26/09 UBSの巨額損失事件、増幅する欧州への恐れ  編集委員 小平龍四郎



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2011/9/26 7:01
小平龍四郎(こだいら・りゅうしろう) 88年日本経済新聞社入社。証券会社・市場、企業財務などを担当。2000年~04年欧州総局(ロンドン)で金融分野を取材。現在、経済金融部編集委員兼論説委員。
小平龍四郎(こだいら・りゅうしろう) 88年日本経済新聞社入社。証券会社・市場、企業財務などを担当。2000年~04年欧州総局(ロンドン)で金融分野を取材。現在、経済金融部編集委員兼論説委員。
 最近はドイツやフランスなどユーロ圏の銀行ばかり注目していたので、巨額損失の一報が非ユーロ圏のスイスから飛び込んできた時には少し慌てた。UBSの31歳のトレーダーが会社に無許可の不正取引で20億ドル規模の損失を出した事件だ。
関連記事
・9月12日ロイター「JPモルガンCEO バーゼル規制は『反米的』、脱退検討を」
・9月13日日経朝刊8面「英、銀行規制見直し最終報告 商業銀を投資銀から分離」
・9月15日FT電子版「ならず者を遮断するのは当然のことだ」(Of course it's right to ringfence rogue universals)
・9月16日日経朝刊8面「UBS、1500億円損失 トレーダーが不正取引」
・9月20日ニューヨーク・タイムズ・ディールブック「トレーディング不祥事で加速するUBSの変革」(Trading Scandal Could Hasten Changes at UBS)
・9月20日日経夕刊3面「ウォール街ラウンドアップ 不正取引に揺れる金融株」
今週の筆者
月(市場)小平龍四郎
竹中平蔵
慶大教授
水(企業)西條都夫
木(経済)滝田洋一
金(企業)田中陽
 報道によれば、この青年はガーナ出身で、英国の名門大学を卒業後、UBSに入社。学生時代に修めたコンピューター・サイエンスの知識を生かしてトレーダーの道を順調に歩んでいた。リーマン・ショック前のシティ(英金融街)を肩で風を切って歩いていた、利発で上昇志向の強そうなタイプを想像してしまう。
 株価指数先物や上場投資信託(ETF)の取引をしていた彼がどうやって損失を膨らませたのかは、まだ明らかになっていない。様々なブログには「組織の責任を1人で背負わされたのだろう」といった、同業者からと見られる書き込みもある。今後の社内外の調査で真相が明らかにされるのだろうが、現時点ではギリシャ危機に揺れる欧州の金融界に、不透明な要因が1つ加わった格好だ。
 米株式市場にとっても「欧州」は最大の火種だ。バンク・オブ・アメリカの北米エコノミスト、イーサン・ハリス氏は「ユーロ圏のインフルエンザ」と題するリポートで、欧州要因が米国株に与える影響を検証している。
■下落する米株式市場、「欧州」が最大の火種に
 2010年以降でS&P500種株価指数の騰落率の絶対値が最も大きかった10回の事例を抽出すると、そのうち6回は下落だった。要因を見ると、6回の下落の中で米国債格下げの懸念による1回を除き、残りの5回はすべて欧州の債務危機や金融システム不安によるものだった。
 ハリス氏は米投資家にとって欧州は分かりにくい部分が多いとしたうえで、「株価急落の一因は、未知に対する恐れによるものだ」と結論づけた。米市場関係者にとって目下の最大の「恐れ」はギリシャの債務不履行だろうが、急に表面化したUBSの巨額損失も欧州への「恐れ」を増幅させるのに十分だ。
ロンドンの金融街シティにあるUBSの拠点=ロイター
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ロンドンの金融街シティにあるUBSの拠点=ロイター
 この事件は別の意味でも米欧の金融機関にとって痛手となりかねない。リーマン・ショック後の金融規制の強化を徹底する根拠として利用される可能性があるからだ。UBSの巨額損失が判明する直前には、米JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)が厳しい資本規制を課すバーゼル3に猛然と反論を試み、「バーゼルからの脱退」まで示唆している。
■金融規制強化に追い風
 さらに英国では、投資銀行業務の損失が商業銀行に及ばないように組織を分けるringfenceという規制案が発表された。これについては反対論も根強いが、UBSの不正取引は規制支持派を「それ見たことか」とばかりに勢いづかせかねない。フィナンシャル・タイムズ紙のコラムニスト、マーチン・ウルフ氏は「(規制の必要性を示してくれて)ありがとう、UBS」とまで書いた。
 金融規制については、主に景気への配慮から行き過ぎを戒める意見も多い。米国ではすでに成立している金融規制改革法(ドッド・フランク法)を骨抜きにするためのロビーイングも活発だ。しかし、グローバル金融の風向きはまだ、規制強化を後押しするように吹いている。UBSが損失発生前に明らかにしているような1000人単位の投資銀行部門の人員削減も、加速していくのだろう。

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