08/09 高まるユーロ分裂のリスク



(1/2ページ)
2011/9/8 7:00
forbes
(2011年9月1日 Forbes.com)
アテネの議会前でデモに参加する人たち(9月3日)=ロイター
画像の拡大
アテネの議会前でデモに参加する人たち(9月3日)=ロイター
 ここ数週間、欧州は一見“凪(なぎ)”の状態を保ってきたが、旧大陸全体を巻き込んでいるソブリン危機(政府債務の信認危機)がそろそろ再燃しそうだ。欧州首脳が夏の休暇から戻り、欧州金融安定基金(EFSF)拡充策を巡る議論に再び火がつくとみられるため、野村証券のアナリストたちは不気味な調子でこう指摘する。「ユーロ圏はこれから危機的な局面へ突入する。現在に比べ今年末には分裂の脅威が、昨今のユーロ危機が始まって以来の大きさとなるだろう」。
 EFSF拡充策が実行されるには最終的に、政治的なプロセスを経て欧州連合(EU)各国の立法府を通過しなければならない。また、ギリシャが民間金融機関と「自発的債務再編」の合意にこぎつけられるかどうか。この2点が、この先数週間の市場のボラティリティ(変動率)のかく乱要因となり、欧州だけでなく世界の市場に波紋を及ぼすだろう。
【記事リンク】
Here's Why Greece Leaving The EU Could Cause Another Depression
(ギリシャのユーロ離脱が恐慌を招く理由)
Greek Euro Exit: 60% Currency Devaluation, Default, Banking Sector Collapse
(ギリシャのユーロ離脱が招く結末:60%の通貨価値下落、デフォルト、そして銀行破綻)
What If Germany Seceded From The EU? 40% Appreciation And A Decimated Export Sector
(ドイツがEUを離脱したら?40%の通貨高と輸出産業の壊滅)
Europe Is Finally Forced into a Corner
(とうとうコーナーに追い詰められた欧州)
Why US Treasurys Are Trading At A Premium
(米国債が高値で取引される理由)
 18カ月に及ぶユーロのソブリン危機は市場に打撃を与えてきたが、欧州各国の首脳たちが打開策を議論することで平静を取り戻した。しかし、この打開策も永久的なものにみえて、実は一時しのぎでしかない。野村のアナリストは9月中に市場に衝撃が再び襲うとみる。
 注目すべき変数は、ギリシャの債務再編計画の行方だ。7月21日にEU諸国が合意した再編策では、ギリシャ国債を保有する銀行など民間投資家は保有する既発債を額面で30年債と交換するなどして、ギリシャの国家債務の削減に自発的に協力することになった。ギリシャは対象となる民間投資家の9割と9月9日までに具体案について確約を取り付けるという期限を自ら定めている。1日現在、約7割が意思決定した模様だ。ギリシャ政府筋は、9割の目標を達成できない場合、「緊縮策を続ける義務はなくなると思っている」と示唆した。
 もしギリシャが約束(民営化と緊縮財政)をほごにするなら、無秩序な債務不履行(デフォルト)とユーロ圏からの追放という最悪の事態を招くだろう。EUと国際通貨基金(IMF)が了承した債務再編策を実施できなければ、「北欧でギリシャ救済策への反発が一層強まり、資金調達の行き詰まりと、突然のデフォルトのリスクが高まる」。
 これは2002年のアルゼンチンのデフォルトという暗い記憶を呼び起こす。アルゼンチンのデフォルトは近代史上最も規模が大きく、ペソの米ドル連動(ペッグ)制が崩れたことが、結果的に南米各国が数年後に経済成長へ向かうカギとなった。今度はギリシャに対してユーロ脱退を求める圧力が高まる。ドイツやフランスやその他の協力国が資金援助をした後には、EUの資金力は徐々に衰え、危機に直面した銀行に致命的な打撃を与えることになるだろう。そして、危機はポルトガルやアイルランドに飛び火し、スペインやイタリアという大国までもが破壊的な状況に追い込まれるかもしれない。
演説するギリシャのパパンドレウ首相(9月3日)=ロイター
画像の拡大
演説するギリシャのパパンドレウ首相(9月3日)=ロイター
 ユーロ圏での問題の本質は政治だ。旧大陸の議会が夏の休暇から明け、これからは新たなEFSF拡充策が欧州政治の場で議論の核となりそうだ。ユーロ共同債や4400億ユーロに上る救済ファンドの拡充策は真のテーマではない。テーマは、裕福な国が債務超過で浪費家の隣国を救済する構造が固まってしまうかもしれない、という根源的な問題だ。
 例えばフィンランドは、EFSF拡充のための資金拠出と引き換えに、ギリシャから担保を受け取ろうとしている。オーストラリアやオランダ、スロバキア、スロベニアも同様の条件を求めている。こうした動きはEFSFを将来的に危機に陥れ、救済策の支払いの遅れや政治の行き詰まり、選択的なデフォルトといった結果を引き起こす可能性がある。
【記事リンク】
Here's Why Greece Leaving The EU Could Cause Another Depression
(ギリシャのユーロ離脱が恐慌を招く理由)
Greek Euro Exit: 60% Currency Devaluation, Default, Banking Sector Collapse
(ギリシャのユーロ離脱が招く結末:60%の通貨価値下落、デフォルト、そして銀行破綻)
What If Germany Seceded From The EU? 40% Appreciation And A Decimated Export Sector
(ドイツがEUを離脱したら?40%の通貨高と輸出産業の壊滅)
Europe Is Finally Forced into a Corner
(とうとうコーナーに追い詰められた欧州)
Why US Treasurys Are Trading At A Premium
(米国債が高値で取引される理由)
 もう一つ政治的な動きとしては、ドイツの連邦憲法裁判所が9月7日に「ギリシャに対する最初の金融支援策の合法性に関する3つの判例」について、裁定を下すことになっている。もし否定的な結果が出れば、EFSF拡充策の批准に遅れが出るだろう。
 3つ目の欧州政治の課題は、仏サルコジ大統領と独メルケル首相は数週間前に、ユーロ共同債は即時実行すべき解決策ではないと合意した点だ。この会談では、ユーロ圏内の財政収支の均衡に関する修正案(フィンランドが実効性に疑問を表明)、法人税率の統一(アイルランドと英国から強い反対論)、そしてより強固な経済面での統治を目指すことでも合意した。しかし、これらの実現にはユーロ圏各国の議会の承認が必要だ。
 EFSF拡充策の各国議会承認が失敗に終われば、ボールは欧州中央銀行(ECB)に投げられることになる。ジャン=クロード・トリシェ総裁率いる欧州の中央銀行は渋々ながらも、流通市場でスペインとイタリアの国債を400億ユーロも購入している。ECBが今後、資金面と政治的圧力の両面の条件のもと、EFSFが本来始めるべきだったことに手をつけるかどうかは不透明だ。
 ここ数週間の欧州の凪(なぎ)状態は、急速に流動的で大荒れの政治論争へと移り変わり、市場のかく乱要因となるだろう。注視していかなければならない。
by Agustino Fontevecchia
(c) 2011 Forbes.com LLC All rights reserved.

No comments:

Post a Comment