスト教民主同盟(CDU)の会合で、そう述べた。
4日実施された独メクレンブルク・フォアポンメルン州議会選挙で、CDUは大敗した。ドイツ北東部の同州はメルケル首相のおひざ元。衝撃が走っている。重債務国支援に対する違憲訴訟も重圧となった。
「なぜ、ギリシャなど怠け者を我々の税金で救うのか?」。ユーロ圏の債務危機への対応は、有権者に不人気な政策だ。独政府としても強硬姿勢を示さざるを得なくなっている。ショイブレ独財務相も英紙「フィナンシャル・タイムズ」への寄稿で、「ユーロ圏共同債は、危機に対する永続的な解決手段にはなり得ない」と強調した。
いわば突き放された形となったギリシャ。2年物国債の流通利回りは5日、初めて50%を突破した。1年物に至っては利回りが80%超だ。市場はデフォルトを現実の可能性として織り込みだしたのである。
借り手の反対側には、貸し手がいる。重債務国に対して大量の与信を抱える欧州銀は、経営不安が募っている。
■ギリシャなどの国債の評価損、欧州銀の命運を左右
「最も弱い銀行には破綻リスクがある」。ドイツ銀のアッカーマン最高経営責任者(CEO)は5日、金融関係者の集まりでこう訴えた。鍵を握るのは保有する国債の評価損だ。「市場価格で再評価するとなると、多くの欧州銀が存続不能になる」とアッカーマン氏。
独復興金融公庫のシュローダーCEOは同日、「多くの銀行は資金調達がほとんどできない」と語った。銀行同士が疑心暗鬼に陥り、カウンターパーティー(取引相手)リスクにおびえ、資金の放出を絞っているのだ。
米国のマネー・マーケット・ファンド(MMF)は、欧州銀の発行するコマーシャルペーパー(CP)などの継続購入を見合わせだしている。このままで行くと、流動性不足から経営難に陥る欧州銀が表れるのは時間の問題だ。
2008年9月15日に米リーマン・ブラザーズが破綻してから3年がたつ。新たなリーマン危機は欧州で現実のものとなろうとしている。
重債務国支援と大手行の破綻防止――連鎖危機防止の課題は明らかなのに、ユーロ圏諸国の会議は踊るばかり。
就任早々の安住淳財務相には荷が重いだろうが、仏マルセイユで開く7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では欧州諸国に訴えて欲しい。「第2のリーマン・ショックは起こさないでくれ」と。
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