[FT]インドネシア投資の熱を冷ます保護主義政策



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2012/6/13 14:00
(2012年6月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 インドネシアは世界で最も魅力的な新興市場の一つだが、政府が外国資本による鉱山・銀行の保有制限、原材料の輸出禁止、食料の輸入制限といった新たな保護主義政策を相次いで打ち出したことから、その評判に傷がつき始めている。
■「新政策が経済成長の阻害要因に」
インドネシアのGDPは年平均6%近く伸びてきた(6月12日、ジャカルタ)=AP
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インドネシアのGDPは年平均6%近く伸びてきた(6月12日、ジャカルタ)=AP
 例えば、1月に政府は伝統産業のとう細工の材料となるヤシ科植物の輸出を禁止した。狙いは国内製造業の拡大と貧困層の雇用創出だったが、実際は逆効果だった。国内で消費される量は生産量全体の20%にも満たない。そのため大量の売れ残りが出て価格は下落、貧しい農家を直撃したのだ。
 仏系証券会社CLSAのエコノミスト、アンソニー・ナフテ氏は顧客向けのリポートで「以前は無益な政策も見過ごせたが、最近の相次ぐ新政策は投資を抑制し経済成長の阻害要因になる」と主張、2013年の成長見通しを7%から6.4%に引き下げた。
 インドネシアは豊富な天然資源と2億4000万人の国民の内需を支えにここ5年で国内総生産(GDP)は年平均6%近く伸びてきた。それに伴い、海外直接投資(FDI)は今年1~3月期に51兆5000億ルピア(55億ドル)を記録した。
 有力格付け会社の信用格付けでも、フィッチ・レーティングスは12月に、ムーディーズ・インベスターズ・サービスは1月に、それぞれインドネシアの「投資適格国」への昇格を発表。海外から安く融資を受けられるようになり、人気の高い投資先としての地位を固めた。
■海外企業の新規投資の延期も
 ただ、スタンダード・アンド・プアーズは4月に「政策のブレ」を指摘し、投資適格国への格上げを見送った。それを機に投資家は同国の現状に厳しい目を向け始め、海外のファンドマネジャーが株式・債券市場から資金を引き上げる動きが出ている。
 海外企業の一部が新規投資を延期するなど、すでに顕著なルピア安に一段と下落圧力がかかる。資金流出で外貨準備高は5月末には1115億ドルまで低下した。
 通貨安対策が期待される中で、中央銀行は12日、景気を下支えする目的で、政策金利を4カ月連続で過去最低水準の5.75%に据え置いた。
 JPモルガンでインドネシア・ファンドを運用するマネジャーは、急成長してきた同国の政策が放任主義から規制主義への「移行期」に入ったとし、「より厳しい内向きの政策が打ち出され、投資家は簡単に利益を上げられなくなる」と予想する。
 ジャカルタの政治アナリスト、ケビン・オルーク氏は、鉱山会社の外国人の株式保有に関する規制強化が実質的には海外からの新規投資を排除しかねないと危惧する。銀行に対する同様の規制案も出されており、シンガポールの最大手行DBSによるインドネシアの大手銀バンク・ダナモン買収の行く末が危ぶまれている。
 インドネシア小売業者協会のサトリア・ハミド代表は、果物や野菜の新たな輸入制限が食品価格を20%押し上げ、急成長中の小売業界が痛手を被る恐れがあると警告する。
■背景に大統領選に向けた勢力争い
 こうした措置の背景にあるのはユドヨノ大統領が退任する14年の大統領選に向けた激しい勢力争いとみられる。政府顧問のエコノミストは「好調な経済の成果をなぜ外国人が奪っていくのか」と国民は疑問を感じていると話す。
 ギタ貿易相は一部の政策に保護主義の傾向があると認めたが、政府の狙いは経済を深化させ雇用を創出することだとし、「バリューチェーン(価値連鎖)のより高度な段階を目指す努力と最近の政策は矛盾しない」と主張した。
By Ben Bland
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