2008年9月15日のリーマン・ショックから2年が経過する。先進各国は緊急財政出動や金融緩和で危機を乗り切り、その後は中国など新興国の成長を取り込む形で回復過程に入りつつある。だが、日米欧とも過去の負の遺産が重く、新興国にもバブル化の懸念がつきまとう。
構造変化一段と
米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻を境に世界経済は冷え込み、09年の世界経済成長率は戦後初めてのマイナスを記録した。先進各国は09年を財政出動や金融緩和でしのぎ、ギリシャ危機をきっかけに深刻化した今春の欧州金融不安も資金供給の緊急避難措置で何とか乗り切った。
この間に世界は大きく変わった。先進国が財政悪化や過去の負の遺産にあえぎ低成長を余儀なくされるなか、中国をはじめとする新興国は世界経済のけん引役すら期待されるようになった。株価の変化がそれを物語る。
自動車市場でみると、世界の構造変化が一段とはっきりする。米調査会社によると、世界の自動車販売台数はリーマン・ショック後にピーク時に比べて15%落ち込んだが、10年1~6月期には2年前と同水準まで回復した。これを支えたのが中国で、同期の新車販売台数は2年前比7割増の約900万台となった。
国際通貨基金(IMF)によるとドル換算した10年の名目国内総生産(GDP)見通しは世界合計で61兆7800億ドルで、2年前に比べて5600億ドル程度増。内訳を見ると、先進国は7100億ドル減の41兆5600億ドルだが、新興・途上国は1兆2700億ドル増の20兆2200億ドルだった。
各国は新興国市場の取り込みに躍起で、世界では輸出が有利になるような「通貨安競争」も起きている。かつて「強いドルは国益」と言い続けた米国はもう「強いドル」を口にせず、金融不安を抱える欧州はユーロ安もあって輸出が好調だ。
金融緩和余地が限られるうえ、日米関係が基軸の日本は円売り・ドル買い介入にも踏み切りにくく、結果的に円の独歩高を招いている。構造的なデフレ圧力が残る日本には、厳しい戦いだ。
「低迷10年続く」
世界経済はどうなるのか。先月末、米連邦準備理事会(FRB)のラインハート元金融政策局長とその妻のメリーランド大教授の共作論文が話題を集めた。米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれたシンポジウムに提出され、「崩落の後で」と題されていた。「過去の大不況などから類推しても、金融危機後の経済低迷は10年は続く」。論文は指摘する。
背景にあるのが日米欧の負の遺産だ。米国は過去の過剰消費に伴う個人などの債務、欧州は金融システム不安、日本は構造的デフレ圧力がのしかかる。日米欧は現段階で合計約1兆ドルの需要不足(供給過剰)状態との試算もある。
特に住宅バブルの崩壊などで打撃を受けた欧米は日本の1990年代にも似て、実体経済と金融システムが「負の相乗効果」をもたらす懸念がある。経済協力開発機構(OECD)は9日、日米欧の成長率を5月時点から軒並み下方修正した。
一方の新興国。引き締め気味の政策に転じたとはいえ、中国などでは不動産バブルの恐れが消えない。80年代の日本、90年代以降の米国と二重写しになる。投機マネーが流れ込む他のアジア諸国にも危険は潜む。
先進国のデフレと新興国のバブルという逆方向の懸念を抱えながら走る世界経済。リーマン・ショックを境に顕在化したその姿は、世界が単線的な成長路線に戻るわけではないことを示しているように見える。
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