26/09 中国マネー、北極圏攻勢 アイスランド農地買収計画



関連トピックス

写真:黄氏が買収提案をしているアイスランドの土地。今夏の視察時に撮影したという=北京中坤投資集団提供拡大黄氏が買収提案をしているアイスランドの土地。今夏の視察時に撮影したという=北京中坤投資集団提供
写真:黄怒波・中坤集団会長。駱英の筆名を持つ詩人でもある。日本語訳も出た=10日、北京市の同社本社、吉岡写す拡大黄怒波・中坤集団会長。駱英の筆名を持つ詩人でもある。日本語訳も出た=10日、北京市の同社本社、吉岡写す
地図:アイスランドの地図拡大アイスランドの地図
 北極圏に接する世界最北の島国アイスランドの広大な土地を買い上げる、と中国の投資家が提案したことが波紋を広げている。北極航路の開通や資源の確保を狙う中国政府の動きと重なるからだ。経済危機に苦しむ先進国から不動産を買い集める中国マネーは「救世主」か。それとも国家の意を受けた「買い占め屋」なのか。
 北海道より少し大きい面積を持つアイスランド。北東部グリムスタジールの農地300平方キロメートルを880万ドル(約6億8千万円)で買収する計画が突然持ち上がった。
 国土の0.3%にあたる広大な土地だ。それを一気に買い占めると言い出したのは、北京中坤(ちゅうこん)投資集団会長の黄怒波氏(55)。駱英の筆名を持つ詩人でもある。中国共産党宣伝部から1995年に不動産や観光業に転じ、成功を収めた。個人資産は600億円(フォーブス中国版)を超す。
 人口30万人のアイスランドは、氷河や火山、温泉などが観光資源。ただ、地元英字誌によれば、買収提案を受けた地域は、同国最大規模の農場とはいえ、過剰放牧の荒れ地。人も住んでいない。冬はマイナス30度以下になる。
 黄氏はそこに2億ドル(約150億円)を投じて、ホテルやゴルフ場などリゾート開発する計画という。
 世界中にリゾートチェーンを広げる戦略を持ち、07年には米国で、テネシー州の牧場を買収した。低所得者向け(サブプライム)住宅ローン危機で株式相場が急落した影響で、老後の年金資金が目減りした老夫婦から4平方キロ以上の土地を200万ドル(約1億5千万円)で手に入れた。
 当時の米国と同じように、アイスランドも3年前に経済危機に陥り、まだその傷が癒えていない。外貨の流入が期待できる海外からの巨額の投資話は「渡りに船」ともいえる。
 ただ、今回買収提案を受けた土地はあまりにも広大なだけに、世論を揺るがす騒ぎになっている。地元メディアのアンケートでは6割が支持、2割が反対。グリムソン大統領は「投資を歓迎する」と述べたが、政局も絡んで閣僚の一部は慎重な姿勢だ。
 黄氏の提案への警戒感が根強い背景には、軍事的要衝でもある北極利権を狙う中国政府の意向を受けた提案なのではないか、との見方があるからだ。
 地球温暖化の影響で、北極海回りでアジアと欧州を結ぶ航路を開くことも夢ではなくなってきた。黄氏がこの土地を買えば、いずれは沿岸部まで所有地を広げることもでき、航路開設への足場になる。さらに付近の海底には、貴重な資源である「レアアース」が眠るともいわれる。
 中国政府は近年、アイスランドとの関係を深めている。自由貿易協定の締結交渉を進め、危機時に自国通貨を融通し合う通貨スワップ協定を10年に結んだ。レイキャビクの大使館も拡大した。こうした中国のアプローチと、黄氏の買収の動きはだぶる。
 中国の対外投資に詳しい米シンクタンク、ヘリテージ財団研究員のデレク・シザーズ氏は「(海外からの投資を受け入れて)カネをとるか、外国人に広大な不動産を買い占められる事態を避けるか。(08年の)金融危機以降、アイスランドなど多くの国々で選択が迫られている」と指摘する。
 アイスランド政府は今月中にも買収提案を受け入れるかどうかの判断を下す見通しだ。黄氏は「(今回の買収は)商業投資で、中国政府とは無関係だ。いったいどこに問題があるのか」と話している。

No comments:

Post a Comment