政府・日銀が6年半ぶりの円売り介入に踏み切った。日本が直面するデフレ圧力と円高の悪循環をとりあえず押しとどめる姿勢を示したといえる。だが、世界経済の構造が大きく変化するなかで、日本が「買った時間」は長くはない。
菅改造内閣は円高に有効な策が打てるか(15日、首相官邸を出る野田財務相)
先週初め。財務省の玉木林太郎財務官はパリにいた。円売り介入の数日前。関係者は「一切答えられない」と口を閉ざすが、介入の事前了解を欧米から取り付けるべく動いていた可能性が高い。
13日、スイス・バーゼル。国際決済銀行(BIS)で開かれた主要国中銀総裁会議に白川方明総裁ら日銀首脳が出席していた。首脳らはここでも円高に苦しむ日本の現状を説明した形跡もある。
「協力してくれとは言わないが、黙認してほしい」。政府・日銀関係者と海外当局者の折衝は、介入が日本単独とならざるを得ない厳しい現実を映し出していた。
だが、日本が直面する課題は介入で解決できるほど甘くはない。同じような円高だった15年前と比べても、世界経済の構造変化は著しい。
通貨安競争誘う
国際通貨基金(IMF)によると2010年の世界の名目国内総生産(GDP、ドル換算)のうちBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の比率は16%強。1995年に比べて10ポイント近くも増えた。
08年9月のリーマン・ショック後、この傾向は一段と鮮明だ。新興国と対照的に米国は過剰消費のツケ、欧州は金融システム不安、日本は構造的なデフレ圧力にあえぐ。
世界経済の構造が変化するなかで、日本の円売り介入は国際社会の「通貨安競争」を助長するリスクをはらむ。
「あらゆる国にとって為替安定は重要だ」。中国の国営メディアは日本の介入を大きな扱いで報道した。日本に理解を示しつつ、人民元売り・ドル買い介入を正当化する狙いが垣間見えた。
中国だけではない。アジア諸国は自国通貨売り・ドル買い介入を繰り返し、外貨準備が急増している。1年前と比べた6月末残高は中国が15.1%増の2兆4543億ドル、台湾が14.1%増の3624億ドル、韓国が18.3%増の2742億ドル。リーマン・ショック前と比べると、韓国ウォンは日本円に対して46%、人民元は22%も減価した。
「(通貨安)ゲームを黙って観戦しているわけにはいかない」。ブラジルのマンテガ財務相は15日、日本の介入を批判し、レアル高阻止に向け強い決意を示した。
強いドル唱えず
輸出主導で新興国市場を獲得し、リーマン・ショックからの回復を目指す米オバマ政権は、15年前に当時のルービン財務長官が唱えたような「強いドル」をもはや口にしない。日本が介入した翌16日の米下院歳入委員会公聴会。「対等な競争環境をどうやって確保するか。中国だけの問題ではない」。ガイトナー現財務長官は強調した。
「近隣諸国に配慮した政策協調と通貨切り下げの抑制」。09年4月、20カ国・地域(G20)首脳会議の声明はこううたった。だが、いまの世界はG20声明とは異なる方向に動くリスクを抱えているようにみえる。
今回の日本の介入はそんな世界のリアリズムに呼応し、円高とデフレの負の相乗効果に歯止めをかけたとの評価もある。だが、「介入は一時しのぎ。成長力を引き上げる政策こそが重要だ」と日銀関係者は言う。
法人税制の見直し、サービス業の規制緩和・生産性向上、新規ビジネスの育成……。必要な施策を巡る議論は出尽くしている。後は、いつ何を実行するか。17日に発足した菅直人改造内閣が手をこまぬいていれば、市場は政権の本気度を再び試す動きに出るに相違ない。
source: nikkei
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