21/09 [FT]アイルランド中銀総裁、一層の歳出削減求める

2010/9/21 14:00
(2010年9月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

記者会見で発言するアイルランド中央銀行のパトリック・ホノハン総裁(8月20日、東京=ロイター)

 アイルランド中央銀行のホノハン総裁は、同国の経済運営への国際的な信頼を回復するには、政府がさらに厳しい予算削減に取り組む必要があると述べた。

 20日に首都ダブリンで開かれた会議でホノハン総裁がこう語ったのは、国内総生産(GDP)比10%余と欧州連合(EU)最大の財政赤字を抱えるアイルランドに対して、市場の懸念が強まる一方だからだ。


借り入れコスト再上昇、上乗せ幅4%超え


 1年前、当時の与党フィアナ・フォイル(共和党)を中心とした連立政権は、EU諸国の先陣を切って財務問題に真剣に取り組む姿勢を示し、世界の称賛を集めた。公務員給与を平均15%カットし、子ども手当などの給付金を減額して数十年ぶりの厳しい予算を組んだ。

 ところが今ではギリシャやポルトガルと並んで、ユーロ「周辺国」の中でも際だって脆弱(ぜいじゃく)な国となっている。不動産・金融業界の不振から国家財政が破綻の危機にひんし、経済の回復もおぼつかない。

 中銀総裁が来年度予算に警鐘を鳴らしたのは、注目される21日の国債入札を前に同国の借り入れコストが再び上昇した事情もある。

 10年物アイルランド国債は20日、投資家の警戒感を反映して利回りが6.53%に急上昇。10年物ドイツ国債に対する利回りの上乗せ幅(スプレッド)は4%を超え、1999年の単一通貨導入以来、最高水準となった。

 スプレッドの拡大は、アングロ・アイリッシュ銀行救済など主要銀行の資本増強で政府の負担が増え、財政赤字削減が進まないとの市場の懸念を表している。アイルランドの財政赤字はGDP比で11.6%に達し、ユーロ圏最大だが、すでに国内各行に注入した250億ユーロ(330億ドル)を加算すると、この数字はGDP比30%に跳ね上がる。

財政赤字削減「踏み込んだ策必要」


 政府は来年度に向け、追加策としてGDP比およそ2%に相当する30億ユーロの歳出削減と増税を計画している。

 しかしホノハン氏はここ数週間で「実体経済、価格水準、国債の利回りが総じて不利な方向に進んだ」ため、2014年までに財政赤字をGDP比3%に圧縮する目標を達成するにはもっと踏み込んだ削減策が必要と強調した。

 さらに同氏は「政府の借り入れコスト低下で財務改善をより迅速にすすめ、さらに社会全体にもたらすコストも低下させるという好循環を生み出すことが大事だ」とも述べた。

 だが、予算編成前の省庁間の駆け引きが始まるなかで、今までより厳しい予算を組めば、消費者の購買力が減退し、経済成長を阻害すると指摘するエコノミストも多い。アイルランド経営者団体IBECを代表するダニー・マッコイ氏は、政府が真に取り組むべき課題は消費支出の回復だと語る。

 同氏は「家計にお金はあっても予算削減や銀行の処理コストの大きさにおびえているのが現状。30億ユーロより削減額を増やすべきでない理由は、消費者に与える心理的影響が強いことだ。用心のために貯蓄する家庭が増え、逆効果になるだろう」と指摘した。


独立した財政監視機関の設立必要


 一方、労働組合も予算削減による経済活動への影響に懸念を示す。アイルランド労働組合会議の主任エコノミスト、ポール・スウィーニー氏は「すでに失業率が上昇し、政府の歳入が減り、企業の閉鎖が相次いでいる。政府の削減策は行き過ぎではないか。これ以上削減すれば、国全体がデフレ・スパイラルに陥ってしまう」と言う。

 これに対して、仏ソシエテ・ジェネラルの金利調査部門責任者キアラン・オヘイガン氏は、市場がアイルランドの信用度を評価する場合、経済成長予測は「二の次」で、「これから数年間に公的債務がどれだけ増加するか」が関心の的だと指摘する。

 同氏の考えでは、政府が単に支出を抑え込むより、構造改革計画を公表することで市場からの信認度は高まるという。具体的には、退職年齢引き上げの法制化、不動産税の導入、英予算責任局(OBR)のような独立した財政監視機関の設立といった対策が求められる。


by John Murray Brown


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source: nikkei

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