竹中平蔵・上田晋也のニッポンの作り方: 次世代大国インドの秘密 インドとのビジネスには“パートナーシップ”が不可欠!





上田 突然ですが、世界で一番人口が多い国はどこでしょう? 多くの人が「中国」と答えると思いますが、近い将来、それが他の国に入れ替わっている可能性もあるんです。その国とは、ズバリ、インド。今回はそのインドについて考えてみましょう。
人口推計のグラフを見ると、現在は中国がインドを上回っていますが、2025年頃にはインドの人口が中国を抜くと予想されています。これは「一人っ子政策」の影響で、中国の人口増加カーブが鈍化するから。それに対してインドは、なんと人口の半分が15歳~44歳、平均年齢が26歳と、国民がすごく若いので、人口がどんどん増えて行く傾向にあります。
竹中さんは、インドについて、どのような感想をお持ちですか?
竹中 インドのエネルギーには、訪れる度に驚かされますね。中国の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生む子供の数)は、現在だいたい1.8程度。2.1を下回ると人口減小が始まっていると言われます。それに対して、インドは出生率が3くらいある。これは、ものすごいエネルギーですよ。
上田 なるほど。それではインドとはどのような国なのか、おさらいしてみましょう。
インドの代表的な指標を見ると、国土は世界第7位、人口は世界第2位、GDP(国内総生産)は日本の約4分の1に当たる1兆661億ドル、1人当たりGDPは日本の36分の1に当たる941ドルとなっています。GDPを見れば日本に比べてまだだいぶ差がありますが、IT産業の伸びが著しく、IT関連の売上高は96年からの10年間で、10倍に増えていますね。

そのきっかけは、世界中のコンピュータが一斉に誤作動を起こすという「2000年問題」が不安視されていた時期に、先進国の金融プログラムの修正作業において、優秀なインド人技術者が活用されたこと。
しかし、インドにはまだ「カースト制度」の名残りがあるとも聞きます。さらなる経済発展を妨げるような要因は多いんでしょうか?
竹中 確かにカースト制度は職業選択の自由を阻んだりすることも一部にはありますが、ITは新しい産業なので、この影響を受けません。逆に言えば、それが成長の礎になったとも言えます。

竹中 インド人は労働コストが安くて英語が堪能、それにインドは地理的にも欧米の時間帯の中間にあるなど、先進国の企業にとってビジネス上のメリットが多かったことも、成長の背景にありますね。
たとえば、英語が堪能なオペレーターが重宝され、アメリカ企業のコールセンターは、今やほとんどインドへ移っています。時差があるから、アメリカのシリコンバレーでプログラム開発をしている技術者が休む時間にインドの技術者がそれを引き継ぐという、双方のバトンタッチで24時間プログラム開発ができることも、IT企業にとって大きなメリットでした。現在では、30社にも及ぶ欧米の金融機関もインドに拠点を設けています。

安い人件費、英語力、地の利が魅力
先進国がインドへ続々進出する理由

上田 そうなんですか。それほど重要な国とは知りませんでした。
竹中 高学歴で優秀なインドのエリートたちは、海外でも活躍しています。たとえば、世界に2000万人いる印僑(在外インド人)のうち200万人がアメリカで仕事をしており、その7割~8割が大学出身者です。「株式市場におけるIPO(新規上場)のかなりの部分がインド人によるもの」とも言われています。
上田 なるほど、国としての底力を感じますね。それでは、日本とインドの経済関係はどうなっているのか? インドにとって、日本は第10番目の貿易相手国です。
しかし、インドとの貿易額は、アメリカやASEAN(東南アジア諸国連合)が飛躍的に伸びているのに対して、日本はあまり伸びていません。日本はアジア1位、インドはアジア3位の経済大国ですが、経済交流はあまり進んでいない気がします。
竹中 確かにそうですね。ただ、日本とインドは歴史的に深いつながりがあり、インド首脳陣は日本に対してとても好意的です。にもかかわらず、貿易があまり活発化していない背景には、インド経済の特殊な成り立ちが関係しています。
上田 それはどんなことですか?
竹中 従来の日本が新興国とやってきたような、モノやサービスを輸出入するという経済交流だけでなく、グローバル・パートナーとしての関係を強化しないと、インドにおけるビジネスは成功しにくい。両国の経済交流には、「新しいビジョン」が必要なんです。

竹中 そこで今回は、「雁から蛙へ」というキーワードをぜひ強調したいと思います。
上田 「雁(がん)から蛙(かえる)へ」ですか・・・。 どういうことですか?
竹中 普通の国は、おおむね軽工業、重化学工業、サービス産業、金融・情報産業という順序で経済が発展して行きます。事実、これまでのアジアの経済発展は、韓国や中国、ベトナムなどがこのような発展段階を経ながら、先頭を飛ぶ日本を追いかけるという、いわば「雁行形態」でした。
ところが、インドだけは違った。彼らは重化学工業やサービス業をすっ飛ばして、いきなり最先端のIT産業に飛び込んで成功したんです。これは「蛙跳び」(リープ・フロッグ)型の発展ですね。

「蛙跳び」で発展したインドと
つき合うにはビジョンが必要!

竹中 つまり、高度な産業でいきなりアジアの大国にのし上がったインドと深く付き合うには、それだけ高度なノウハウやパートナーシップが必要になるということ。かつて発展途上国だった韓国や中国との付き合い方とは、根本的に違うんです。この「雁から蛙へ」というキーワードを、日本の関係者は肝に銘じるべきです。
上田 なるほど。それでは、日本とインドが交流を深めるためには、どうしたらいいのでしょう? 
竹中 第1に重要なのは、「トップ同士の交流」です。
たとえば、日本と中国のケースなら、首脳会談が実現しなかった時代でも、民間企業による交易を通じて貿易額がどんどん伸びました。しかし、インドの場合は、まずトップ同士が「何を目指すか」に合意して、具体的なプロジェクトへ進まないと、うまく行かないでしょう。
第2に重要なのは、「知的交流」。企業のトップ同士、政治家のアドバイザー同士など、エリート層との付き合いは重要です。そのためには留学生や研究者の交流・交換が重要ですが、日本とインドのあいだには、その土台がいまだにほとんどありません。
インドはまだまだ国民の平均所得が低く、治安が悪い地域も多いため、日本のエリートが留学して現地に住むには不安が多い。でも、それを克服してでも知的交流をする意味は大きいですね。
そして第3に「巨大プロジェクトへの参入」です。実はインドはとても誇り高い国で、今まであまり海外から援助を受けて来ませんでした。イギリスによる長い「植民地時代」の記憶があるため、援助を「支配」と考えてしまう風潮が強いからでしょう。
しかし現在インドは、首都のニューデリーとムンバイを結ぶ1500キロもの「大鉄道プロジェクト」に着手しています。このようなプロジェクトをきっかけに、今後日本は技術力をどんどん提供して行くべきです。
上田 インドとの付き合い方は難しいんですね。ところで、インドのトップにはどんな方々がいるんですか?
竹中 世界で最も有名な経済雑誌『フォーブス』が毎年発表している「世界の億万長者ランキング」を見ると、インド人のすごさがわかりますよ。2008年版のランキングには、世界的な投資家・ウォーレン・バフェット氏やマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏と肩を並べて、インド人富豪が4人もランクインしています。

ミタル、タタ、インフォシス・・・
世界を凌駕するインド財閥の実力!

竹中 インドを代表する「4大財閥」について説明しましょう。
まず何と言っても有名なのが、世界最大の鉄鋼会社、アルセロール・ミタルです。これは、日本のトップ金属メーカーである新日本製鐵、JFEホールディングス、住友金属の時価総額を足し合わせても、到底及ばないほどの規模です。ミタル創業者のラクシュミ・ミタル氏は「鉄鋼王」と呼ばれる印僑です。
また、石油化学のリライアンスは、急成長した新興財閥。フォードからジャガーやランドローバーを23億ドルで買収し、世界をアッと言わせたのが、自動車メーカーのタタ。
そして、IT産業の顔であるインフォシステクノロジーズは、米国企業のソフトウェア開発受託で急成長し、今やインドの輸出総額の1割を担う存在になっています。
ちなみに、私はリライアンスのトップであるアンバニ氏の大邸宅に招かれたことがあります。自宅はムンバイにありますが、「新築中の自宅が数十階建て」だと言うから、もうレベルが違いますよ。
上田 自宅で数十階! 「自宅ヒルズ」みたいなもんですね・・・。
竹中 このように、インドのトップ企業の影響力はすさまじい。だからこそ、日印の経済交流を深めて行くには、トップ同士の交流がとても重要です。
上田 その通りだと思います。それにしても、トップ同士の交流はどうすれば深まるんでしょうか?
竹中 実は2000年に、当時の森喜朗総理がインドを訪れ、パートナーシップの基礎作りを試みたことがあります。当時は非常に歓迎されて、ニューデリーには今でも森元総理の名前がついたストリートがあるほどです。
このケースのように、やはり政治家や企業のトップが、今後インドのトップに積極的に働きかけて行くしか、方法はありません。その重要なきっかけの1つに、前述した「鉄道プロジェクト」が挙げられるでしょう。またその一方で、地道な「知的交流」の基盤整備も欠かせませんよね。
この鉄道プロジェクトにおいて、ニューデリーとムンバイを結ぶ最も重要な州が、グジュラート州です。そこには、日本からもミッションが行く予定になっており、実は私はその団長になっています。このような場をできるだけ利用して、現地のリーダーたちと交流を深められたらと思います。
上田 竹中さんがきっかけになり、両国の関係が一層深まるといいですね。
竹中 そうですね。私自身も、もっとインドのことを勉強したいと思います。

『竹中平蔵・上田晋也のニッポンの作り方』
経済学者・竹中平蔵と、くりぃむしちゅーの上田晋也が、楽しくわかりやすく日本の経済を解説する知的エンターテインメント番組。
第31回「次世代大国インドの秘密」放送時間 BS朝日11/16(日)夜8時~、11/23(日)午前11時30分~
朝日ニュースター 11/21(金)夜10時~、11/23(日)夜10時30分~、11/24(月)午後3時~
●番組ホームページ
http://www.bs-asahi.co.jp/(BS朝日)
http://asahi-newstar.com/(朝日ニュースター)
●番組で取り上げて欲しいテーマ、竹中さんへの質問を大募集
http://www.bs-asahi.co.jp/