一人っ子政策のあおりで急速な高齢化が予測される中国。巨大市場での需要拡大を見越し、介護サービス事業に乗り出した日本企業がある。うたい文句は「日式(日本式)介護」だ。
■一人っ子政策 高齢化加速
「気持ちいいねえ」。中国・大連の港が見える高層マンションの21階で、認知症の金粉善さん(79)がベッドに腰掛け、笑みを浮かべた。介護ヘルパーの張学兵さん(23)に、体をタオルで拭いてもらっていた。
ヘルパーを派遣するのは「大連維斯福祉商務咨詢」(大連ウイズ)。埼玉県と神奈川県を中心に約100の介護施設を運営する「ウイズネット」(さいたま市)と、現地国営企業との合弁会社で、10月に事業を始めた。
人口抑制のため、1979年から一人っ子政策を続ける中国は、日本以上の速さで高齢化が進むとされる。民間調査機関のニッセイ基礎研究所が国連統計(推計)をもとに計算したところ、中国の65歳以上の人口は、2010年が約1億1千万人で全体の8%。20年は12%、40年には23%に達する見通しだ。
ウイズネット社長の高橋行憲さん(57)は04年、初めて大連を訪れ、介護需要の可能性に気づいた。養老院を見て回ると、設備は劣っていて、職員の介護知識も乏しいと感じた。
日本も高齢化で介護市場の拡大が続くが、競争は厳しい。紙おむつや電動ベッド、きめ細かなサービスなど、日本式の介護事業を中国で広めたいと思った。
最初に手をつけたのが、ヘルパーの育成。日本の教本を翻訳して無料セミナーを開き、応募者約40人のうち5人を採用した。張さんもその1人だ。
訪問介護は1時間10~30元(1元=約12円)で、主に中間所得層が対象。利用者数はまだ1ケタだが、ヘルパーが足りないためで、需要は十分あるという。
今後の柱は施設の運営。大連市から「養老サービスセンター」の開設許可を受け、市中心部から車で約20分の高台で、元病院施設の改修を進めている。来年2月の開設を目指す。
通所介護事業を展開し、現地ではなじみのない送迎サービスも始める。市から高齢化対策のモデル事業と位置づけられたという。リフト車は豊田通商から仕入れる。販路を広げようと日本の関連企業の関心も高い。
■100兆円産業の可能性
高橋さんは、大連市のある遼寧省など3省で5年以内に、同様の施設を600カ所開くのが目標だ。「中国での介護ビジネスは100兆円産業に育つ可能性がある。日本の優れたやり方を売り込むことは、日本にも大きなメリットがある」
中国市場への参入は、徐々に広がりつつある。
「ロングライフホールディング」(大阪市)は合弁会社をつくり、青島に11月、高級有料老人ホームを完成させた。27階建てのビルでプールや医療施設を備え、入居保証金は約200万元。富裕層の取り込みを図る。今後10年で約100カ所に増やすのが目標だ。
グループホームなどを展開する「メディカル・ケア・サービス」(さいたま市)も7月、ホーム運営に向け、上海の企業と合弁会社設立の契約を結んだ。13年8月の開業を目指す。
介護業界最大手「ニチイ学館」(東京都)の子会社は来年、上海に新会社を設け、車いすや介護用ベッドなどを販売する計画だ。
ある会社の担当者は「日本では介護保険や補助金に依存せざるを得ないが、制度が変われば収益に大きな影響がある。中国での展開は、将来的なリスク分散の狙いもある」と言う。
〈記者の視点〉なるか輸出の柱 国の後押しがカギ
中国の家族構成は「4・2・1」と言われる。1人の子どもに両親、さらに祖父母という意味だ。一人っ子政策が始まった頃に生まれた世代は30代前半を迎えた。今後、親の介護の負担は重くのしかかるだろう。
中国では介護事業に関する制度や補助金が省や市で異なるといい、日本からの参入はまだ少数のようだ。ただ、昨年6月に菅直人政権が発表した新成長戦略では、アジアでの介護事業について「高い成長が見込まれる」と明記された。輸出産業の柱に育てるには、国の後押しや研究も必要だと思う。(平林大輔)
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