16/09 [FT]スペイン貯蓄銀行の業績が急速に悪化

2010/9/16 14:00
(2010年9月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 スペインの金融システムの約半分を占める未上場の貯蓄銀行(カハ)の今年上半期の利益が急速に落ち込んでいる。スペイン経済の低迷により、各行が多額の貸倒引当金計上や資産の減損処理に動いているためだ。

 スペイン貯蓄銀行協会(CECA)が15日に公表したデータによると、金融危機を受け、持ち株会社18社に再編されつつある貯蓄銀行42行(小規模行を除く)とCECAの今年1~6月期の純利益の合計は前年同期比29%減の25億4000万ユーロ(33億ドル)に落ち込んだ。


今年1~6月の税引き前利益33%減


 粗利益は同15%減の148億3000万ユーロにとどまったが、経費はほとんど削減されず、貸倒引当金の計上と資産の減損処理が50億ユーロ近くに達したため、税引き前利益は33%減の30億3000万ユーロとなった。

 しかし、こうした悲観的な数値でさえ足元の現実に比べればまだ明るい。多額の不良債権を抱えて倒産の危機に陥り、スペイン中央銀行の管理下に置かれたカハ・カスティーリャ・ラ・マンチャとカハスールの2行は今回のデータから除外されているからだ。

 さらに、CECAが公表した上半期の利益の約3分の1はバルセロナに拠点を置く貯蓄銀行最大手ラ・カイシャが計上している。

 CECAのホセ・アントニオ・オラバリエタ会長は、今回の統計の対象となった貯蓄銀行はすべて6月30日時点で利益を上げており、7月のリスク資産に対する不良債権比率が5.3%とこの1年で小幅な上昇にとどまったことが奏功し、今年末にかけても引き続き黒字となるとの見通しを述べた。

 だが、上場商業銀各行のアナリストや幹部は地域金融機関である貯蓄銀行の資産の質について懸念を抱いている。スペインの金融システムはサンタンデール、BBVA、ラ・カイシャなど堅調な銀行と、質の低い不動産に融資し、欧州中央銀行(ECB)からの公的資金に依存する小規模の貯蓄銀行とに二極化しつつあるという。


人件費の削減進まず


 カバードボンド(金融債)の発行など、このところの企業向け市場での流動性回復の恩恵を受けているのは、資本基盤が比較的強固な金融機関に限られている。

 ある商業銀関係者は「貯蓄銀行はスペイン中銀から統合に追い込まれたのに、何も対策を講じていない」と述べ、合併した貯蓄銀行が経費削減にほとんど手を付けていないことに不満を漏らす。CECAによると、貯蓄銀各行は支店閉鎖のペースを弱める一方で、今上期の人件費はほとんど削減されていないという。


By Victor Mallet


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15/09 [FT]「9.11」より「9.15」の方が世界を変えられた理由

2010/9/15 0:00
(2010年9月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 米国は今月、2つの悲惨な記念日を迎える。「9.11」と「9.15」である。ハイジャックされた航空機が世界貿易センタービルに突入して3000人近くの命を奪い、米国と世界の関係を変えてから10年近い歳月が流れた。一方、リーマン・ブラザーズの破綻が世界金融危機の引き金を引き、大恐慌再来の懸念を引き起こしてから2年たつ。


「一極支配の瞬間」の終わらせた金融危機


 2つの出来事はニューヨーク・マンハッタンから数マイルの範囲で起きた。いずれも世界を一変させた。だが、歴史書が書かれる時に、より重要な出来事に見えるのはどちらだろうか?

 筆者の推測では、最終的により重大に見えるのは金融危機の方だ。これは奇妙な判断に思えるかもしれない。何しろ多くの米国人にとって、9.11は決定的に1つの時代の終わりを告げるものだった。ソ連崩壊から対米テロ攻撃までの10年間にわたるギャツビー流の華やかなりし時代が恐ろしい終焉(しゅうえん)を迎えたのだ。

 アフガニスタンとイラクでの2つの戦争は、9.11のテロ事件から直接生じたものだ。米国は、今日まで続く好戦的イスラム主義との戦いと「対テロ戦争」に乗り出した。

 これに対して、リーマン破綻が引き起こした最悪の懸念は現実にはならなかった。大恐慌は起きなかったし、経済には成長が戻ってきた。過去30年間の巨大なトレンドであるグローバル化が覆されることもなかった。

 それでも筆者は、経済だけでなく地政学の面でも、より大きな転換点は金融危機だったという結果になると思う。というのは、間違いなく「一極支配の瞬間」の終わりを告げたのは、9.11ではなく9.15だったからだ。


自国の力の限界、強く意識した米


 2001年に起きたニューヨークとワシントンに対する攻撃は恐ろしい出来事だったが、世界の政治、経済制度における米国支配体制を揺るがしはしなかった。逆に、米国の力を改めて断定する動きにつながった。世界の反対側では、2つの政権が相次ぎ倒された。イラクおよびアフガン戦争の直後、ジョージ・ブッシュ大統領率いる米政権とその支持者たちは、かつてないほど米国の力をはっきり確信した。

 「一極支配の瞬間」という言葉の生みの親である保守派コラムニストのチャールズ・クラウトハマー氏は、イラク戦争の勝利を受け、「いかなるライバルにも妨げられることのない唯一の超大国が支配する世界」をたたえた。

 2008年になると、イラクとアフガニスタンでの初期の軍事的勝利が、それほど決定的ではない、挫折感を抱かせるような何かに取って代わられたことがはっきりした。しかし、米国の経済力はまだ、世界における同国の政治的地位に確かな基盤を与えているように見えた。

 金融危機はほぼ間違いなく永遠に、その前提を変えてしまった。米国は危機の余波で、自国の力の限界を強く意識するようになった。バラク・オバマ大統領はアフガニスタンへの米軍増派を発表した時でさえ、「我々には到底、これらの戦争の費用を無視する余裕はない」と懸念を表明した。今後、国防費は削減されることになる。


中国問題に気づかされた米国人


 米国は以前より自国の力の限界を意識するようになっただけではない。潜在的なライバルの強さもはっきり意識するようになった。経済危機の初期の数カ月間は、世界は同時不況に陥るというのが一般的な見方だった。ところが実際には、中国とその他のアジア新興国は、米国やその他西側諸国よりもずっと早く回復を遂げた。

 米国人は金融危機によって、「中国問題」は遠い未来に向き合うものではなく、今現在起きているということに気づかされた。中国経済の規模が米国経済を上回るのは恐らくまだ15年以上先のことだが、いくつかの重要な点では、中国は既に優位に立っている。

 中国は世界最大の外貨準備を抱えている。世界最大の輸出国であり、鉄鋼の生産量と温暖化ガスの排出量でも世界一だ。中国は世界最大の自動車市場でもある。今ではインドやブラジルをはじめ、世界の重要な新興国にとっての最大の貿易相手国にもなった。

 今のところ、太平洋地域の中国の「裏庭」でさえ、米国が依然、支配的な国家だ。だが今後数年で、太平洋における米国覇権に対する中国の挑戦が始まるだろう。こうした新たな対抗意識は既に米中間の緊張を高めている。米議会で保護主義的な法案を通そうとする今の取り組みを見ればいい。


21世紀がアジアの世紀になる可能性


 9.11と9.15の激動は、米国の力に対する異なる挑戦を示すものだった。イスラム過激派の闘争性は今も、多大な被害をもたらす可能性がある。だが、今後1世紀の大きな地政学的トレンドは、グローバルなイスラム統治圏の創造だとする考えは(ワジリスタン地域と米国のラジオトーク番組では人気のある意見だが)、途方もない空想だ。

 現代性に対処していくうえで、ウサマ・ビンラディンの原理主義以上にふさわしくない思想はなかなか思いつかない。実際、9.11がもたらした皮肉な結果は、それが米国に、間違った脅威との戦いに資源をつぎ込むことに大事な10年を費やす決断を下させたことかもしれない。

 これとは対照的に、ちょうど20世紀が米国の世紀だったように、21世紀がアジアの世紀になる可能性は十分あるように思える。

 今の勢力シフトの土台となっている経済的な変化は、世界金融危機の前から着々と進んでいた。しかし、危機は恐らく、西側支配の衰退を白日の下にさらし、加速させた瞬間として記憶されることになるだろう。最終的に9.15の方が9.11よりも重大かもしれないのは、このためだ。

By Gideon Rachman


(翻訳協力 JBpress)


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14/09 [FT]欧米銀、厳格な国内規制を警戒

2010/9/14 14:00
(2010年9月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

スイス・バーゼルにある国際決済銀行(BIS)=AP

 新たな銀行の自己資本規制案が合意された。新規制案の内容が予想より緩やかだったため株式市場では銀行の株価が上昇しているが、英米やスイスの主要銀行は国際規制を上回る内容の国内規制が施行される可能性に神経をとがらせている。


自己資本比率、7%に引き上げ


 バーゼル銀行監督委員会を構成する27カ国は12日、2019年までに狭義の中核的自己資本比率を現行の2%から実質7%に増やすよう義務付けることで合意した。中核的自己資本比率は、将来起こりうる損失に備えて銀行が蓄えておく優良金融資産の割合を示す数値だ。

 各国の規制当局や業界団体は、今回の合意は、始まったばかりの景気回復を損なうことなく金融危機の再発防止に向かって歩み出すための重要な一歩と評価している。

 市場も新規制案を好感し銀行株が買われた。自己資本比率の状況が特に良好と判断された仏ソシエテ・ジェネラルや米JPモルガンの株価は午前中だけでそれぞれ4.3%、3.7%上昇した。

 しかし今回の合意に批判的な専門家らは、ドイツや他の国々の合意を取り付けるため、自己資本の定義や実施の日程、資本比率全体が骨抜きになったと指摘する。また流動性の水準に関する新ルールの施行を2015年まで延期したことで金融システム危機にさらすとの声もある。

 リード・スミス法律事務所のジャッキ・ハットフィールド氏は「規制当局が金融セクターの圧力に屈した印象だ。合意された中核的資本比率では次の金融危機には対処できないだろう」と語る。


規制の運用、国によりぶれる恐れ


 新規制施行までの期間が長いことや、いくつかの国がより厳格な規制を望んでいたことを率直に認めたことで、国によって規制の運用がまちまちになったり、各国の規制のズレをついた銀行経営がなされたりすることに対する懸念も生じている。米英やスイスに拠点を置く大手銀行はより厳格な国内規制にさらされることへの不安を隠さない。

 スイスの規制当局が伝統的に適用する国際基準に上乗せした厳格な規制、いわゆる「スイス・フィニッシュ」や、英当局が幹部報酬に関する規制などに熱心なことが銀行の心配の種だ。また米当局が規制の実施を前倒しする可能性や、より厳格な規制を求める米議会の圧力に直面することなども懸念材料だ。

 これらは、すでに自己資本状況が良好な米欧銀行に対し株式の買い戻しや増配などを求めている投資家との摩擦の種になる可能性もある。

 アナリストはおおむね今回の合意を「良性」と判断している。しかし、ドイツの公立銀行は、新規制案は資本増強のスピードが速すぎて国内経済に悪影響を与える恐れがあると批判している。


by Brooke Masters, Jennifer Hughes & Nikki Tait


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source: nikkei

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21/09 [FT]アイルランド中銀総裁、一層の歳出削減求める

2010/9/21 14:00
(2010年9月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

記者会見で発言するアイルランド中央銀行のパトリック・ホノハン総裁(8月20日、東京=ロイター)

 アイルランド中央銀行のホノハン総裁は、同国の経済運営への国際的な信頼を回復するには、政府がさらに厳しい予算削減に取り組む必要があると述べた。

 20日に首都ダブリンで開かれた会議でホノハン総裁がこう語ったのは、国内総生産(GDP)比10%余と欧州連合(EU)最大の財政赤字を抱えるアイルランドに対して、市場の懸念が強まる一方だからだ。


借り入れコスト再上昇、上乗せ幅4%超え


 1年前、当時の与党フィアナ・フォイル(共和党)を中心とした連立政権は、EU諸国の先陣を切って財務問題に真剣に取り組む姿勢を示し、世界の称賛を集めた。公務員給与を平均15%カットし、子ども手当などの給付金を減額して数十年ぶりの厳しい予算を組んだ。

 ところが今ではギリシャやポルトガルと並んで、ユーロ「周辺国」の中でも際だって脆弱(ぜいじゃく)な国となっている。不動産・金融業界の不振から国家財政が破綻の危機にひんし、経済の回復もおぼつかない。

 中銀総裁が来年度予算に警鐘を鳴らしたのは、注目される21日の国債入札を前に同国の借り入れコストが再び上昇した事情もある。

 10年物アイルランド国債は20日、投資家の警戒感を反映して利回りが6.53%に急上昇。10年物ドイツ国債に対する利回りの上乗せ幅(スプレッド)は4%を超え、1999年の単一通貨導入以来、最高水準となった。

 スプレッドの拡大は、アングロ・アイリッシュ銀行救済など主要銀行の資本増強で政府の負担が増え、財政赤字削減が進まないとの市場の懸念を表している。アイルランドの財政赤字はGDP比で11.6%に達し、ユーロ圏最大だが、すでに国内各行に注入した250億ユーロ(330億ドル)を加算すると、この数字はGDP比30%に跳ね上がる。

財政赤字削減「踏み込んだ策必要」


 政府は来年度に向け、追加策としてGDP比およそ2%に相当する30億ユーロの歳出削減と増税を計画している。

 しかしホノハン氏はここ数週間で「実体経済、価格水準、国債の利回りが総じて不利な方向に進んだ」ため、2014年までに財政赤字をGDP比3%に圧縮する目標を達成するにはもっと踏み込んだ削減策が必要と強調した。

 さらに同氏は「政府の借り入れコスト低下で財務改善をより迅速にすすめ、さらに社会全体にもたらすコストも低下させるという好循環を生み出すことが大事だ」とも述べた。

 だが、予算編成前の省庁間の駆け引きが始まるなかで、今までより厳しい予算を組めば、消費者の購買力が減退し、経済成長を阻害すると指摘するエコノミストも多い。アイルランド経営者団体IBECを代表するダニー・マッコイ氏は、政府が真に取り組むべき課題は消費支出の回復だと語る。

 同氏は「家計にお金はあっても予算削減や銀行の処理コストの大きさにおびえているのが現状。30億ユーロより削減額を増やすべきでない理由は、消費者に与える心理的影響が強いことだ。用心のために貯蓄する家庭が増え、逆効果になるだろう」と指摘した。


独立した財政監視機関の設立必要


 一方、労働組合も予算削減による経済活動への影響に懸念を示す。アイルランド労働組合会議の主任エコノミスト、ポール・スウィーニー氏は「すでに失業率が上昇し、政府の歳入が減り、企業の閉鎖が相次いでいる。政府の削減策は行き過ぎではないか。これ以上削減すれば、国全体がデフレ・スパイラルに陥ってしまう」と言う。

 これに対して、仏ソシエテ・ジェネラルの金利調査部門責任者キアラン・オヘイガン氏は、市場がアイルランドの信用度を評価する場合、経済成長予測は「二の次」で、「これから数年間に公的債務がどれだけ増加するか」が関心の的だと指摘する。

 同氏の考えでは、政府が単に支出を抑え込むより、構造改革計画を公表することで市場からの信認度は高まるという。具体的には、退職年齢引き上げの法制化、不動産税の導入、英予算責任局(OBR)のような独立した財政監視機関の設立といった対策が求められる。


by John Murray Brown


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source: nikkei

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21/09 検証・円高対策 日銀はなぜ後手に回ったのか

2010/9/21 7:00

 「対応が遅い」「対策が足りない」――。円相場の急上昇で、政府や産業界から不満の声にさらされた日銀。15日に踏み切った円売り介入で円高は一息ついたものの、今後も予断を許さない情勢。与党内からは「日銀法を改正せよ」との声もあがる。なぜ日銀は後手に回ったのか。

為替との「距離」に腐心

 「我々は為替相場の直接のコントロールは任されていない。その役目を担うのは財務相の為替介入だろう」。


 急激な円高に見舞われた日本。批判の矢面に立たされることが多かった日銀の「機動的」とは言えない対応の根底にあるのは、日銀幹部が語るこんな思いだ。

 米景気の先行き不安が増すなかで、米連邦準備理事会(FRB)は利上げの模索を封印し、金融緩和路線に転じた。8月10日には金融緩和維持へ追加措置を実施。米長期金利が低下したことで、日米金利差の縮小観測から円高に弾みがついた。

 「日銀の金融緩和姿勢が足りないから円高になる」。8月以降は、こんな日銀への不満が膨れあがっていった。

 日銀幹部が語るように、円高を直接食い止めることは日銀の業務ではない。日本では、財務相が介入の権限を持ち、タイミングや金額を決定する。日銀はその指示に基づき、通貨の売買の実務を遂行することになっている。

 日銀の立場からすれば、円高が企業マインドを冷やし、景気自体を下振れさせるリスクが高まりそうになって初めて、追加緩和などの対応が検討の俎上(そじょう)にのぼる。

 ただ、日銀が「為替相場との距離」をつかみかね、金融政策の検討が遅れていたのは確かだ。

 慎重な姿勢の背景には過去の経緯がある。1971年のニクソン・ショック、85年のプラザ合意――。日銀は急速な円高が進むたびに政治圧力に押され、金融緩和を推し進めた。しかし、これがその後のインフレやバブルを助長した面は否めない。

 白川方明総裁は「低金利が将来にわたって継続するとの予想は、バブル発生の必要条件である」(16日の講演)との主張を繰り返す。日々変動する円相場に「振り回されすぎてはいけない」との主張は正論ではある。

 だが、円高の影響の見極めがつくまで待つと、どうしても判断が遅れがちになる。どんどん進む円高と、その影響を見極めるまでの時間。そのタイムラグが、日銀と市場、政治、産業界との間に大きな溝を生む。

 「待ちの姿勢」自体がさらなる円買いを呼び込む悪循環を「もっと早期に食い止めるすべはあったのではないか」。行内でもそんな声はある。

「政治からの独立」も遅れ招く

 日銀がようやく追加緩和の検討に本腰を入れ始めたのは、8月下旬以降。円高を嫌気して株安がとまらなくなってからだ。日経平均株価が9000円台を割り込み、企業マインドの悪化が現実味を帯び始めていた。

 このタイミングまでずれ込んだのは「政治との距離」に縛られたことも要因にあげられる。「政治からの独立」へのこだわりが早期の対策に二の足を踏ませた。


日銀の金融緩和などを巡る最近の動き
8月11日 円相場、1ドル=84円台後半に急伸
8月12日 野田財務相が円高けん制、日銀は総裁談話
8月23日
菅首相と日銀総裁が電話で協議
8月24日 円相場が15年ぶりに83円台に上昇
8月25日 野田財務相、円売り介入辞さない姿勢示す
8月26日 日銀の白川総裁、米国出張に出発
8月27日 菅首相「総裁と会い、金融緩和に期待」と発言
8月29日 白川総裁、出張予定を1日早め帰国
8月30日 日銀臨時会合、追加緩和を決定
同 政府が経済対策の方針策定、首相と総裁会談
9月7日 日銀会合で現状維持も「必要時に適切対応」
9月14日 円相場が一時82円台まで急伸
9月15日 政府・日銀、6年半ぶりに円売り介入を実施
同 日銀総裁談話、介入資金の放置姿勢示す
9月17日 日銀が介入資金を活用、市場の資金量2兆円増

 8月初旬、日銀と首相官邸は同月の中旬をメドに菅直人首相と白川総裁との会談を調整していた。日銀は当初、通常の定期会談の一環として前向きに応じていた。だが、事前に日程を含めた会談の予定が外部に漏れ、市場やメディアが騒ぎ出すと一転、会談を渋り始める。両者は23日の電話協議でしのいだが、たった15分とあって市場の失望を生み、かえって円高を加速させた。

 「総裁は首相と会うたびに追加緩和という“お土産”を持ってくる」。複数の関係者によると、日銀はこんな構図を避けようとしたという。

 “お土産”は昨年12月にあったばかり。当時の鳩山由紀夫首相と総裁が会談する前日に臨時会合を開き、追加緩和を決めたという経緯がある。こうしたことを繰り返すと独立性を大きく傷つけるという判断だ。

 しかし、この判断は逆に独立性を脅かすことになる。円高基調が止まらず、より強い政治圧力を呼び込むことになったからだ。

 当初、9月6―7日の定例会合での追加緩和を模索していた日銀。そのわずか1週間前、8月30日に臨時会合を開くことを政治の力で余儀なくされた。




白川総裁は、ゼロ金利や量的緩和政策に慎重

 「日銀総裁が(米国出張から)帰国され次第お会いし、機動的な金融政策の実施を期待する」。8月27日の菅首相のこの一言が決定打となった。出張中の総裁は帰国を1日早め、帰国の翌朝に臨時会合を開くドタバタ劇を演じるはめになる。民主党代表選に小沢一郎氏の出馬がとりざたされ、菅首相が実績づくりを焦ったことが大きいとされ、日銀の「独立」は大きく揺らいで見えた。

 それでも動き始めた日銀。ここでは「白川理論」が自らを縛った。

完ぺきな理論が足かせに

 8月30日の臨時会合で決めたのは、金融機関に低利で資金を供給する「固定金利オペ」の拡充。これに対し、市場の反応は冷淡だった。予想の範囲内の措置だったため、円高は止まらない。そして9月6―7日の定例会合。円高は続いていたが、一段の追加措置は見送った。「必要と判断される場合には適時・適切に対応する」と追加緩和を示唆したものの、「緩和に消極的」との印象をぬぐい去るには至らなかった。

 重い腰をあげた日銀だったが、中身が「小出しにすぎる」との批判が高まった。

 「ゼロ金利は副作用が大きい」「量的緩和政策の景気刺激への効果は限られる」――。白川総裁が常々発する「理論」が「小出し」の背景にある。

 理論派でならす総裁。バブル崩壊後、日銀が様々な非伝統的な金融政策を進めてきた経緯を日銀の中枢で身をもって体験してきた。集大成として京大教授時代には「現代の金融政策~理論と実際」という大著を残した。

 完ぺきに構築された理論体系が「逆に新しい挑戦の足かせになっている」(エコノミスト)。こんな指摘がたびたび聞かれる。

 「理論」に沿う範囲で残る数少ない緩和カードを温存したいという姿勢が「小出し批判」につながっているのは間違いない。「有効な手立てがない」。日銀幹部はこう口をそろえる。

 ただ、ここに来て変化の兆しも出てきた。

緩和姿勢アピールに変化も

 政府・日銀が6年半ぶりに踏み切った15日の円売り介入。日銀は金融市場に出回る介入資金を吸収せず、事実上、放置する「非不胎化」の措置をとる意向を示した。金融緩和を強めて円安効果を補強する役割があるとされ、市場で注目を集めた。

 実は「非不胎化の議論は無意味」というのが日銀の本音だ。

 介入では政府の代理として日銀が民間銀行からドルを買うことで、市場に円資金が出回る。ところが、政府は最終的に介入に必要な円の資金を市場から吸い上げて調達する。介入で出回る円資金を日銀が放置しても、結局は市場の資金量には影響しない。資金供給を増やすことにはならないのだ。

 「白川理論」からすれば、意味の見いだしにくい話といえる。さらに市場では「為替相場」との距離が近い政策とみなされる。政府の介入と一体化した対応は独立性の観点から異論もありうる。

 それでも、あえて「非不胎化」をちらつかせるのは緩和姿勢をアピールしたいという日銀の強い意志の表れといえる。

 「厳密な議論をしても仕方ない」。白川総裁は割り切ったとされる。

 では、日銀はこれから大胆な金融緩和策に踏み出せるようになるのか。それを占ううえで、「政治との距離」は今以上の意味を持ちそうだ。

新たな政策運営の模索不可欠

 政治の圧力はじわじわと日銀法改正論議へと発展しそうな気配をみせている。小沢一郎氏は民主党代表選の最後の演説で日銀法改正に言及した。詳細は不明で、日銀内では「国会議員票を集めようとした結果」との見方がもっぱらだが、法改正論者が党内で無視できない勢力になっていることの証しでもある。

 あるエコノミストは「政治の無策、機能停止の裏返し」と指摘する。明確な哲学を欠いた法改正は、議論次第で将来の悪性インフレを招くような無軌道な金融緩和を強いられかねない危うさをはらむ。

 内政だけではない。グローバル化の進展で瞬時に巨額のマネーが世界を駆け巡り、各国は国を挙げて自国通貨安を原動力に景気浮上を目指す競争を繰り広げる。新たな競争軸に合わせた新たな政策運営の模索は不可欠。日銀が大きな岐路にさしかかっているのは確かだ。

(大塚節雄)

source: nikkei

08/09 展望欠く日銀の金融政策  竹中平蔵 慶大教授

2010/9/8 7:00

竹中平蔵(たけなか・へいぞう) 73年日本開発銀行入行。大阪大助教授、慶大教授などを経て01年経済財政・IT担当相、02年経済財政・金融担当相。04年参院議員。経済財政・郵政民営化担当相、総務・郵政民営化担当相を経て慶大教授兼グローバルセキュリティ研究所所長。09年パソナグループ会長に就任。


 民主党代表選の陰に隠れた形になったが、8月30日にようやく日銀が行動を起こした。日銀は金融政策決定会合を開き、期間3カ月の資金を政策金利で供給する「固定金利オペ(公開市場操作)」の供給額を10兆円増額(期間も延長)するなどの金融緩和措置を決定した。9月7日の決定会合では「適時適切に政策対応する」方針を示し、追加金融緩和に含みを持たせた。しかし一連の措置に対しては、極めて厳しい評価をせざるをえない。


関連記事 ・8月30日日経朝刊1面「日銀きょう臨時会合」
・8月31日日経朝刊5面「誤算の日銀、追い込まれ」
・9月1日日経朝刊3面「円高・株安 流れ再び」
・9月2日日経朝刊5面「新設オペ 効果限定的」

“誤算”を積み重ねた日銀の政策決定


 日銀の政策決定に至る経緯が報告されているが、いくつかの“誤算”の積み重ねであったことがわかる。そもそも8月10日に定例会合が開かれ、政策の維持が決定された。しかし同じ日に、米連邦準備理事会(FRB)が金融緩和に動いたという評価が広がったことで、円高が加速したのだ。

 次に8月半ばに、菅直人首相と白川方明日銀総裁のトップ会談の予定が事前に漏れるという事態が生じた。結局これがうまくまとまらず、円高は一層加速。さらに民主党代表選のなかで、菅首相が経済対策作りを急ぎ、日銀にも歩調をあわせるよう期待を表明した。その結果、日銀は臨時会合を30日のタイミングで開催せざるを得なくなったのである。

 しかしながら、及び腰の日銀をあざ笑うように、31日には円高・株安の流れが再び加速。政府・日銀の対応策の効果は、わずか1日しかもたないという悲惨な結果に終わった。

 さらにその後、日銀は期間6カ月の資金を金融機関に供給する固定金利オペを初めて実施したが、市場にはさらなる金融緩和を待つ姿勢が強く、応札額は限定的だったという。

 このような状況下で、関係者の間では政府と日銀に対する批判以上に、むしろ嘆きとあきらめの気分がまん延している。しかし今、世界の主要国が「日本型デフレ」に陥ることを懸念しているなかで、日本の対応に改めて注目が集まっているのだ。政府と日銀は態勢を立て直してデフレ克服に断固たる姿勢を示さねばならない。デフレがあるからこそ実質金利(名目金利マイナス物価上昇率)が高止まりし、結果的に円高が続いている。


デフレ克服への姿勢が見えない日銀


 今回の対応ぶりから明らかなように、日銀の行動は政治的な批判をいかに回避するか、に偏っている。中央銀行として、どのようにデフレを解消したいと考えているのか、何ら展望は見えない。リスクをとってでも積極的にデフレを克服しよう、という姿勢自体が伝わってこない。今後、民主党代表選を経てどのような政権ができようとも、日銀の行動原理自体が変わらない限り、「日本型デフレ」の解消は期待できない。

source: nikkei

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14/09 「亀井モラトリアム」で延命する中小企業  編集委員 滝田洋一

2010/9/14 7:03

滝田洋一(たきた・よういち) 81年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ駐在などを経て95年経済部編集委員。07年論説副委員長。米州総局編集委員を経て09年9月論説副委員長兼編集委員に復帰。マクロ経済、金融を担当。08年度ボーン・上田国際記者賞受賞


 円高による景気失速懸念がくすぶっているが、正直言って一番分からないのが景気の肌触りや実感だ。

 内閣府が8日発表した8月の景気ウオッチャー調査(街角景気)では、景気の現状判断を示す指数が前月に比べて大幅に悪化した。落ち込み幅は過去最悪だった2009年11月のドバイ・ショック以来の大きさだ。

 円高・株安による企業心理の冷え込みが響いているという。街角景気はいわば居酒屋の景況感なので、それだけ悪くなると街角に悲鳴が木霊していておかしくない。その割に世の中は静かだ。



関連記事 ・9月9日日経朝刊5面「街角景気が大幅悪化 8月4.7ポイント低下」
・9月9日日経朝刊4面「負債100億円超の倒産ゼロ 8月20年ぶり」
・8月31日日経朝刊4面「返済条件緩和、6月末39万件 金融庁」

大型倒産、8月は20年ぶりゼロに

 同じく8日に東京商工リサーチが興味深い集計を発表していた。8月の全国企業倒産状況によると、負債額100億円以上の大型倒産が1990年9月以来、約20年ぶりにゼロになったというのだ。負債額10億円以上の倒産も大幅に減り、全体の負債総額も1889億円と、19年10カ月ぶりに2000億円を下回った。悲鳴が聞こえないのも、むべなるかな。

 この辺の事情を察知してか、「日本企業は実は円高抵抗力を高めている」とか「今の円高は物価変動を差し引いた実質ベースでみれば大したことがない」といった議論が聞かれる。

 日経平均株価が一時9000円を割ったことからみても、いかにも強がりめいている。そう思って、東京商工リサーチや帝国データバンクの分析をみると、意外な答えが記されていた。

 亀井静香前金融担当相の肝いりでこしらえた中小企業金融円滑化法が、カンフル剤になったというのだ。同法に基づく借り入れ返済条件の緩和で、多くの企業が資金繰り破綻を免れた。

 今年上半期(1~6月)の倒産が5989件にとどまり、前年同期比14.7%の大幅減になったとする帝国データバンクによれば、「金融機関は積極的なリスケ対応により多くの企業が資金繰り破綻を回避、先送りしているのが現状」である。リスケとは借り入れの条件変更のこと。

 同法による中小企業向け融資の返済条件緩和は6月末時点で実に39万件、金額にして13兆3959億円に達している。菅直人首相が円高対策で後手後手に回る。そんななか、「亀井モラトリアム(一時的返済猶予)」とも呼ばれた、前金融相の置き土産が日本経済の底割れ防止に一役買ったともいえる。

 同法が11年3月末に失効したあとも、返済条件緩和の扱いは継続される見通し。ただ、そうした対応が延命措置にすぎないことは、当事者の常識である。「年内は倒産状態の小康状態が続くことも考えられるが、大企業に比べて業況改善が遅れる多くの小規模企業にとって時間的な猶予はそれほど多くない」

 帝国データバンクはそう指摘したうえで、「改正貸金業法の完全施行が零細企業に与える影響も決して小さくない」と警告する。中小企業金融円滑化法で助けた資金繰りを、改正貸金業法の完全施行で締めるようなら、それこそ政策効果の行って来いではないか。

 「雇用、雇用、雇用」と呪文(じゅもん)を唱える前に、ちょっと前に実施した政策の効果をきちんと測定するのが、政府の仕事のはず。民主党代表選が終わり、政局が落ち着いたら、さっそくその基本に戻り、中小企業を強くする策を練って欲しい。

source: nikkei

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ソロス流の社会的責任投資とは  編集委員 梶原誠

2010/9/16 7:02

梶原誠(かじわら・まこと) 88年日本経済新聞社入社。ソウル、ニューヨーク、証券部編集委員、論説委員を経て09年から米州総局(ニューヨーク)編集委員。興味分野は「市場に映るものすべて」。

 著名投資家のジョージ・ソロス氏は、世界的な慈善家としても知られる。特徴は2つの顔を完全に使い分けること。投資家として冷徹に運用益を上げ、もうけを社会貢献に回してきた。


関連記事 ・7月5日日経夕刊7面「社会問題ビジネスで解決?(ニッキィの大疑問)」
・7月14日毎日新聞朝刊「ユニクロ、グラミン銀行と合弁会社」
・9月14日日経朝刊15面「市場立国・米国の賭け(一目均衡)」


 それだけに気になっていたのは、同氏が今年、SKSマイクロファイナンスというインド企業の株式を買ったニュースだ。SKSはインドで貧困層の女性に融資する銀行。これまでの原則を破り、インドの貧困解消を投資で支援したいのでは、という疑問がわく。

 先週ソロス氏に尋ねたら、こんな反応だった。「投資家として運用益を極大化したいだけ。ビジネスモデルが気に入った。株価はまだ魅力的(割安)だ」。

 あっさり否定されたわけだが、この答えには「社会的責任投資」の本質が隠れている。社会に貢献する企業は長い目で見れば成長し、株を買った投資家の利益にもなるという考え方だ。

 社会的責任投資の対象は、環境に配慮するなど社会との共生を目指す企業。だが、そのための費用がかかるため、手っ取り早く収益を上げて欲しい投資家には根付きにくかった。投資で社会に貢献したいという強い意志あっての、慈善色の濃い手法ともいえた。

 しかし、経営者や投資家が長期的な視点に関心を持ち始めたことで、風潮は変わってきた。例えば今、「ソーシャルビジネス」が頻繁に報じられている。非営利組織(NPO)が主役だった貧困や教育などの社会問題を、企業が営利目的で手掛けるようになった。

 7月には「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが話題をさらった。貧困層への融資で知られるグラミン銀行と組み、最貧国のひとつであるバングラデシュで衣料を製造・販売する。

 雇用創出や生活水準の向上という社会貢献はもちろんだが、目標は収益でもある。「(人口約1億6000万人の)バングラデシュは将来、巨大な市場になる。将来のユニクロファンを作る」と柳井正会長兼社長の視野は長い。


リーマン・ショックで企業と社会との「共生」に目を向け始めた投資家


 短期的な視野に疑問符がついたきっかけは、2008年のリーマン・ショックだった。ウォール街の金融機関は目先の収益にこだわる投資家の求めに応じ、短期的な市場シェア競争に明け暮れた。共振が限界に達した結果が、歴史的な不況の引き金を引いたリーマン・ブラザーズの破綻だ。生活を傷つけられた人々は怒り、ウォール街は今も信頼の低下に悩んでいる。

 危機と同時に企業の持続可能性(サステナビリティー)が話題になったのは偶然ではない。手間をかけてでも社会と共存しないと企業が永続できないことに、経営者も投資家も気づきはじめた。

 ソロス氏がほかの投資家と違うのは、社会的責任投資などという特別な言葉を使わないところ。ソーシャルビジネスが利益を生むのなら、確かに慈善活動ではなく将来の成長を見込んだ普通の投資だ。企業は幅広い投資家層のリスクマネーに支えられ、社会問題の解決も後押しするだろう。

 リーマン・ショックから2年が過ぎた。市場経済の暗部は山ほど表面化したが、衝撃が生んだ進化の芽も間違いなくある。

source: nikkei

急成長する「国家会社」の危うさ - 編集委員 西條都夫

2010/9/20 7:00


西條都夫(さいじょう・くにお) 87年日本経済新聞社入社。産業部、米州編集総局(ニューヨーク)などを経て産業部編集委員。専門分野は自動車・電機・企業経営全般・産業政策など。

 リーマン・ショックから2年たったが、この間、経済の常識もいろいろ塗り替わった。中でも最大の変化は「政府の役割」をめぐる人々の認識ではないか。金融危機以前は政府はできるだけ後方に退き、企業や市場の自由に任せるのが望ましいとされたが、危機以降は、政府の積極的な役割拡大を求める声が増えた。それに連動して、一時は死語に近かった「産業政策」も各国で復活している。


関連記事 ・9月17日日経朝刊1面「金型2社、政府主導で統合」
・8月19日日経夕刊1面「GM、再上場を申請」
・英ザ・エコノミスト誌8月7~13日号「Leviathan Inc」


 日本も例外ではない。9月17日付の日経新聞朝刊は自動車用金型の大手2社が政府主導で経営統合すると報じた。自動車用金型で国内2位の富士テクニカと同3位の宮津製作所が統合し、政府系の企業再生支援機構から出資を受けて、経営基盤を強化するという。


中国資本が金型工場を買収、日本政府に危機感

 解説記事によると、09年に金型最大手のオギハラが外資に買収され、同社の主力工場が中国資本の傘下に入ったのが、日本政府を含む関係者の危機感に火をつけたという。「経営不振の金型メーカーを放置すれば、外資に買われ、貴重な技術が流出する」という危機感である。

 英エコノミスト誌8月7~13日号は「リヴァイアサン・インク」という特集を組んだ。リヴァイアサンとは言わずとしれた国家の別称で、直訳すれば国家会社。かつての社会主義下の国営企業ではないが、政府による個別民間企業への支援や育成策を皮肉ったタイトルだ。

 同特集では冒頭でメカノというフランスの玩具メーカーの話が出てくる。リーマン・ショックで売り上げが落ちこみ、窮地にたったメカノ社に、サルコジ大統領の肝いりで作った国営ファンドのFSIが約3億円を出資し、救済したという。「おもちゃはフランスの戦略産業か」とさすがの仏メディアもこれには批判的だったいう。


“成功率”低い世界各国の産業政策


 過去、日本を含めて様々な産業政策が実施されたが、その成功率は必ずしも高くない、というのが定説だ。かつて通産省(現・経済産業省)はホンダの四輪車事業への進出を「成功の見込みは薄い」として、阻止しようとした。最近の例では1990年以降、日の丸半導体の復活を掲げて、官民が参画した技術コンソーシアムが数多くできたが、大きな成果を上げたとは言い難い。

 何も日本政府だけではなく、世界的に見ても、産業政策の成功率はあまりパッとしない。エコノミスト誌も先の特集で、環境や輸出拡大、雇用創出を理由として、政府の民間ビジネスへの関与は拡大するだろうが、「それは少数のささやかな成功例と、多数の目も当てられない失敗例を生むだろう」と予言する。出口の見えた米政府のゼネラル・モーターズ救済が前者とすれば、日本航空再建や金型メーカーへの出資はどちらの結果になるのだろうか。

source: nikkei

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「中国の時代」は短命~米フォーブス誌 - 2011年以降は停滞長期化

(2010年9月9日 Forbes.com)

中国・上海のビル群=AP

 “百万の真実”【訳注】があるとされ、地球上で最も急激な社会的変化を遂げつつある中国は、いかなる予測も無力にみえる。だが私はあえて、どんな預言者でもしり込みするような大胆な予測をしてみたい。今後十年の中国について、確実に言えることが三つあると思っているのだ。

 まず、今の時代は“中国の世紀”と呼ばれるようになるだろう。中国はちょうど日本を抜いて世界第2位の経済大国に躍り出たばかりであり、首位の米国も射程圏内に入った。

 だが中国の世紀は短命だろう。長くても数年。世界史上最も速く過ぎ去る“世紀”になりそうだ。2011年末までに中国の経済成長率は2ケタを割り込むだろう。国内総生産(GDP)は10年にわたる減速が始まる。



【記事リンク】
In Depth: U.S. Companies That Invest Big In China
(深読み:中国に大型投資する米企業)
A New Way To Invest In China
(新しい対中投資法)
China and India: Still Hungry for Coal
(石炭にまだまだ貪欲(どんよく)な中国とインド)
How EBay Failed In China
(イーベイはいかにして中国で失敗したか)
Characteristics Of The New China
(新しい中国の特徴)
 なぜそんなことがあり得るのか?現在の中国の経済成長率はシンガポールに次ぐ世界第2位だ。しかし超のつくこの急成長は幻影のようなものだ。中国も米国の先例に倣い、炭鉱業が衰退し、中小の製造業や小売業も減少する新たな現実に適応していかなければならない。

 だが中国の内閣に相当する国務院は2008年11月、政府支出によってそうした適応の痛みを回避することを決めた。こうして昨年、1兆1000億ドルという見事な景気刺激策を実施した結果、同年上半期の経済成長率は11.1%という高水準に達した。だが不幸なことに、中国ではたいていのモノが有り余っている。居住用マンションはどうか? 8000万戸もの空室があるなどということが信じられるだろうか? それでも控えめすぎる評価かもしれない。新築物件の空室率は50%を大きく上回り、北京では65%以上と見られる。

 今後想定されるシナリオは2つしかない。たいていの国でそうなるように不動産市場が崩壊するか、中央政府が人為的に市場を支えるかである。中国の指導部は後者を選択する可能性が高く、そうなればごくわずかな経済成長が何年も続くような政策を取らざるを得ない。バブル崩壊後の日本を考えてみると良い。中国の停滞は日本より深刻になるだろう。2013年には日本は再び中国を追い越し、世界第2位の経済大国に返り咲くだろう。

 第2に、2015年までに200万人の難民が発生するような環境災害が起こるだろう。今や季節ごとに何らかの大災害が起こるようだ。今年は明朝以来の深刻な干ばつに見舞われた。畑の穀物が枯れ果てる中、飢餓に苦しむ北朝鮮の人々に倣い、野草で食いつなぐ人々も出た。その後は一転大雨となり、一度の嵐では25万人が自宅から避難しなければならなくなった。

 たった1件の環境災害で、200万人もの人々が家を失うものか、と驚くかもしれない。だがこれもさほどとっぴな予測ではない。世界銀行は2020年までに中国では3000万人もの環境難民が生まれる可能性があると見ている。個別の自然災害ではなく、全般的な水不足がその原因だ。

 第3に、中国の人口は2020年までにピークに達する。人口統計学者の間では現在、その時期を2025~2030年と見るのが一般的だ。だが彼らは常に人口成長の鈍化を過小評価してきた。中国政府の統計学者らの名誉のために言い添えておくと、彼らは自分たちがどれほど間違っていたかを認め始めている。

 これから人口増加の減速が続くだろう。新生児の性別の異常な偏り(公式統計では女児100人に対し、男児119人以上)は、今後さらに深刻な問題となる。簡単にいえば、女性が足りないのだ。しかも率直に言って、他の東アジアの国々と同様に、大都市に住む中国の女性は何百年来の社会規範を拒絶し、出産を先延ばししたり、まったく子供を生まない人が増えている。最初に野放図な人口成長を奨励し、その後は厳しく取り締まるといった数十年にわたる中国政府の無謀な人口政策のツケが回ってくるのだ。

 こうしたことから、現在の中国に対する思い込みは捨てた方がいい。10年後の中国は我々の目に、今とはまったく違う姿に映っていることだろう。

【訳注】ストックホルム国際平和研究所で中国問題を担当するリンダ・ヤコブソン氏の著書名「A million truths: A decade in China(百万の真実:中国での十年間)」(2000年)より

by Gordon G. Chang

<ゴードン・G・チャン氏は『やがて中国の崩壊がはじまる』(草思社、2001年)の著者で、Forbes誌に毎週コラムを寄稿している。>

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マレーシア、エネルギーなど12分野に重点投資

2010/9/21 20:08

 【クアラルンプール=牛山隆一】マレーシア政府は21日、今後10年間を対象とする投資振興計画の概要を発表した。エネルギーや金融、観光、健康・医療など12の重点分野に、国内外から総額1兆4000億リンギ(約38兆5000億円)の投資を集める方針を打ち出した。同国は2020年まで年平均6%の成長を続ける目標を掲げており、投資拡大をテコに目標実現にこぎつけたい考え。

 12の重点分野には教育や卸売り・小売り、電子・電機、首都圏のインフラ整備なども含まれる。政府は各分野で具体的な投資対象項目を列挙。エネルギーでは原子力発電所の建設や太陽光発電の拡大、金融では資産運用業務やイスラム金融の振興などに言及した。投資優遇策を導入するかどうかは明らかにしていない。

 1兆4000億リンギのうち約9割は企業、残りは政府の資金を想定。企業投資の3割弱は外国企業の資金を期待する。今後10年間にわたり必要な企業投資額は年平均約1300億リンギ。09年実績(650億リンギ)の2倍の規模に当たるため「非現実的な目標設定」(外国銀行)との指摘もある。

 マレーシア政府は2020年までに1人あたり国民所得を現在の2.2倍の1万5000米ドルに増やす方針。今回の計画について「(労働集約型の)製造業に依存した産業構造を改め、付加価値の高いサービス産業を振興する狙いもある」と政府は説明している。