ウクライナ 「オレンジ革命」の遺産を守れ(2月12日付・読売社説)

 脱ロシア、親欧米を目指した「オレンジ革命」後の歳月は、失われた5年となるのだろうか。

 ロシアと欧州連合(EU)に挟まれたウクライナで、親露派のヤヌコビッチ前首相が大統領に当選した。国民は5年前、一度は当選者とされた同氏の選挙不正を糾弾した。オレンジをシンボルカラーにしたデモや集会で再選挙を実現し、現ユシチェンコ政権を誕生させた。

 その街頭行動で退けた人物を、国民は5年後、大統領の座に就けたのである。

 「革命」の主役だったユシチェンコ氏は今回、第1回投票で退場し、革命時の盟友だったチモシェンコ首相は決選投票で敗れた。

 ユシチェンコ政権はロシアの影響下から逃れようと、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を急いだ。だが、ウクライナ経済の生命線を握るロシアの対抗措置に苦しめられた。天然ガスの供給停止や価格引き上げである。

 さらに、一昨年来の世界同時不況が追い打ちをかけた。欧米の金融機関が資金を一斉に引き揚げ、経済は破綻(はたん)寸前となった。革命の主役たちはこの間、政争に明け暮れ、有効策を打てなかった。

 国民はその未熟な政治に失望した。そして、ロシアを敵に回しては立ちゆかない国の現実を認めざるを得なかったのだろう。

 チモシェンコ首相は今回も、選挙に不正があったとして、選挙結果を認めない意向を示している。だが、国際監視団は適正な選挙とみており、支持者の間にも、5年前のような憤怒や熱気はない。

 EUも選挙結果を「民主化の成果」と認める声明を出した。欧州諸国はエネルギー確保や安全保障の観点から、自らもロシアと良好な関係を築く必要がある。ウクライナの不安定化は望まない、とのメッセージだった。

 ヤヌコビッチ氏は、NATO加盟申請の撤回、ロシア黒海艦隊の駐留期限延長、ロシア語の公用語化を進めると公言している。

 しかし、かつてハプスブルク帝国に属した西部を中心に、欧州への帰属を求める住民は多い。ロシア寄りへの急旋回は、国家分裂の危機を招きかねない。新大統領には均衡ある舵(かじ)取りを望みたい。

 旧ソ連や東欧の一部では、統制経済から市場経済への移行期に、国の富が一部の者に独占されるという歪(ゆが)みが生じた。ウクライナでも公平な富の分配は実現していないが、国民は「革命」で、言論の自由は獲得した。その遺産だけは守り抜いてほしい。

(2010年2月12日01時05分 読売新聞)

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