15/10 「マネーボール理論」と先駆者の苦悩(NY特急便)


NQNニューヨーク・森安圭一郎

2011/10/15 8:48
 14日のニューヨーク株式市場でダウ工業株30種平均は反発し、2カ月半ぶりの高値で終えた。9月の小売売上高の改善を受けて7~9月期の米実質成長率予測を引き上げるエコノミストが相次いだ。好業績を発表したグーグル株が6%上昇するなど来週ピークを迎える企業決算への期待も高まった。
 ブラッド・ピット主演の話題の映画「マネーボール」を見た。低予算のメジャーリーグ球団、オークランド・アスレチックスが独自の統計的手法を駆使して強豪チームをつくり上げ、有力球団を出し抜き快進撃を続けるという実話に基づいた作品だ。
5番街の「ユニクロ」には長蛇の列ができた(14日、ニューヨーク)
画像の拡大
5番街の「ユニクロ」には長蛇の列ができた(14日、ニューヨーク)
 打率や打点といった伝統的な選手評価の基準を信用せず、地味でも貢献度の高い戦力を探し出し、起用する。常識にとらわれない人材活用術は、限られた経営資源でいかに最大の成果を上げるかという点で企業経営に通じる。実際、2003年に出版された原作は経営大学院の教材になった。
 ただ近年の野球の現場では、その「マネーボール理論」は輝きを失っているという。アスレチックスは06年を最後に地区優勝から見放され、松井秀喜選手が在籍した今年を含め5年連続でシーズン勝ち越しなしの不振。「金持ち球団が秘密を見破ったからだ」(専門誌スポーツ・イラストレーテッド)。原作が有名になったことで他球団も同じ手法を取り入れ、以前のように埋もれた才能を安く雇えなくなった。
 どんな画期的なビジネスモデルでも、手の内が知れた瞬間から模倣される運命にある。「先駆者の苦悩」は、企業社会でも例に事欠かない。
 14日、世界のファッション中心地であるニューヨーク5番街の話題をさらったのは、カジュアル衣料品店「ユニクロ」の旗艦店開業だった。長蛇の列ができ、歩道からはみ出た人混みのおかげで交通渋滞が起きたほど。
 一方、ユニクロから50メートルの距離にある米「ギャップ(GAP)」の大型店。ジーンズ半額セールで迎え撃ったものの客足はさすがに見劣りした。
 ギャップは流行品を手ごろな価格で販売する製造小売り(SPA)の草分けで、ユニクロを含め業界全体の手本だった。だが度重なる経営陣交代で戦略が迷走する間にライバルのヘネス・アンド・モーリッツ(H&M、スウェーデン)などに国際展開で先を越され、売上高は世界3位に転落。株式時価総額もユニクロを展開するファーストリテイリングの半分だ。
「iPhone 4S」を求める客でNYのアップルストアには行列ができた(14日)=ロイター
画像の拡大
「iPhone 4S」を求める客でNYのアップルストアには行列ができた(14日)=ロイター
 ユニクロのお祭り騒ぎの陰で13日、苦戦する北米「ギャップ」店舗を2年間で2割減らすリストラ策を発表した。同時に中国の店舗拡大も掲げたが株価は反応薄。14日の東京市場で3%高となったファストリ株に比べ、市場は冷淡だった。
 もちろん攻め込む側も安閑としてはいられない。ファストリの11年8月期連結決算は国内事業が足を引っ張り4期ぶりの減益。米国など海外で存在感を高めるが、本国の日本では追われる立場だ。
 14日はたまたまアップルの「iPhone(アイフォーン)4S」の発売が重なり、5番街のアップルストアにも長い行列ができた。アップルもリサーチ・イン・モーション(カナダ)の「ブラックベリー」などが切り開いた高機能携帯電話の市場を研究し尽くし、後発ながら一気に市場シェアを高めた。
 主役の座を巡るせめぎ合いと、その結果生まれるイノベーション(革新)と新陳代謝が、米経済の活力を支えるのかもしれない。5番街の「新旧交代」をみながらそんなことを考えた。

No comments:

Post a Comment