[FT]イタリアとスペインがユーロ圏を去る日



2012/6/19 7:00




 ドイツ連銀は、財政同盟ができるまでは銀行同盟はあり得ないと述べた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、政治同盟ができるまでは財政同盟はあり得ないと言った。そしてフランスのフランソワ・オランド大統領は、銀行同盟ができるまでは政治同盟はあり得ないと語った。彼らはあと10日間で、このもつれた結び目を解かなければならない。
■解決策を受け入れない独首相
メルケル首相はオランド仏大統領の提案に難色を示している(6月16日、ダルムシュタットでスピーチする同首相)=AP
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メルケル首相はオランド仏大統領の提案に難色を示している(6月16日、ダルムシュタットでスピーチする同首相)=AP
 興味深いのは、上記の発言はすべて、ある意味で正しいことだ。ただ、現実的な解決策を示したのはオランド大統領のみだ。危機の解決なくして、政治同盟はありえない。オランド大統領は、欧州安定メカニズム(ESM)が銀行へ無制限に資本を注入することを認め、ESMに欧州中央銀行(ECB)を通じた借り換えを許し、ECBに上位25行の大手金融機関を監督させるという具体策を提案した。これに対してメルケル首相は順番に「ナイン(ドイツ語でノーの意)」「ナイン」「ヤー(イエス)」と答えた。
 残念なことに、上位25行はこの問題には関係ない。重要なのは、その他の銀行だ。メルケル首相はオランド大統領の提案のうち、最も弱く、最も重要度の低い提案を受け入れたわけだ。
 様々な案が議論される中、現時点で何が必要かを理解することは極めて重要だ。スペインの銀行システムは、同国の銀行再建基金への融資経由ではなく、ユーロ圏から直接的な資本注入を必要としている。そうなって初めて、スペインのマリアノ・ラホイ首相は問題を掌握したと主張し、お得意のサッカー観戦に行くことができる。
 イタリアの問題に対処するには、欧州連合(EU)は同国の金利を引き下げる方法を見つけなければならない。金利引き下げは、次の3つのいずれかを通じてしか実現できない。ユーロ共同債、ECBによる国債の直接購入、ESMによる国債の直接購入だ。だが、イタリアは大きすぎて救済の傘に収まらないし、ECBは債務のマネタイゼーション(貨幣化)を望んでおらず、ドイツはユーロ共同債に反対している。
■首脳会議で合意できなければ破局へ
 順位付け問題の明白な解決策は、銀行同盟、財政同盟、政治同盟のすべてを実行することだ。これが実現する可能性はある。だが筆者の印象では、危機を解決できそうな提案をすべて拒否した時、メルケル首相は冗談を言っていたわけではなさそうだ。このため、次のEU首脳会議まであと10日の今、事態をあまり楽観できない。
 首脳会議で何の合意もなかったり、再び上辺だけのごまかしで終わったりしたら、一体どうなるのか?その場合、イタリアとスペインがユーロ圏から離脱すると筆者は考える。銀行同盟が通貨同盟の必要条件だったとして、銀行同盟は政治的に受け入れられないと言われたら、悲しいかな、通貨同盟は実行不能という結論しかない。軽い気持ちで言っているわけではない。ユーロ解体は破滅的な状況をもたらすだろう。
モンティ首相がいつまでもイタリアを運営できるわけではない(6月14日、ローマで記者会見に臨んだ同首相)=ロイター
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モンティ首相がいつまでもイタリアを運営できるわけではない(6月14日、ローマで記者会見に臨んだ同首相)=ロイター
■イタリアがデフォルトする事態も
 来週、何らかの合意がなければ、スローモーションで起きている銀行取り付け騒ぎが加速するだろう。外国人投資家が資金を引き揚げ、EUまでもが資本規制を導入する準備を進めている時に、一般市民が自分のお金を地元銀行に預けておかねばならない道理はない。市場金利は一段と上昇し、イタリア、スペイン両国が市場での資金調達の道を閉ざされるのも時間の問題になるだろう。
 ギリシャの場合、デフォルト(債務不履行)に最も適したタイミングは今ではなく来年だ。プライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)が、まだ赤字だからだ。ギリシャよりはスペインの方がデフォルトは理にかなっているが、まだその時期ではない。デフォルトが最も容易なのはイタリアだ。山のような債務を抱えているが、財政赤字は少ないからだ。金利が6%を超え、競争力が低下しているイタリアは、支払い不能に陥らずにユーロ圏内にとどまることは不可能だ。
■伊西より仏独にダメージ
 明らかに、マリオ・モンティ首相が離脱の引き金を引くことはない。そうした結末を避けるために同氏はイタリア首相に据えられた。だが、イタリア国内の政治情勢は変化している。ベッペ・グリッロ氏と同氏の率いるポピュリスト的な「5つ星の市民運動」がイタリア政界で台頭してきたことは、ブリュッセルに従順な実務家がいつまでもイタリアを運営できるわけではないと教えてくれる。「EUは制御不能で、ユーロは導火線がどんどん短くなるダイナマイトの入った箱だ。我々はその上に座っている」。グリッロ氏は自身のブログでこう書いた。
 仮にイタリアとスペインがユーロ圏から離脱すれば、両国は恐らく対外債務をデフォルトするだろう。そうなれば恐らく欧州の金融システムの崩壊を招く。システム崩壊は最終的にイタリアとスペインにも跳ね返るだろう。しかし皮肉なのは、イタリアやスペインの離脱は、両国よりもフランスとドイツにより大きな被害をもたらす結果になることだ。
 メルケル首相は、ユーロ圏と金融市場が競争していると述べた。この発言は、首相が今起きていることをはっきり理解していることを物語る。だが、それはメルケル首相にやらねばならないことを実行する意思があることや、実行できる立場にあることを意味しない。政治同盟に関するメルケル首相の発言は、危機解決の破滅的失敗から注意をそらす策略にすぎないように感じる。
By Wolfgang Munchau
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2012. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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