高分配投信「辛口」ランキング(2)
- 2011/8/10 7:00
投資信託(投信)の「ホントの実力」を評価する本連載の第2回は、REIT(不動産投資信託)について海外編と国内編に分けてランキング結果を紹介します。併せて、海外REITと国内REITのそれぞれで今後何を注意すべきかを解説します。
[海外REIT]
最大市場の米国利回り低下し、収益安定性に懸念
2010年4月から2011年3月までの間で、資金流入額が最大だった投資信託が、海外REIT投信だ。その勢いは2011年4月以降も衰えていない。投信評価会社、三菱アセット・ブレインズ(MAB)によれば、確定拠出年金向けなどを除いた投信で2011年5月の流入額を見ると、トップ10のうち6つが海外REIT投信で占める。
5月の流入額トップが「新光US-REITオープン」(愛称ゼウス)。4月に続いて1000億円を超える流入となった。ゼウスは2010年8月に1万口当たりの分配金を60円から90円に引き上げ、それ以降、販売会社が急速に増えていることが、人気の背景にある。
円高、今後のインフレ懸念を考えれば、海外の不動産を投資対象にした商品に資金を回すのは、合理性がある。だがこのまま海外REIT投信を保有していいのか。
米国REITの配当利回りと10年物米国債の利回りの推移 出所:モーニングスター。配当利回りは、FTSE NAREATの指数。
米国REIT以外の国のREITを含めた投信はどうか。英国は、まだリーマン前の水準に戻ってないなど、上昇余地はある。海外REITは米国の組み入れ比率の状況が注視材料だ。
■毎月分配型 海外REIT投信 ランキング
ワールド・リート・オープンの分配金履歴(2010年6月~2011年5月まで)
1位となった「ワールド・リート・オープン(毎月決算型)」の2010年4月~2011年3月の資金純流入額は約2100億円。資金純流入額がトップだった別の投信(約5500億円)の4割程度の水準だが、運用力や定性評価に参加したプロの評価が高かった。世界各地のREITに投資する中で、米国REITの組入比率は4月末時点で52.2%。組み入れ上位10銘柄のうち6つが米国銘柄。
2位には「三井住友・グローバル・リート・オープン」がランクインした。2011年4月時点で、組み入れ銘柄のトップはオーストラリアの小売りREIT。基準価額の変動要因として豪ドルの影響度が高い。3位は「ラサール・グローバルREITファンド(毎月分配型)」。2011年4月時点で、上位10銘柄のうちオーストラリア銘柄が3つ入っている。2位との差は、基本的にプロの評価で出た。
(注)騰落率とシャープレシオは2011年3月末、それ以外は原則2011年5月末時点。2010年4月~2011年3月に資金純流入額が多い投信を対象にランキングした(国内REITも同様)。そのほか、評価の概要などについては、本連載の第1回の記事を参照
[国内REIT]
2011年、2012年と続く都心部オフィスの大量供給には要注意
国内REIT投信の昨年度の資金純流入額は、約2500億円(2010年4月~2011年3月、資金流入額100億円以上の投信の合計)。海外REIT投信の約2兆円に対して8分の1の水準であり、人気度では後れを取る。
ただ時価総額ベースの世界シェアから考えると、低水準とはいえない。国内REITの世界シェアは5.4%にすぎないからだ。シェア比以上に資金流入が進んでいるのは、自国資産に投資を振り向けるホームカントリーバイアスの影響もあろうが、海外REIT投信に比べて、国内REIT投信に妙味があるのも確か。米S&PのREIT指数で、2010年の日米のトータルリターンを比較すると、米国の上昇率は約13%に対して、日本は同32%になっている。
■震災よりも大きい懸念材料
リーマン・ショック後に荒れた国内REITの市場環境も落ち着きを取り戻している。6月初め時点の段階で、10年物国債と配当利回りとのスプレッド(利回り差)は、3~5%とリーマン前と同じ状況になっている。
リーマンショック後に1200から700ポイントに落ち込んだ東証REIT指数も、2010年11月から1000ポイント超えが続いていた。
2010年末からは、日本銀行が追加金融緩和策の一環から国内REITの買い取りオペを開始した。金融政策の下支え効果を期待して、今年中にリーマン・ショック前の1200ポイントまで回復するという見方も市場にある。
日本銀行のREITとETFの買い入れ推移(億円)
2010年5月に入ってからの公募増資の影響もあるが、REITのPBR(株価純資産倍率)は1倍程度。6月初め現在の時点での運用状況からは同1.2倍でも妥当で、そこから換算すると1200ポイントまでの上昇は考えられるとするのがその論拠だ。またリーマン・ショックでREIT投資を手控えてきた主要投資家の地方銀行も、消極姿勢を改めつつある。
ただ東日本大震災の発生で、「回復は半年ほどずれ込む可能性が高い」とみずほ証券の石澤卓志チーフ不動産アナリストはみる。
震災以外の懸念要因としてあるのが、2011年そして2012年と「東京都心部でのオフィスの大量供給」と不動産情報提供サービスを手がけるアイビー総研の関大介代表は指摘する。特に来年はSともAクラスと呼ばれる都心3区(千代田・中央・港)でオフィスビルが立て続けにオープンする。競争激化でREITの中でもマーケットへのインパクトが大きいオフィスREITの収益性が落ちれば、国内REIT投信の運用力にも陰りが出かねない。日銀の買いオペは2012年6月で終了の予定。こうした状況を考えると、2012年3月をメドに、投信の出口戦略を見極めることをアイビー総研の関さんは薦める。
毎月分配型 国内リート投信 ランキング
住信J-REIT・リサーチ・オープンの分配金履歴(2010年6月~2011年5月まで)
コスト、1万口当たりの分配金では当ランキング2位の「DIAM J-REITオープン」に劣るものの、分配金の安定性では2位に勝った。定性評価に参加した2人のプロから共に高い評価を得ており、なかでもこの投信のファンドマネージャーの手腕を高く評価するプロもいる。
DIAM J-REITオープンの分配金履歴(2010年6月~2011年5月まで)
ランキング1位の「住信J-REIT・リサーチ・オープン」と同様に2人のプロから高評価を得た。1位とのポイント差はわずか。1万口当たりの分配金は100円と1位の投信より35円高いが、その分、分配金の健全度ではやや劣る評価に。運用力で1位と肩を並べる
3位の「MHAM J-REITインデックスファンド(毎月決算型)」は、東証REIT指数との連動を目指すインデックス型投信。指数に占めるオフィスREITのインパクト度が大きいことを考えると、2010年から2011年にかけて都心部にオフィスが大量供給される影響を注視したい。一方、4位の「新光J-REITオープン」は2010年4月~2011年3月までの資金純流入額が410億円強と、国内REIT型投信の中では2番目に多かった。2010年10月に分配金を10円引き上げた効果が出た。インデックス型よりパフォーマンスが劣った点が運用評価に表れた。
配点比率の高い運用面で、上位投信に劣る評価となったのは、5位の「みずほ J-REITファンド」。下ぶれリスク(将来の一定期間における運用からの収益率が目標より下回る確率)で上位投信に比べて、わずかだが差が出た。「しんきんJリートオープン(毎月決算型)」の順位は6位となったが、5位との差はわずか。プロの評価で差が付いた。分配金が5位の投信に比べて1万口当たり10円高く、分配金の健全度評価でやや難があり、総合力と分配金利回りのバランスの悪さから要注意のマークが付いた。
(日経マネー 真弓重孝)
[日経マネー2011年8月号の記事を基に再構成]
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