狙いは富裕層
【パリ=三井美奈】パリにアジア系高級ホテルが相次いで進出している。最新のフィットネス施設や通信環境、格式張らないサービスをアピールし、老舗の一流ホテルに対抗。富裕層の顧客獲得を競う「ホテル戦争」が過熱している。
香港系のマンダリン・オリエンタルは6月末、高級ブティックが軒を連ねるサントノレ通りに、フランスで初の系列ホテルをオープンさせた。デザイナーのココ・シャネルや英国の故ダイアナ妃が顧客だった老舗ホテル、リッツから徒歩数分の距離だ。
ホールに足を踏み入れると、床や壁を飾るクリスタル・ガラスの光に包まれる。自慢はパリで最大規模の900平方メートルのスパで、東洋式マッサージを受けられる。客室の3割をスイートルームが占め、浴室からエッフェル塔を見渡せるメゾネットタイプ340平方メートルの部屋は、1泊2万ユーロ(約230万円)だ。
「折り紙に着想を得た壁の装飾など、東洋らしさを採り入れた。アジア式のこまやかなもてなしを目指す」と広報担当のエミリ・ピションさんは話す。
香港系では昨年12月、シャングリラが、ナポレオンの親族の邸宅を改装したホテルをオープンさせた。ペニンシュラも2013年、パリ観光の目玉・凱旋門 近くに進出の予定だ。シンガポール発祥のラッフルズは昨年秋、米作家ヘミングウェーやチャーチル英元首相ゆかりの老舗ホテルを改装し、再オープンさせている。いずれもホテルの格付けで最高級の五つ星だ。
老舗も負けてはいない。仏政府は今年5月、プラザ・アテネやムーリスなどパリの4軒を含む8ホテルを、五つ星の中でも別格の「パラス(豪華ホテル)」に認定した。パラスは開業1年以上でサービスや施設に優れ、「仏文化の威光、フランスの魅力を高めるのに貢献している」ことが要件。国内の伝統ホテルの格式をアピールする狙いが濃厚だ。老舗ホテルでも流行に乗ってスパ増設が相次ぐ。
アジア系でも老舗でも、共通する狙いは、ロシアや中国など新興国の富裕層の獲得だ。米フォーブス誌によると今年、10億ドル以上の資産家は世界で1210人で過去最多。新たに名前があがった214人のうち、108人をロシア、中国、インド、ブラジルの新興4か国が占めたという。
コンサルティング会社MKGのホテル部門アナリスト、クルティム・ブルノーさんは「08年の金融危機後も新興国や中東で富豪は増加している。欧州の観光、商業の中心地パリで高級ホテル需要は高く、欧州進出に消極的だったアジア系が資金力をバネに市場開拓に動いている」と分析する。華麗な戦いは、さらに激しさを増しそうだ。
(2011年7月7日 読売新聞)
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