金ETFってなあに


金ETFってなあに
はじめての金〔購入編・その4〕

2011/7/15 7:00
 この「はじめての金・購入編」では、金地金(きんじがね)、金貨、純金積立と購入の際の注意点などを説明してきました。今回は購入編の最終回。金を担当する日本経済新聞社編集局商品部の記者に、「金ETF」について聞きました。
――もともと株やFX投資をしていて、このところ「少し金も買っておこうかな」という人が増えている気がします。そういう人には「金ETF」もお勧め、という話を聞いたのですけれど、どんな商品なんですか。
 ETF(Exchange Traded Fund)は取引所に上場する投資信託です。証券会社を通じて、株式と同様に日中の相場変動を見ながら機動的に売買することが可能です。
 すでに証券口座を開設していて、インターネット取引に慣れている人であれば、すごくなじみやすい商品ではないでしょうか。
 仕組みは簡単です。現物の裏づけがある、とうたっているETFは一言でいえば金地金を購入してずっと持ち続けるという運用方針の投信です。
 投資家からの預かり金は全額、金地金の購入に充てられます。余計な運用をしないので、信託報酬(手数料)も通常の投信の5分の1程度の年間0.4%くらいです。長期投資に適している商品といえるでしょう。
 購入された金地金は保管会社(カストディアン)の金庫に保管されています。その実物在庫に対して預かり証のような有価証券が発行され、それが証券取引所に上場されて株式と同じように売買できるわけです。
 金庫に保管されている金地金は実際の写真や刻印番号まで情報が開示されていて、万が一保管会社が破綻したときでも、別途保護されることになっているので安心です。
 ただし、金ETFと呼ばれているものの中に現物ではなく金の債券や先物価格に連動するものもあるので、購入の際には仕組みをきちんと確認してくださいね。
 2010年7月には新しい金ETFも上場して、日本でもだいぶ認知されてきたように思います。一口1万円程度から投資することができますので、気軽に始めてみるのもいいかもしれません。
【この人に聞きました】
村上史佳(むらかみ・ふみか)さん
 日本経済新聞社編集局商品部記者。東京大学法学部卒。証券部、ヴェリタス編集部、経済金融部などを経て、現在商品部で貴金属担当として活躍中。

金投資入門: 過剰流動性、カラット、基軸通貨とは


過剰流動性、カラット、基軸通貨とは
はじめての金〔用語編〕

2011/9/2 7:00
 さまざまな金融商品に特有の用語があるように、金の世界にもいろいろな言葉がある。この「はじめての金〔用語編〕」では、金のことをより正確に、身近に知るために、知っておきたい用語を解説していく。第1回は「過剰流動性」「カラット」「基軸通貨」だ。
【過剰流動性】
 過度な金融緩和が行われ、実体経済の取引規模を上回って通貨が流通している状況を指す。
 各国の中央銀行などは本来、通貨の供給量や金利水準などの適切な管理を実施することで、物価を安定させることを重要な業務としている。しかし、経済状況やマネーの動向によって、そうした目的とは異なった金融政策を取らざるを得ない事態に陥ることがある。その結果、過剰な資金が市場に供給され、それが土地、株式、債券などに投資され、バブルを引き起こす場合がある。
 1980年代の日本や、サブプライム・ショック以前の欧米では、過剰流動性が元で資産バブルが発生した。
【カラット:karat】
 金の純度を24分率で表す単位のこと。現在でも金の宝飾品や万年筆のペン先の純度表示などで使われている。ちなみに24K(24金)とは純度24分の24、つまり純金を意味する。22K(22金)なら24分の22=91.67%、18K(18金)なら24分の18=75%の純度であることを表している。
【基軸通貨】
 国際的な決済や金融取引で中心的に利用されている通貨のこと。英語ではキーカレンシー。世界通貨という言い方もされる。
 19世紀から、金本位制を背景に英国ポンドが基軸通貨の立場に君臨し続けたが、第2次世界大戦終了以降は、金ドル本位制(米国が各国中央銀行に対して金とドルとの交換を約束した体制のこと。1971年に終了)や米国の経済力の急激な高まりを背景に、米ドルが基軸通貨の地位を引き継いで現在に至っている。
 ただし、このところ米ドルに対する信認には揺らぎが見られ始めている。その結果として、金に注目が集まっていると見ることもできる。
[日経マネー2010年11月号特別付録の記事を基に再構成]

08/09 2001年9月11日 「有事の金」復活の日



(1/2ページ)
2011/9/8 7:00
 米国同時多発テロ発生直後、NY株式、債券市場は機能不全状態に陥り、株式、債券、ドル、原油が暴落する中で、唯一、金価格だけが急騰した。
 あの日のことは今でも鮮明に覚えている。
 夜10時頃帰宅しテレビに映る衝撃的映像を見つつ、筆者の頭をよぎったのは「あの金塊はどうなった」という事。あの崩壊したワールドトレードセンター地下6階にはNY金取引所の金庫があり、在庫の金塊8トンが保管されているのを知っていたからだ。
 セキュリティー上、報道はされなかったが、あとで関係者から聞いたところ、金塊の形状こそ凹んでいたが8トンの重量はきっちり残ったまま回収されたそうだ。
 このときほど「有事の金」という言葉を実感したことはない。
 実は、その1カ月ほど前、筆者は某メディアから取材を受けていた。そこで出た記事の見出しが「有事の金は死んだ いまや有事はドルの時代」。その1カ月後、同じ記者から取材され出た記事のタイトルは「有事の金 復活」となっていた。 そして2001年9月11日をキッカケに金市場を取り巻く経済環境は一変する。以下の表にまとめてみた。
1990年代2001年9月以降
  • ベルリンの壁崩壊
  • 平和の配当
  • インターネット革命
  • 米国財政黒字
  • 米経済黄金期
  • 有事はドル
  • 金は売却
  • 米同時多発テロ
  • 中東地政学的リスク顕在化
  • 平和の配当落ち
  • 米国財政赤字
  • 米国経常赤字(双子の赤字)
  • ドル離れ現象
  • 有事の金の復活
 1990年代には、米ソ冷戦の終焉(しゅうえん)、ベルリンの壁の崩壊により「平和の配当」が生まれた。その恩恵を最も享受したのが米国。インターネット革命により労働生産性は飛躍的に向上し、米国経済はインフレなき持続的経済成長を実現する。財政は黒字となり、有事にも米ドルがあれば大丈夫といわれた。有事の金などもはや時代遅れで用済み。欧州各国の中央銀行は大量の金売却に走り、1999年には金価格が250ドルの底値をつけるに至る。
 それが2001年9月11日を境に180度転換。
 中東では地政学的リスクも高まり、軍事予算や対テロ対策費が急増し「平和の配当落ち」のような状況になった。米国の財政も経常収支も「双子の赤字」となり、ドル離れが進む。有事のドルという発想は後退し、有事の金が復活したわけだ。
 金価格も現在に至る10年間以上の長期上昇トレンドに突入。いまや250ドルの底値の約7倍に当たる1800ドル台。
画像の拡大
 国内でも1999年にはグラム1000円を割り込み900円台まで下がっていたが、直近で4700円台。円高をこなして約5倍である。
 実は、この有事の金への変遷を予測していたかのように、当時、世界で唯一、死んだはずの有事の金をかいまくったのが日本の個人投資家だ。金価格が底値圏に沈んだ1999年。日本の金投資需要は年間106トン。2位のインド(71トン)を上回りダントツの世界一であった。
 その日本が、いまや金輸出国。国内金投資需要はマイナス50トン(2010年)。つまり圧倒的に投資家の売りが買いを上回る状況だ。世界国別需要量ランキングでも堂々(?)の最下位である。
 しかし、この統計は日本人が金の世界では卓越した長期投資家であることをも物語る。底値で買って、高値で売っているのだから。
 対して欧米の投資家は底値で売りまくり、今になって7倍の値で買い戻している。
 この明暗をはっきり分けることになったキッカケこそが、米国同時多発テロであった。
豊島逸夫(としま・いつお)
 ワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて貴金属ディーラーとなる。同行で南アフリカやロシアなどから金を買い、アジアや中近東の実需家に金を売る仲介業務に従事。さらにニューヨーク金市場にフロアトレーダーとして派遣され、金取引の現場経験を積む。その後東京金市場の創設期に参画。ディーラー引退後、WGCに移り、非営利法人の立場から金の調査研究、啓蒙活動に従事。金の第一人者であり、素人にもわかりやすく金相場の話を説く。
日経BP社から6月21日、ムック本『豊島逸夫が読み解く金&世界経済』が発売されました。

野村株「31年ぶり安値」をめぐる誤解と期待



経済金融部 川崎健

(1/3ページ)
2011/9/7 22:38
 昨日6日の東京株式市場では野村ホールディングスと大和証券グループ本社の「株価逆転」が、おそらく両社の上場(ともに上場は1961年10月)以来初めて起きた。
画像の拡大
もちろん発行済み株式数が大和の2倍以上ある野村の単純株価が大和を下回ったからといって、そのこと自体に意味はない。だがこれはつい最近まで、様々な銘柄の時価を顧客にいち早く知らせることを商売の基本にしてきた証券会社の株価だ。「ついにそんな日が来たのか」。野村と大和の社員はもちろんのこと、証券マンの間では両社の株価逆転の話題でもちきりだった。やはりこれは日本の証券市場にとって象徴的な「事件」だったのだ。
 ではなぜこんな逆転劇が起きたのかというと、最近の大和の株価の下げよりも野村の株価の下げの方がきつかったからだ。7日はさすがに反発したとはいえ、野村が6日後場に付けた安値は290円。これはさかのぼること1980年4月23日の取引時間中に付けた安値290円(分割修正後)以来、31年ぶりの安値ということになる。
 仮に野村株が今後、この水準よりもさらに下がってしまうと、ちょっと困った事態が発生する。
 QUICKに保存されている個別銘柄の日足の株価データは80年1月以降しかなく、東京証券取引所にも電子データとしては保存されていないという。電子的なデータをさかのぼれる範囲での野村の安値は80年4月7日の285円で、この水準を割った場合の安値は新聞の縮刷版といった紙データをさかのぼって調べるしかない。そんな手間をかける人はいないだろうから、野村株は「いつ以来なのかよく分からないほど安い」と表現するしかなくなる。いずれにしろ、これで現在の野村の株価がいかに歴史的な安値水準にあるのかが分かろうというものだ。
 では今の野村の株価は果たして妥当なのだろうか。
野村の足元の株価下落の引き金を引いた米連邦住宅金融庁(FHFA)による住宅ローン担保証券(MBS)を巡る提訴問題について考えてみよう。
 簡単におさらいすると、FHFAは2008年9月のリーマン・ショック直後に経営が破綻して多額の公的資金が投入されたファニーメイ(米連邦住宅抵当公社)とフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)の監督機関。先週2日(日本時間3日午前)にFHFAは野村の米国法人を含む大手金融機関17社に対して損害賠償を求める訴訟を起こしたと発表した。17社はファニーとフレディにMBSを販売する際にリスク説明が不十分といった重大な過失があったというのが提訴の理由で、FHFAが賠償の対象としてあげたMBSの総額は計約2000億ドル(約15兆円)に達している。
 このうち野村がFHFAの損害賠償請求の対象にされたのは05年11月から07年4月に発行されたMBS計7本で、発行額は全部足すと20億4592万ドル(約1575億円)。これは野村の前期の税引き前利益(932億円)をすべて吹き飛ばす規模だから野村株は大量に売り浴びせられ、今週5日と6日の2日間で株価は10%下げて大和の株価を初めて下回ったという次第だ。
 ところがこのFHFAの提訴の中身を探っていくと、市場の反応はいささかオーバーすぎるというのが正直な印象だ。
 今回の提訴対象にも入っていたある米系金融機関の関係者に聞くと、「FHFAは全体の1割ぐらいを取り戻せば御の字と考えているのではないか」と話していた。2日のFHFAの発表資料に賠償請求額が書かれていなかったために総額2000億ドルという数字が一人歩きした感があるが、これは対象となったMBSの発行額面の総額。損失額はこれよりも当然少ないうえ、すでに償還になったMBSも含まれているという。仮に賠償額が1割で決まったとすれば、野村の負担分は2億ドル(約150億円)ということになる。
 野村の自己資本は約2兆円。仮に約150億円の賠償が確定してもそれは自己資本の1%に満たないわけで、10%も下げた株価のネガティブな反応はいかにも行き過ぎだろう。
 米欧メディアを通じた「2000億ドルの巨額賠償請求」の報道に慌てたのか、FHFAも6日になって提訴の真意を説明する緊急声明を発表。メディアによる2000億ドルという損害賠償請求の推計は「行き過ぎている」と火消しに走った。声明は「(損害賠償額は)証拠や裁判で認定された事実によって確定される被った損失や回収額を反映したものになる」とゴシック体で強調して説明。つまりFHFAも「別に満額を返せと言っているわけではない」と認めているというわけだ。
 さらにFHFAの声明をよく読んでみると、ほかにも興味深い表現が見つかる。例えば「いかに大きくて洗練された機関投資家が相手といえども、売り手はMBSの商品説明を怠ってはならない」という下りだ。ファニーとフレディは自らが大量のMBSを発行してきたプロ中のプロ。専門知識がない個人ならまだしも、住宅ローン証券化のプロが販売金融機関を訴えたのが今回の訴訟で、FHFAが声明の中にあえて記したこの1文は、今回の訴訟に勝つことがいかに難しいのかをFHFA自身が十分認識しているようにも読める。
 もっとも今回のFHFAの提訴に対する現状の野村側の説明は「何もコメントできない」という一言だけ。市場の不安を抑えるために投資家やメディアに事情を説明すればいいのではないかとも思うが、あえてコメントを出さないのにも理由があるようだ。
 ある野村関係者は「この手の米国の損害賠償訴訟で一番いいのは、相手を完全に無視することだ」と明かす。裁判では原告のFHFA側に被告の過失を立証する責任がある。もともとFHFAが今週に迫った時効間際にやっと提訴にこぎつけたという「無理筋」の裁判。何もコメントしないほうが今後の裁判で有利に立てるという判断だという。
 野村と同じくJPモルガンやゴールドマン・サックスなどの米国勢はそろって「何もコメントできない」とだんまりを決め込んでいるのはそのためのようだ。コメントを出したのは「FHFAの訴えは非合理」というドイツ銀行と「断固として戦う」という英RBSぐらいで、どちらも欧州勢というのがなかなか興味深い。
 FHFAの提訴騒ぎの3日前、ある米大手ヘッジファンドで金融株を専門に担当しているあるファンドマネジャーは「今は日本の金融株の中で野村に一番興味がある。野村の株価は安い。どこか欧米金融機関に買収される可能性もあると思うが、野村はまだ不十分ながら日本では唯一、グローバルで投資銀行ビジネスを展開している金融機関。これが外資の傘下に入ってしまうと反対の声もあがるのではないか」と話していた。下がり続ける株価にしびれをきらした日本の株主からは「リーマン買収は失敗だったのではないか」と繰り返し批判されてきた野村。しかし、まだ海外の投資家からは少なからずそういった期待混じりの目で見られているということだ。
 リーマン買収からもうすぐ丸3年。野村は内にこもらずにあえてグローバルビジネスに打って出る選択をしたが、今のところ収益として目に見える成果を株主には示せていないのが実情だ。
 さらに今回の野村の株価下落は欧米金融機関と完全な相似形をたどっている。野村の現在の連結PBR(株価純資産倍率)は0.53倍。大和のPBR(0.64倍)に比べれば割安といった比較をされるよりも、市場は「ゴールドマン・サックス(0.79倍)やモルガン・スタンレー(0.53倍)と比べれば今の野村のPBRは妥当な水準だろう」(米系証券アナリスト)とみる。良くも悪くも「グローバルで戦う」という選択をしたということはそういうことだ。
 まだ日本発のグローバル金融機関になるという周囲の期待は消えていない。株価下落を嘆く前に、自ら成果を出してそういう投資家に株価上昇という果実で報いること。野村にとって、株価300円近辺の今はまさに正念場である。

政策ミスが不況をつくる=ロバート・ジェネツキー氏



(1/2ページ)
2011/9/8 15:06
ロバート・ジェネツキー氏
クラシカルプリンシプルズ社長
 米国はじめ世界の大半の国々で景気鈍化の兆しが出ている。もともと日本の原発事故が起こしたサプライチェーン問題(供給混乱)によるものと説明されていたが、夏になっても景気は回復しない。世界経済は長期的に停滞あるいは再びリセッション(景気後退)に陥るとの観測が強まっている。
 米国では、住宅市場における投機的な動きや住宅ローン証券化の不備から発生した住宅市場関連の問題が景気悪化の原因とする見方が優勢だ。それはそれで深刻な問題であることに間違いはない。しかし、住宅関連の問題が景気を急激に冷え込ませたのではなく、それらは景気悪化がもたらした結果だ。金融危機と、その後の弱々しい景気回復は、米国あるいは他の国の政府による重大な政策ミスの結果なのである。
 世界経済は相互に密接に関連している。米国経済は巨大であるがゆえに、その金融政策はしばしば他国の中央銀行に影響を及ぼす。米連邦準備理事会(FRB)は2001~05年、政策金利を人為的に低水準に押さえ込むことで金融を著しく緩和した。住宅市場の投機的な動きを助長し、経済全般にレバレッジを効かせた取引が横行する原因を作ったのが、その金融緩和政策だった。
 FRBは05~08年、今度は金融を極度に引き締める政策に転換した。政策金利を04年の1%から06年後半にかけて5.25%に引き上げたのだ。そのあおりで国内支出は減少し、そして経済全般でレバレッジ解消・縮小の動きが始まった。07年にFRBは利下げに転じたが、金融そのものは一段ときつくなった。08年夏には、(中央銀行が供給するマネーの指標である)銀行準備が3年前の水準から3%も減少した。
 銀行準備を減らすことでFRBは流動性を抑制。流動性低下の影響は住宅市場などにも波及し、国内支出が急激に落ち込んだ。一方、財務省は08年9月にファニーメイ(連邦住宅抵当公社)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)の優先株を購入。流動性は急激に高まったが、優先株の株価が急落したため優先株を保有していた米銀のバランスシートを毀損するという結果を招いた。
 08年11月、FRBは今度は銀行準備を増やす方向に動く。すぐに銀行システムに流動性が戻り始め、企業倒産が減り始めた。09年の春から夏にかけて景気は回復基調となった。
 このように、FRBだけでなく世界の中央銀行の多くが、その政策が流動性を細らせ、リセッションを引き起こすという予期せぬ危険をはらんでいることを認識していない。
 また過去に例がいくつもあるように、誤った財政政策が経済の傷口を広げる可能性もある。政府の借り入れが増えれば景気浮揚に役立つと欧米では信じられている。しかしそれは、企業が事業拡大や成長に必要な信用を得ることをさらに困難にすることがある。
 経済の先行き不安から株式相場は世界的に下落している。その不安はもっともだ。前回のリセッションを引き起こし、その後も景気回復を遅らせている政策ミスを、当の責任者たちが無視し続けているからだ。ミスに気付かない限り長期にわたる低成長か、再度のリセッション入りの確率は非常に高くなる。

「ギリシャ支援合憲」と独憲法裁 株式市場はどうみるか プロに聞く


「ギリシャ支援合憲」と独憲法裁 株式市場はどうみるか プロに聞く

(1/2ページ)
2011/9/8 11:15
 ドイツ連邦憲法裁判所は7日、ユーロ圏のギリシャなど他国への金融支援について、過去の実行分は「合憲」と判断した。一方、今後の支援については、1件ごとに連邦議会(下院)の委員会の承認を得る必要があるとした。これを受けて、同日の欧米株式相場は軒並み上昇。8日午前の東京株式市場でも日経平均株価が続伸した。今回の独憲法裁の判断が欧州の債務問題にどう影響するかなどを株式市場関係者に聞いた。
「袋小路から抜け出せず」
大和住銀投信投資顧問投資戦略部長 門司総一郎氏
 ドイツ連邦憲法裁判所の判決に意外感はない。これまでも同種の裁判で、結果ではなく手続きの適正性を重視する判決が出ており、それに沿ったものだからだ。今後の他国への金融支援について連邦議会の承認が必要としたことは機動的な支援の妨げになるという見解もあるが、これまでも国内世論という事実上のストッパーがあったため、それほど大きな変化はもたらされないとみている。
 ただ、欧州の債務問題は袋小路に入り込んでおり、長期化は避けられそうにない。ギリシャなど支援される側の国民は緊縮財政に反対し、ドイツなど支援する側の国民は財政出動に疑問を持っている。このような国民感情を反映する形で最近の各国首脳の発言に食い違いが目立ってきており、債務問題の解決はどんどん遠くなっているという印象を受ける。
「いい点と悪い点が同居」
ドイツ証券チーフエクイティストラテジスト 神山直樹氏
 今回の判決は市場の関心が高く、過去の金融支援が違憲と判断されるリスクを市場関係者は警戒していた。その意味で、実行分のギリシャ支援策などが違憲と判断されなかったことはポジティブに評価している。一方、今後の金融支援に連邦議会の委員会の承認を必要とした点は、機動的な金融支援の妨げになる可能性がある。債務問題の解決には行政のリーダーシップが必要になるが、それに一定の足かせがはめられた格好だ。総じて言えば、いい点と悪い点が同居した判決といえるだろう。
 財政問題の解決には景気とのバランスをいかに取るかが重要になる。短期的には増税などで市場の信認を得ることはポジティブに評価できるが、それもやりすぎると景気に冷水を浴びせかねない。市場の信用をつなぎとめている間に、欧州の主要な輸出先である米国の景気が回復するかどうかがポイントになるだろう。
(聞き手は佐藤俊簡)

Nikkei: 欧州発、第2次リーマン・ショックの現実味



 編集委員 滝田洋一

(1/2ページ)
2011/9/8 7:01
滝田洋一(たきた・よういち) 81年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ駐在などを経て95年経済部編集委員。07年論説副委員長。米州総局編集委員、論説副委員長兼編集委員を経て11年4月から編集委員。マクロ経済、金融を担当。08年度ボーン・上田国際記者賞受賞
滝田洋一(たきた・よういち) 81年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ駐在などを経て95年経済部編集委員。07年論説副委員長。米州総局編集委員、論説副委員長兼編集委員を経て11年4月から編集委員。マクロ経済、金融を担当。08年度ボーン・上田国際記者賞受賞
 「欧州の情勢は尋常ではないよ。先行きは相当に厳しいね」。ようやく取った休暇でパリを訪問中の大手投資信託の社長はいう。日ごろは冷静な運用のプロなのに、電話口の声は心なしか緊張している。
関連記事
・9月1日フィナンシャル・タイムズ「IMFスタッフがユーロ圏当局と衝突」
・9月6日フィナンシャル・タイムズ「欧州債務危機への懸念が再燃」
・9月6日ブルームバーグ「独首相、条件未達成ならギリシャ支援見送りの意向―CDU関係者」
・9月6日ロイター「一部欧州銀行、ソブリン債再評価なら存続困難に―ドイツ銀CEO」
 ハリケーン・ユーロと呼ぶべきだろう。欧州の金融市場に暴風雨が吹き荒れている。イタリア、フランスの銀行ばかりでない。大量の売りを浴びているのは、欧州の銀行を代表するドイツ銀行株だ。
今週の筆者
月(市場)小平龍四郎
竹中平蔵
慶大教授
水(企業)中山淳史
木(経済)滝田洋一
金(市場)梶原誠
 南欧の重債務国が立ち行かなくなり、デフォルト(債務不履行)に陥るのではないか。その際は貸し手である欧州の金融機関が、深刻な経営難に陥るのは避けられない。そんな懸念が金融不安の根元にある。
 ユーロ圏首脳会議は7月にギリシャへの金融支援を決めた。にもかかわらず、フィンランドがギリシャ支援に担保差し入れを要求するなど、各国の足並みはそろわない。
■重債務国支援、ドイツ政府に国内の抵抗
 肝心のドイツ政府の腰が定まらない。「ギリシャが救済条件を満たせないなら、月内の支援は受け取れない」。メルケル首相は5日、与党キリスト教民主同盟(CDU)の会合で、そう述べた。
ドイツのメクレンブルク・フォアポンメルン州で、支持者らを前に話す「90年連合・緑の党」の同州議会選候補者ら(4日)=ロイター
画像の拡大
ドイツのメクレンブルク・フォアポンメルン州で、支持者らを前に話す「90年連合・緑の党」の同州議会選候補者ら(4日)=ロイター
 4日実施された独メクレンブルク・フォアポンメルン州議会選挙で、CDUは大敗した。ドイツ北東部の同州はメルケル首相のおひざ元。衝撃が走っている。重債務国支援に対する違憲訴訟も重圧となった。
 「なぜ、ギリシャなど怠け者を我々の税金で救うのか?」。ユーロ圏の債務危機への対応は、有権者に不人気な政策だ。独政府としても強硬姿勢を示さざるを得なくなっている。ショイブレ独財務相も英紙「フィナンシャル・タイムズ」への寄稿で、「ユーロ圏共同債は、危機に対する永続的な解決手段にはなり得ない」と強調した。
 いわば突き放された形となったギリシャ。2年物国債の流通利回りは5日、初めて50%を突破した。1年物に至っては利回りが80%超だ。市場はデフォルトを現実の可能性として織り込みだしたのである。
ベルリンでギリシャ追加支援について協議するサルコジ仏大統領(左)とメルケル独首相(7月20日)=ロイター
画像の拡大
ベルリンでギリシャ追加支援について協議するサルコジ仏大統領(左)とメルケル独首相(7月20日)=ロイター
 借り手の反対側には、貸し手がいる。重債務国に対して大量の与信を抱える欧州銀は、経営不安が募っている。
■ギリシャなどの国債の評価損、欧州銀の命運を左右
 「最も弱い銀行には破綻リスクがある」。ドイツ銀のアッカーマン最高経営責任者(CEO)は5日、金融関係者の集まりでこう訴えた。鍵を握るのは保有する国債の評価損だ。「市場価格で再評価するとなると、多くの欧州銀が存続不能になる」とアッカーマン氏。
 独復興金融公庫のシュローダーCEOは同日、「多くの銀行は資金調達がほとんどできない」と語った。銀行同士が疑心暗鬼に陥り、カウンターパーティー(取引相手)リスクにおびえ、資金の放出を絞っているのだ。
画像の拡大
 米国のマネー・マーケット・ファンド(MMF)は、欧州銀の発行するコマーシャルペーパー(CP)などの継続購入を見合わせだしている。このままで行くと、流動性不足から経営難に陥る欧州銀が表れるのは時間の問題だ。
 2008年9月15日に米リーマン・ブラザーズが破綻してから3年がたつ。新たなリーマン危機は欧州で現実のものとなろうとしている。
 重債務国支援と大手行の破綻防止――連鎖危機防止の課題は明らかなのに、ユーロ圏諸国の会議は踊るばかり。
 就任早々の安住淳財務相には荷が重いだろうが、仏マルセイユで開く7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では欧州諸国に訴えて欲しい。「第2のリーマン・ショックは起こさないでくれ」と。