滝田洋一(たきた・よういち) 81年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ駐在などを経て95年経済部編集委員。07年論説副委員長。米州総局編集委員を経て09年9月論説副委員長兼編集委員に復帰。マクロ経済、金融を担当。08年度ボーン・上田国際記者賞受賞
円高による景気失速懸念がくすぶっているが、正直言って一番分からないのが景気の肌触りや実感だ。
内閣府が8日発表した8月の景気ウオッチャー調査(街角景気)では、景気の現状判断を示す指数が前月に比べて大幅に悪化した。落ち込み幅は過去最悪だった2009年11月のドバイ・ショック以来の大きさだ。
円高・株安による企業心理の冷え込みが響いているという。街角景気はいわば居酒屋の景況感なので、それだけ悪くなると街角に悲鳴が木霊していておかしくない。その割に世の中は静かだ。
関連記事 ・9月9日日経朝刊5面「街角景気が大幅悪化 8月4.7ポイント低下」
・9月9日日経朝刊4面「負債100億円超の倒産ゼロ 8月20年ぶり」
・8月31日日経朝刊4面「返済条件緩和、6月末39万件 金融庁」
大型倒産、8月は20年ぶりゼロに
同じく8日に東京商工リサーチが興味深い集計を発表していた。8月の全国企業倒産状況によると、負債額100億円以上の大型倒産が1990年9月以来、約20年ぶりにゼロになったというのだ。負債額10億円以上の倒産も大幅に減り、全体の負債総額も1889億円と、19年10カ月ぶりに2000億円を下回った。悲鳴が聞こえないのも、むべなるかな。
この辺の事情を察知してか、「日本企業は実は円高抵抗力を高めている」とか「今の円高は物価変動を差し引いた実質ベースでみれば大したことがない」といった議論が聞かれる。
日経平均株価が一時9000円を割ったことからみても、いかにも強がりめいている。そう思って、東京商工リサーチや帝国データバンクの分析をみると、意外な答えが記されていた。
亀井静香前金融担当相の肝いりでこしらえた中小企業金融円滑化法が、カンフル剤になったというのだ。同法に基づく借り入れ返済条件の緩和で、多くの企業が資金繰り破綻を免れた。
今年上半期(1~6月)の倒産が5989件にとどまり、前年同期比14.7%の大幅減になったとする帝国データバンクによれば、「金融機関は積極的なリスケ対応により多くの企業が資金繰り破綻を回避、先送りしているのが現状」である。リスケとは借り入れの条件変更のこと。
同法による中小企業向け融資の返済条件緩和は6月末時点で実に39万件、金額にして13兆3959億円に達している。菅直人首相が円高対策で後手後手に回る。そんななか、「亀井モラトリアム(一時的返済猶予)」とも呼ばれた、前金融相の置き土産が日本経済の底割れ防止に一役買ったともいえる。
同法が11年3月末に失効したあとも、返済条件緩和の扱いは継続される見通し。ただ、そうした対応が延命措置にすぎないことは、当事者の常識である。「年内は倒産状態の小康状態が続くことも考えられるが、大企業に比べて業況改善が遅れる多くの小規模企業にとって時間的な猶予はそれほど多くない」
帝国データバンクはそう指摘したうえで、「改正貸金業法の完全施行が零細企業に与える影響も決して小さくない」と警告する。中小企業金融円滑化法で助けた資金繰りを、改正貸金業法の完全施行で締めるようなら、それこそ政策効果の行って来いではないか。
「雇用、雇用、雇用」と呪文(じゅもん)を唱える前に、ちょっと前に実施した政策の効果をきちんと測定するのが、政府の仕事のはず。民主党代表選が終わり、政局が落ち着いたら、さっそくその基本に戻り、中小企業を強くする策を練って欲しい。
source: nikkei
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