10/05 寄せ木 システムも組織も 迷走みずほ〈上〉

写真:システム障害について説明するみずほ銀行の西堀利頭取(中央)=3月25日、東京都中央区拡大システム障害について説明するみずほ銀行の西堀利頭取(中央)=3月25日、東京都中央区

図:みずほグループの組織のイメージ拡大みずほグループの組織のイメージ

 金融庁「システムに関する総合的な危機対応計画がない。今の計画も意味をなしていない」

 みずほ銀行「対象範囲、リスクなどを入念に想定し、個々の対応を深く掘り下げ、計画を策定する」

 みずほ銀は2002年、前身の富士、第一勧業、日本興業の旧3行のシステムを統合した際もシステム障害を起こした。その際に金融庁の指摘を踏まえてまとめた約100ページの報告書には、今のみずほ銀にあてはまるような課題が並ぶ。

 なぜ、教訓は生かされなかったのか。

■義援金集中に無策

 障害は3月14日、東日本大震災の義援金の振り込みが特定口座に集中し、システムがダウンしたことがきっかけだった。

 「今回の障害は念頭には無かった」。記者会見した西堀利(さとる)頭取は義援金の集中が「想定外」と言わんばかりだった。

 だが、他の銀行は、事前に義援金専用の口座を作って容量の上限を無くすなどの対策をとったため、トラブルは起きなかった。みずほ銀はこうした措置をとっていなかった。

 「義援金に限った話ではない。大量振り込みが見込まれる時にどんな対応をとることになっていたのか。もっと前に障害が起きていてもおかしくなかった」。立ち入り検査を進める金融庁幹部はあきれる。

 判断も誤った。3月15日に障害発覚後、夜を徹してシステム復旧を進めたが追いつかず、夜間に給与振り込みや口座為替のデータを一括処理するのも滞った。未処理がたまっているのに窓口業務を1日止めて処理を終わらせる決断ができず、18日まで窓口で振り込みを受け付けたため、未処理件数が膨らんだ。

 「処理と業務が並走できると判断するのに、適切な手順を踏んでいなかったのではないか」。金融庁はこうみている。

■連携不全、混乱拡大

 今回の障害では同じグループのみずほコーポレート銀行の顧客企業が、みずほ銀に口座を持つ企業などに振り込めなくなる例が相次いだ。混乱の中、コーポ銀幹部はみずほ銀の支店に直接連絡して振り込みを急ぐよう求め、手作業で振り込みをする支店が出た。

 そこへシステムが復旧し、滞っていた元の振り込み指示も動き始めた。このため「二重振り込み」が起き、これを取り消す作業が必要になるなどして混乱が広がった。

 みずほグループは、持ち株会社のみずほフィナンシャルグループ(FG)のもと、みずほ銀が中小企業・個人向け、コーポ銀が大企業向けの業務を扱っている。足の引っ張り合いのような事態に陥ったことに、みずほ銀内からは「持ち株会社の経営陣は何をやっていたのか」との不満の声が噴き出している。

 みずほFG社長は旧第一勧業、みずほ銀頭取は旧富士、コーポ銀頭取は旧日本興業の出身。旧3行がにらみ合う構図で、人事や経営方針に統一感が薄い。

 その象徴がちぐはぐなシステムと危機対応だった。

 みずほ銀は旧3行のシステムをつぎはぎしてつくり、プログラムは古くて複雑なまま。新システムへの移行を急がなければならないのに、費用が巨額なこともあり、歩みは遅かった。

 金融庁「持ち株会社の統括責任を全うできなかった」

 みずほFG「効率的で実効性のある体制をつくる」

 02年の報告書はこう誓った。だが、約束は今のところ空手形に終わっている。

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■みずほ銀行システム障害の経緯

3月14日 東京都内の支店の2口座に義援金の振り込みが大量に集中

  15日 システム障害が発生し、現金振り込みが滞る

16~18日 全店窓口で振り込みが一時できなくなり、ATMも一時止まる

19~21日 3連休に全ATMを止め、店舗窓口で1人10万円までの引き出しに応じる

  22日 ATMが再稼働。店舗窓口もほぼ通常通りに

  24日 滞っていた現金振り込みの入金がすべて終わり、システム障害がほぼおさまる

 4月4日 金融庁が立ち入り検査。大量振り込みへの対策は全店に徹底されず。顧客には「徹底している」と説明するよう指示

  11日 原因解明や再発防止策を議論する第三者委員会を設置。全店に「通達」で大量振り込みの対策を徹底するよう指示

4月28日 原因分析や当面の再発防止策をまとめた行内の調査結果を金融庁に提出

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 みずほ銀行はなぜ大規模なシステム障害を繰り返したのか。迷走の背景を追った。(編集委員・織田一、大日向寛文が担当します)

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