◇環太平洋パートナーシップ協定(TPP)とは
Trans-Pacific Partnershipの略。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国が06年に発効させた貿易や投資などを自由化する経済連携協定(EPA)が起源。農業分野を含め24分野が対象で、発効から原則10年以内に関税をほぼ100%撤廃する。米国、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシアを加えた9カ国が締結に向けて交渉を続けており11月の大枠合意、来年6月の合意を目指している。
【ホノルル平地修、野原大輔】13日閉幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)では、議長国の米国が主導する環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が交渉参加9カ国の大枠合意に至ったうえ、日本など3カ国が新たに交渉参加の意向を表明した。アジア太平洋圏の経済統合の動きは、米国を軸に勢いを増しつつあるが、成長の主要エンジンである中国は参加に慎重な姿勢を示しており、域内の主導権争いは続きそうだ。
「米国にとって最大の課題は雇用の創出だ。その最良の方法の一つが貿易と輸出の拡大だ」。APEC首脳会議閉幕を受け、オバマ大統領は議長国会見で国内向けメッセージを真っ先に送った。
米国は08年のリーマン・ショック後の景気回復がもたつき、9%台に高止まりする高失業率に国民が不満を強めている。来年の大統領選を控える大統領は「われわれの長期的な経済の将来を形作るのはアジア太平洋地域をおいてほかにない」と強調し、今回の会議の成果をアピールした。
オバマ大統領は09年の就任当初、TPPには積極的でなかったが、10年3月に交渉会合を開始してからは急ピッチで調整を進めている。自由貿易を促進することで、アジアの急速な成長を取り込み、自国経済の成長と雇用確保を達成することが最重要課題になっているためだ。
APECは域内全体を経済統合する「アジア太平洋自由貿易圏」の実現を目標に掲げている。その土台の一つに位置づけられているTPPには、カナダとメキシコも参加方針を表明した。日本も含めた3カ国が加わると、APEC21カ国・地域のうち12カ国に上る勢力となり、世界全体の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大貿易圏が誕生する。フィリピンとパプアニューギニアも交渉に関心を示しているという。
しかも米国にとって、GDPで世界3位の日本と輸出先で首位のカナダ、2位のメキシコの参加方針表明の意義は大きい。カーク米通商代表は「太平洋を横切る経済統合に向けた力強さの広がり」と高く評価した。
しかし、GDPで世界2位の中国は「誘われていない」とTPP参加に慎重姿勢を崩していない。中国政府高官は「数カ国だけで作られたルールであれば、従う義務はない」とTPPをけん制した。
ただ、中国もTPPを完全に排除する姿勢はとっていない。胡錦濤国家主席はホノルルでの講演で「ASEAN(東南アジア諸国連合)自由貿易圏やTPPなどを土台として、アジア太平洋の自由貿易圏建設を支持する」と表明。12日の米中首脳会談でTPPは協議されず、中国は米国主導のTPPがどこまで実効性を持つのか見極める姿勢だ。
◇最終合意へ難題なお
TPP交渉に既に参加している9カ国は12日の首脳会合で大枠合意に達したとの声明を発表し、交渉を加速させたい米国は来年中の最終合意を目指す考えだ。しかし、声明では、解決困難な課題がなお残っていることも示され、決着に向けては曲折がありそうだ。
9カ国は10年3月にTPP拡大交渉を開始し、これまで9回の会合を重ねてきた。大枠合意に関する米通商代表部(USTR)の報告によると、9カ国はTPPを「画期的な21世紀の協定」と位置づけ、鉱工業品や農産品の関税撤廃のほか、サービスや政府調達、知的所有権の保護など広範な分野を対象に、貿易・投資の促進と参加国の競争力強化を目指すとしている。
9カ国は来月の会合で来年の交渉スケジュールを決め、さらに、日本やカナダ、メキシコなど新たに交渉参加の意向を示した国と協議を進めていく方針。9カ国から交渉参加の同意を得て、新たに参加する国も含めて、交渉対象の21分野での最終合意を目指す。
ただ、今回の大枠合意では、詳細な合意項目や数値は示されなかった。これまでの交渉では、米国がオーストラリアと締結している自由貿易協定(FTA)で関税撤廃の例外としている砂糖などをTPPでも同様の扱いにするよう主張し、これにオーストラリアなどが反発するなど利害がぶつかり合っている。
それぞれの国の事情によって、関税撤廃などが難しい品目があり、9カ国の声明は「各国に慎重な扱いが必要な問題があることを認識」と指摘。最終合意に「自信を持っている」とするオバマ米大統領も「合意の難しさを低く評価してはいない」と認めている。大枠合意も「来年の大統領選を控えた米オバマ政権の政治的アピール」(日本の交渉筋)の色合いが濃く、9カ国の声明は「できるだけ早期に妥結する」と最終合意の時期は明言しなかった。
交渉参加国が増えるほど利害が錯綜(さくそう)し、最終合意のハードルも高くなりそうだ。
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