05/08 [FT]リーマン・ショック時に酷似する欧州債務危機


[FT]リーマン・ショック時に酷似する欧州債務危機 

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2011/8/5 14:00
(2011年8月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 筆者は数週間前のコラムで、投資家は今年は長期の夏休みを取らない方がいいと警告した。
■首脳陣がいない間に市場乱高下も
欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は記者会見で、国債購入の再開を示唆した(8月4日、フランクフルト)=ロイター
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欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は記者会見で、国債購入の再開を示唆した(8月4日、フランクフルト)=ロイター
 残念ながら、それは正解だった。市場が米連邦債務の上限引き上げ問題が土壇場で解決し一息ついた直後に、欧州債務問題への警戒感から動揺し始めたからだ。この状況を「8月の呪い」と呼べるかもしれない。2007~08年(もしくは1997~98年)と同様に、首脳陣が不在で薄商いの間に市場が再び広範囲に乱高下する恐れがある。
 ニューヨークから見ると、欧州債務危機の展開は08年後半に米金融危機が起きた背景と恐ろしいほど似ている。いくつかの類似点を考えてみたい。
 ・ギリシャ国債の利回りが上昇し始めた時点では、ギリシャ政府の対外債務は2000億ユーロを下回り、世界市場に比べれば小さな国にすぎないため、多くの政治家と一部の投資家はこの問題を過小評価しようとしていた。同様に(経営破綻した)米リーマン・ブラザーズと米ベアー・スターンズの資産も米金融セクター全体からすれば小規模だった。
 ・問題の表面化を受けてユーロ圏の政治家は当初、支払い能力ではなく流動性が問題だと見なし、非難の矛先を「投機家」に向けた。政治家は厳しい決断を先送りするため、場当たり的な解決策を繰り返し表明した。これは頓挫したスーパーSIV構想など、米当局の07年後半の対応に似ている。小出しの対応は米国でもユーロ圏でも成功しないのは証明済みだ。対策を発表する度に市場に若干の安心をもたらすが、投資家はより包括的な解決策を強く求めているのだ。
■債務再編の容認で新たな段階に
 ・一部のユーロ圏首脳は今ではギリシャには債務再編が必要で、すべての投資家が常に救済されるとは限らないという、長い間否定してきたことを認めざるを得なくなった。ついに被害が投資家に及び始めたという点では、これは理にかなっている。だが一方で、これにより危機は新たな段階に達した。またしても08年の金融危機と同じだ。ユーロ圏各国政府の対応により、投資家は後戻りできない心理的一線を越え、リスクが無いように思えた資産に信用リスクがあることに気付いた。
 衝撃という点でこれは08年夏に米政府が連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)や連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)を公的管理下に置いた決断に匹敵する。不可侵の前提が覆され、投資家はもはや何を信用すればいいのかわからないのだ。
 ・当然、これにより不安が広がっている。ユーロ圏各国の国債を保有する投資家は(08年にファニーメイなどの債券を保有していた投資家と同様に)信用リスクを評価した経験など無い。そのため、どの国が「安全」で信用リスクを抱えているのか判断するのは困難だ。さらに、ユーロ圏域内の銀行間の複雑な相互関係を真に理解している投資家は(規制当局でさえ)ほんの少数にすぎない。問題は単に融資やユーロ圏国債の持ち高にはとどまらない。信用リスクを映すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保有高のデータは限定的なため、銀行の「一国全体」の実質投資額を把握するのは困難だ。
 ・不安の拡大に伴い、短期資金調達のリスクも再燃している。米ピーターソン国際経済研究所が指摘したように、ユーロ圏の構造により域内金融機関は短期資金の調達に大きく依存している。例えば、このほど欧州銀行監督機構(EBA)の資産査定(ストレステスト)を受けた域内90行は、今後2年間で欧州連合(EU)域内の国内総生産(GDP)の45%にあたる5兆4000億ユーロの債務借り換えをしなくてはならない。最近までは、ユーロ圏では債務不履行(デフォルト)は起きないとの暗黙のモラル・ハザードがあったため、こうした資金を回転させるのは簡単だった。だが今ではこうした前提は崩れ、資本逃避が加速するリスクが増している。08年のリーマンなどと同様に短期資金の調達が尽きる可能性もある。特に格付け各社の予想外の行動により、市場の不安は再燃しつつある。
■既視感が増しつつある
 では、欧州債務危機は08年の米国と同様に、本格的な金融危機に陥るのだろうか。投資家のパニックは拡大するのだろうか。
 リーマンの破綻後、ヘッジファンドの資産が英国で保護されなかったことを思い出してもらいたい。不透明な金融契約の例外規定が、時には非常に重要で予想外の結果をもたらすこともありうるのだ。
 欧州の債務危機は蒸し暑い夏を混乱の秋に陥れ、冬のように寒い打撃を「実体経済」に与えるのか。これが実現しないことを筆者は強く願う。だが現状に既視感が増しつつあることは誰も否定できない。
By Gillian Tett
(c) The Financial Times Limited 2011. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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