みずほ銀行がシステム障害を起こした3月15日から約1週間後、あるメールが全国の支店長らに流れた。
「頭取の現場感あふれる強力なリーダーシップのもと、この困難を乗り切りましょう」「頭取に応援メッセージをいただける方があれば返信を。まとめてお届けします」
送り主は本部の役員。西堀利(さとる)頭取の応援を呼びかけたのだ。
直前の3連休には全国の現金自動出入機(ATM)が止まっていた。このため、東日本大震災の被災地でも必要なお金がATMから引き出せなかった。被災地にお金を送ろうにも現金振り込みも滞っていた。
支店では窓口で1人10万円までの払い出しに応じるため、行員が3連休も出勤し、顧客に頭を下げた。「それなのに頭取に応援メールとは情けない」。支店からは失望の声がもれた。
みずほグループは今の体制になった2002年以来、前身の第一勧業、富士、日本興業の旧3行出身者が、持ち株会社のみずほフィナンシャルグループ(FG)、傘下のみずほ銀、みずほコーポレート銀行の主要ポストをほぼ三等分してきた。グループ内での力を維持しようとそれぞれがテリトリーを守ることに力を注いだ結果、「内向き志向」が強まった。
障害が起きた3月15日は午前9時までに入金されるはずだった現金振り込みの処理が滞った。だが、公表したのは午後8時30分近くになってからだ。当初は振り込みの処理を「22日に終える」と説明したが、22日中には処理しきれなかった。これを明らかにしたのも翌23日深夜だった。
みずほグループ幹部は「システム障害の復旧に忙殺され、顧客への説明まで手が回らなかった」と話す。しかし、みずほ銀は今も障害の原因について詳しく公表していない。
3年前、グループの当時の首脳の一人が女性スキャンダルを起こしたことがある。取引先からは大銀行の経営者としての資質を問う声もあがった。だが、旧3行の一角の実力者だったため、グループ内では不問となり、発言力を維持した。
「間違っていても行内で力があれば乗り切れる、という企業文化。信賞必罰とはほど遠い」。ある金融庁幹部の印象だ。この文化は業績にも影を落とす。
みずほFGの10年4~12月期の純利益は4220億円。メガバンク3行のうち2行は5千億円台に乗せており、唯一届かなかった。純損益は08年3月期決算から3番手に甘んじている。
金融機関の経営を分析している外資系証券会社のアナリストは「旧3行の融和を重視して2バンク制(みずほ銀とみずほコーポ銀)にしているため、人員などが重複してコストが高く、縦割りで連携も不足している」と指摘する。
「お客さまの課題解決に向けて何ができるかを問いかけ、行動することが何よりも大切」。障害がほぼ収束した4月、みずほFGの塚本隆史社長は新入行員に「外向き志向」を訴えた。
みずほ銀は全都道府県に支店を構え、コーポ銀は上場企業の7割と取引があるとされるなど、経営基盤は広くて分厚い。内向き志向を脱して信頼を取り戻すのか、失敗を繰り返す芽を残すのか。多くの預金者や企業が注目している。
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