編集委員 藤井彰夫
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- 2011/11/21 7:03
藤井彰夫(ふじい・あきお) 85年日本経済新聞社入社。経済部、ニューヨーク、ワシントン、経済金融部次長、編集委員兼論説委員などを経て、09年9月から欧州総局(ロンドン)編集委員。内外のマクロ経済・金融を担当。著書に「G20~先進国・新興国のパワーゲーム」。
「現状は恐らく第2次世界大戦後で最も厳しい危機だ。ユーロが崩壊すれば欧州も崩壊してしまう」。ドイツのメルケル首相は14日の演説で欧州統合とユーロを守る決意を強調した。ユーロ圏の政府債務危機はギリシャから中核国のイタリア、スペイン、さらにはフランスなどにも広がろうとしている。メルケル首相の言葉とは裏腹に「ドイツは本当にユーロ圏を守る覚悟があるのか」という懸念が市場では広がっている。
ユーロ圏の国債価格の連鎖安がスペイン、フランスなどにまで広がるなかで、唯一安泰とみられているのが経常黒字国でユーロ圏の盟主であるドイツ国債だ。
月(国際) | 藤井彰夫 |
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火 | 竹中平蔵 慶大教授 |
水(企業) | 西條都夫 |
木(国際) | 脇祐三 |
金(企業) | 田中陽 |
■ギリシャ、イタリアは「EU管理内閣」に
そして今回のユーロ危機の収拾策でもカギを握るのが債権国ドイツの動向だ。債務危機に襲われたギリシャ、イタリアでは相次いで政権が崩壊、ギリシャでは前欧州中央銀行(ECB)副総裁のパパデモス氏、イタリアでは元欧州委員のモンティ氏がそれぞれ首相に就任した。いわばEU管理内閣の発足だ。
債務国がまず財政再建の努力をするのは当然だが、単一通貨圏を維持するには、お金を貸している側の債権国の責任も重い。ドイツがその責任を果たす覚悟があるのかという点が、今後の危機の行方を占ううえで大きな焦点になる。
問題は今のところドイツは「ユーロ圏の問題国は皆ドイツのようになれ」というだけで、自らは危機収拾に十分な負担をしたくないとみられることだ。ユーロ圏の安定には、最終的には通貨だけではなく財政統合あるいは財政連携も必要という見方は多い。だが、財政統合のイメージはドイツとそれ以外の国では大きく異なる。
ドイツは財政統合をする場合は、加盟国により厳しい財政規律の目標を課し、守れない場合は厳しい制裁措置をとることを求める。一方、債務危機に苦しむ周辺国が期待するのは、資金調達をユーロ圏で一本化するユーロ共同国債や加盟国間の財政移転だ。
「ユーロ圏の財布になれ」というような主張にドイツ国民が反発するのは理解できるが、一方で「皆が貯蓄して輸出に励め」というドイツの主張も現実的ではない。
■ドイツ国民に見えにくいユーロの恩恵
ユーロ圏内の経常収支はほぼバランスしている。ドイツが黒字を出せるのはユーロ圏内の赤字国がドイツからモノを買っているからだ。また、通貨の面でもドイツは恩恵を得ている。もし通貨統合をせずにマルクがドイツの通貨であったら、今、ドイツ国債が買われているようにマルクは急上昇していたことだろう。ユーロに入っているおかげでドイツは輸出に有利な通貨安を享受しているのである。
こうしたユーロの恩恵はドイツ国民にはなかなか見えにくいようだ。ギリシャなどへの支援でのドイツ政府の大きな分担だけが目立ち、「何で我々より働かないギリシャにお金を出すのだ」という不満が広がりやすい。だがユーロが崩壊した場合のドイツへの悪影響は計り知れない。ドイツの指導者は「ユーロを守る」というだけではなく、なぜユーロを守る必要があるのかということを国民にもっと丁寧に説明すべきだろう。
このことはユーロ圏に限らない。「なぜ消費税率引き上げが必要か」「なぜ環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に入るのか」といった日本の直面する課題にも共通している。
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