[FT]英ポンドは逃避先通貨であり続けるか



2012/6/18 7:00
(2012年6月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 比較的最近まで、英ポンドは欧州における一番の避難先と呼ばれていた。だが、その地位が崩れ始めている。
■主要通貨に対して弱含むポンド
イングランド銀行のキング総裁(5月28日、ロンドン)=ロイター
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イングランド銀行のキング総裁(5月28日、ロンドン)=ロイター
 14日には、イングランド銀行が金融政策の追加緩和に踏み切るとの期待感が広まる中、マーヴィン・キング総裁の講演を控え、ポンドに下落圧力がかかった。また、投資家はユーロ圏との緊密な貿易関係が英国にもたらすリスクにも注目し始めている。
 数週間前、状況はかなり違った。決着がつかなかったギリシャの選挙で反緊縮政党が議席を伸ばしたことで、ギリシャがユーロ圏から離脱しかねないとの懸念に火がつくと、外国人投資家は欧州内の避難先としてポンドに殺到した。
 5月半ばには、ポンドは対ユーロでリーマン・ブラザーズ破綻後の最高値をつけ、1ポンド=1.26ユーロに迫った。
 しかし過去1カ月間で、ポンドはドルや円、ユーロを含むすべての主要通貨に対して弱含んできた。
 イングランド銀行がポンド安を招いた面もある。中銀が4月に見せた予想外に強気な政策スタンスは、ポンドが欧州の他通貨に対して強くなる一因となった。だが、それ以降、イングランド銀行の金融政策委員会の9人の委員のうち2人が、公然と追加金融緩和について語っている。
■「嵐が大陸から向かってくる」
 投資家は、ある定義によれば再び景気後退に陥っている英国経済を支えるために、イングランド銀行が非伝統的な政策をさらに打ち出すことを期待してきた。投資家はまた、英国とユーロ圏の緊密な関係を強調するイングランド銀行の最近の発言にも留意してきた。ユーロ圏では債務危機が悪化し、9日にはスペインの銀行の救済が発表された。
 英国では財の輸出の45%、サービス輸出の31%がユーロ圏向けだ。クレディ・スイスの試算では、ユーロ圏向けの英国の輸出が10%減少すると、英国の国内総生産(GDP)は1%減るという。
 5月16日に「嵐が大陸から英国に向かってくるリスク」があると述べたキング総裁の警告は、今年の対ユーロのポンド高のピークと重なった。その結果、ポンドの弱気派が台頭してきた。
 「ポンドの安全な避難先としての地位は低下し始めている」。モルガン・スタンレーの為替ストラテジスト、イアン・スタナード氏はこう言う。ポンドは最近まで、純粋に避難先通貨に対する需要のみから、英国のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)と比べて不自然に高かったと同氏は主張する。
■ギリシャ選挙後にさらに下落か
 17日のギリシャの再選挙の結果にポンドがどんな反応を示すかについても激しい議論が交わされている。
 一般に受け入れられている見方では、再選挙後に金融市場が一段と下落し、ユーロ圏の投資家心理が悪化すれば、ポンドは上昇すると言われている。
 「ユーロ圏からの一層大規模な資本逃避が起きる状況に至ったら、ポンドが恩恵を受ける。一方、よろめきながら前進していくシナリオでは、ポンドは他通貨に後れを取り始めるだろう」と、モルガン・スタンレーのスタナード氏は言う。
 だが、HSBCのアナリストの意見は違う。彼らは、危機が大幅に悪化したら、英国経済も感染し始め、ユーロがポンドに対して強くなると見ている。
 HSBCのストラテジスト、ダラグ・マヘール氏は、理由の1つは、世界の銀行セクターに影響が生じた場合、それが英国経済にもたらす相対的なインパクトはユーロ圏経済より大きいからだと言う。
■投資家の懸念を示す動きも
 ポンドの取引のパターンに変化が生じている兆候も見られる。
 通常、ユーロがドルに対して下落する時(対ドル相場は単一通貨ユーロの強さを図るうえで最も広く使われる指標)には、ユーロはポンドに対しても下げてきた。投資家が安全な避難先としてポンドに流れ込むからだ。
 マヘール氏によると、ここ数週間はこの関係が薄らぐ兆候が見られ、ユーロが対ドルで下落しながらポンドに対しては上昇した日が何日もあったという。同氏の見るところ、これは投資家が感染が英国に及ぶ事態を懸念している兆しだ。
 一方、最悪のシナリオでも最良のシナリオでも、ポンドはユーロに対して強くなると見る向きもある。
 BNPパリバの為替ストラテジスト、スティーブ・セイウェル氏は、ユーロ圏の危機が悪化すれば、ポンドは避難先通貨として堅調な動きを見せるだろうし、危機が安定すれば、英国のファンダメンタルズはユーロ圏のそれより良いため、英国の資産が支持されると言う。
■相対的に強い英国債や株式
 差し当たっては、ポンドはまだ対ユーロで数年ぶりの高値に近い水準にある。また、英国の避難先としての地位はまだ、英国債市場にも顕著に見られる。
 ポンドが下落するにつれ、英国債の利回りが上昇(価格は上昇)したとはいえ、それでも英国債は最近、ほかの「避難先」資産より堅調に推移してきた。10年物の英国債利回りは6月に入ってから0.13%上昇したが、同じ10年物のドイツ国債の利回りは同じ期間に0.27%上昇している。
 この相対的な強さは、英国の株式市場にも表れている。世界の主要株価指数の中で、この1カ月でFTSE100種総合株価指数より下げ幅が小さいのは、スイスのSMI指数だけだ。
 「英国債は多少売られたものの、その他ほぼすべての資産よりはましだった」。ヘンダーソン・グローバル・インベスターズの債券担当ディレクター、ケビン・アダムズ氏はこう言う。「政府の信用力が乏しい世界では、英国債はまだ、ましな選択肢の1つとして突出している。英国は今も財政赤字削減にコミットしており、まだ紙幣を印刷することができるからだ」
By Alice Ross and Robin Wigglesworth
(翻訳協力 JBpress)
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