05/09 野田政権誕生は内需株に逆風か



証券部 浜岳彦

(1/3ページ)
2011/9/5 20:04
 5日は米景気への懸念が広がり、日経平均株価は続落。ほぼ1週間ぶりに8800円を割り込んだ。一服感が出てきたとはいえ、なお1ドル=76~77円近辺にへばりつく円高・ドル安を嫌気して自動車や電機株が売られる一方、小売りや鉄道など内需株は底堅かった。花王など日用品株も日経平均に比べた下げ幅は小さく、ひとまずディフェンシブ銘柄の面目を保った格好。だが市場関係者がひそかに懸念しているのは、野田佳彦政権との相性のようだ。
 野田首相といえば、財務相時代に政府税制調査会のトップとして税制改革案を取りまとめ、8月末の民主党代表選でも増税路線を貫いた。もちろん増税に批判的な党内勢力との調整など課題はあるが、今後、消費税引き上げなどの議論が進む可能性がある。
 政府は2010年代半ばまでに消費税を10%まで段階的に引き上げる方針。個人消費とかかわりの深い内需企業には影響を与えそうだ。消費税率が3%から5%に上昇した1997年は東京・大阪地区にある百貨店の年間売上高が2年ぶりに前年割れとなった。価格を消費税込みで表示する制度が義務化された04年には小売店からメーカーなどへの値下げ要求が強まり、「単価が一気に5%下がった」(ライオンの藤重貞慶社長)。今回は税率引き上げのタイミングなど読み切れない部分はまだ多いが、小売りもメーカーも政権の動きを注視している。
画像の拡大
ただ企業によっては、必ずしも消費税率引き上げが株価の足かせになるとはいえないようだ。例えば、ユニ・チャーム。97~99年の株価をみると右肩上がりで上昇。確かに増税によって国内の紙おむつ販売は一時苦戦したが、インドネシアなど東南アジアに現地法人を相次ぎ設立し、新興国シフトを鮮明にして乗り越えた。当時は100億円強とみられたアジアの売上高はいまや1000億円を突破。「グローバル市場の開拓に打って出た内需企業は中長期でみると、増税など国内の逆風を打ち消す底力がある」(大和証券キャピタル・マーケッツの広住勝朗シニアアナリスト)といえそうだ。
 株価の伸びではユニチャームに及ばないが、日本たばこ産業(JT)も同様に“グローバル型内需企業”と言えそうだ。消費税率が引き上げられた後の98年3月期は販売が落ち、減収減益となったが、99年の米RJRインターナショナル、07年の英ガラハーという巨額買収で新興国銘柄に変身。最近は20年以上の内戦を経て分離したスーダンと南スーダンのタバコ会社を買収する予定で、利益の約半分を海外のたばこ事業で稼ぐ事業構造をさらに強化する戦略を採っている。
 同じ内需系でも、国内での収益依存度が高い企業は消費税率の引き上げの影響が株価の足を引っ張る可能性がある。高島屋は昨年ニューヨークの店舗を閉鎖する一方、アジアシフトを進めている。ただ海外売上高比率10%未満という構造は長年変わっていないため、メーカーに比べて出遅れ感が強い。同じ内需系でも「税率引き上げ時に選別の対象になりうる」(外国証券)との声もある。
 では、税制改革のもう一つの目玉である法人減税はどうだろうか。こちらは歓迎の声があがっている。内需企業といえども、経営指標や株価を海外勢との比較で語られることが多くなってきたからだ。
 「彼らの高い利益率は税率の低さにも起因している」と話すのは、ユニチャームの高原豪久社長。高原社長が引き合いに出すのは、中国の紙おむつ事業で2位を争う現地の恒安国際集団だ。恒安集団が展開する中国本土の法人税率は25%、香港は16.5%。日本(実効税率40.7%)に比べて半分近い水準。恒安集団の売上高純利益率は約18%(10年度)とユニチャームの倍近くあり、税率の差が利益率の差につながっているといえる。
 インドネシアなど新興国で激突する米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)も同様だ。米国の税率は35%(連邦法人税率)。さらにP&Gは税率の低い海外での事業を拡大し、実質的な税負担率を近年20%台に抑えている。ユニチャームも負けじと海外展開だけで10%前後の税率引き下げ効果を生んでいるが、お膝元である日本の高い税率がなおネックとみている。
 税負担を最小限にとどめれば、自己資本利益率(ROE)などが上昇し、日本企業を見る投資家の目も変わる可能性がある。新政権の税制改革は財政健全化という問題にとどまらず、内需株が国際競争力を高められるかどうかという課題も背負っている。