16/10 中国経済いつまで好調 コマツ会長と東亜キャピタル社長が議論


創論

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2011/10/16 3:30
 世界第2位の経済大国となった中国で、経済成長に減速の兆候が出ている。物価の急上昇を受けて当局が金融引き締めに転じ、投資が鈍り始めた。輸出や消費の先行きを懸念する声もある。コマツの坂根正弘会長と、中国企業に投資する東亜キャピタルの津上俊哉社長に中国経済の展望を語り合ってもらった。
さかね・まさひろ 63年(昭38年)大阪市大工卒、コマツ入社。コマツアメリカ社長を経て01年社長。07年より会長。島根県出身、70歳。
さかね・まさひろ 63年(昭38年)大阪市大工卒、コマツ入社。コマツアメリカ社長を経て01年社長。07年より会長。島根県出身、70歳。
■坂根氏「地方部の開発などまだまだ需要見込める」
 ――中国経済が調整局面に入ったとの見方があります。
 坂根 昨年1年間は中国1カ国で世界経済を引っ張った。これは異常な状態だ。中国は当局が経済をコントロールできる。しっかりと調整をするべきで、いまは正常化の過程といえる。
 来年1月の春節明け以降には調整を終え、盛り返すと期待している。中国は2004年頃にも引き締め政策を実施したが、この時は建設途中の工業団地の工事を当局が止めるなど強引な手法が目立った。今回は銀行融資を抑えるなどの手段を駆使しており、効果がはっきり現れている。
 津上 中国は08年のリーマンショック後に4兆元(約48兆円)の財政出動を実施した。効果は劇的だったが、反動が後遺症として出ている。中国の金融機関の貸出残高はリーマン前に比べて8割増えた。過剰流動性の影響で住宅価格が高騰し、物価や賃金も急上昇した。それが引き締め後は一転し、現在は地方の政府系企業ですら資金繰りに窮している。お金の流れが急激に鈍れば、経済への影響が長引く懸念がある。
 坂根 中国は今まさに高度成長期だ。日本でも1964年の「証券不況」は1年程度で終わった。経済が大きく成長する際の調整は長くかからない。
つがみ・としや 80年(昭55年)東大法卒、旧通産省へ。在中国大使館、北東アジア課長などを経て04年より現職。愛媛県出身、54歳。
つがみ・としや 80年(昭55年)東大法卒、旧通産省へ。在中国大使館、北東アジア課長などを経て04年より現職。愛媛県出身、54歳。
■津上氏「余剰資金の行き先に警戒も」
 津上 警戒すべきはだぶついた資金の行き先だ。これまでは株式市場や不動産に向かっていたが、今は高利貸し市場に流れ出している。規模は3、4兆元にも達するとの試算がある。この資金が焦げ付けば、経済への影響は大きくなる。
 ――中長期で見た中国経済の展望を聞かせてください。
 坂根 繰り返しになるが、いまの中国はまさに昭和40年(65年)の日本だ。五輪を開き、人口の半分が都市に住むようになった。高速道路と高速鉄道の整備も急速に進んでいる。日本経済は70年代の石油危機以降も中くらいの成長を続けた。中国の猛烈な高成長はあと5年くらいで曲がり角を迎えるかもしれないが、2020年までは安定成長を続けるだろう。
 建設機械市場から見ると、地方部の開発やゴルフ場建設などまだ需要が見込める。日本の建機市場はピーク時に120万台だった。現在の中国は210万台だが、人口比で行けば日本の10倍になってもおかしくない。仮に3倍程度で収まっても、なお100万台の成長余地がある。
 津上 中国は賃金が急上昇する時期に入り、成長モデルの転換を迫られている。10年ほど前までは「中国の賃金はいつまでも上がらない」といわれてきた。内陸部に無尽蔵の労働力があるとされていたためだ。だが最近は沿海部で労働市場の供給不足が顕著になってきた。生産性を高めて人件費の上昇をカバーする必要がある。
 しかし現状は、国有企業を優遇して民間企業の経営が困難になる「国進民退」と呼ばれる現象が起きている。官主導の経済成長を続けている限り、生産性の飛躍的な向上は難しい。中国経済は「名目」では今後も伸びるだろうが、「実質」では余り成長しなくなる恐れがある。物価の動きなどへの注意が必要だ。
■津上氏「少子化が経済に悪影響の可能性も」
 ――中国でも少子高齢化が進みそうです。
 津上 中国の政府系シンクタンクの研究者は「いまの出生率は(公式に言われるデータより大幅に低い)1.4程度しかないと思う」と話している。2015年頃には中国の総人口に占める労働力人口の割合がピークを打つ。若い世代が急激に減る少子化が経済に悪影響を与えるかもしれない。
 坂根 人口問題はまだ深刻ではない。一人っ子政策が行き渡ってまだ30年だ。この世代はあと30年以上、生産年齢人口であり続ける。当社の試算では、中国の高齢化率が今の日本並みになるのは40年代だ。高齢化の影響を心配する必要はない。
 ――中国企業の競争力をどうみますか。
 坂根 建機業界では三一重工が中国国内でシェアを拡大している。技術革新などイノベーション能力も高まっている。ただブランド力や品質を含めた総合力で見ると、まだ我々に分がある。建機の中古価格を比較するとわかりやすい。中国メーカーの製品の値下がり率はコマツに比べて大きい。中国製品が米国を含めた海外で存在感を持つにはかなりの時間がかかる。侮ってはいけないが、いたずらに恐れる必要もない。
■坂根氏「中国の行き過ぎた台頭はマイナス」
 津上 中国の国内市場は巨大だ。このため中国企業は自給自足型の「内弁慶」になりやすい。海外の成功事例を模倣することで国内シェアは得られるが、世界で通用する独自性を高められるかは疑問だ。ガバナンス(企業統治)もまだ不十分だ。
 ――日本は中国とどう向き合えばよいのでしょうか。
 坂根 いま経済的な存在感が大きいのは確かに中国だ。ただ潜在的な成長力を見れば、インドネシアなども重要だ。アジアの発展は政治の安定が不可欠で、中国の行き過ぎた台頭はマイナスとなる。アジアと共存共栄するためにも、日本は環太平洋経済連携協定(TPP)に参加して日米基軸を強めるべきだ。
 津上 日本は中国についてより客観的に、色々な事実を並べた上で議論すべきだ。中国のバブル経済の危険性を指摘するのは簡単だが、日本や欧米経済にもリスクは潜む。それと並べて評価しないと客観的な結論は導けない。日中がもっと率直に話し合える素地を作るべきで、むしろ日本が改善すべき点は多い。
■将来予測、複眼的な視点を
坂根氏は今の中国を、1960年代の日本と重ね合わせ、当分は高成長が続くとみる。建設機械メーカーとして都市開発などにかかわり、成長のエネルギーを目の当たりにしてきた手応えがある。
津上氏も成長が続くことは否定していない。ただ物価高で国民が豊かさを実感しにくくなり、国有企業が肥大化して経済の効率化が遅れるなど、中国が直面する課題にも注目すべきだと指摘する。
中国は13億の人口を抱え、見る角度で違う姿をみせる。一党支配の行方など、日本の経験では予測しにくい。複眼的な視点がますます必要になりそうだ。(編集委員 吉田忠則)