22/09 米国にも少子高齢化の危険  移民抑制、開発規制強化が副作用



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2011/9/22 7:00
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(2011年9月15日 Forbes.com)
米国にも少子高齢化の危険が…=ロイター
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米国にも少子高齢化の危険が…=ロイター
 バラク・オバマ大統領や多くの民主党員にとって「ヨーロッパ」は何か宿命的な魅力を持ち続けているようだ。リベラル系の政治家や学者、各界の専門家、政治アナリストたちが、規制強化、全米を結ぶ高速鉄道網、新エネルギー政策といった「ヨーロピアン・ドリーム」を信奉してきた。
 現在の欧州が陥っている経済危機が、最も熱心な欧州信奉者たちにも、このような“猿まね”が良いことなのかどうか、考え直させるきっかけになるように望む向きもあろう。だが、本当に米国が避けなければならないのはそのような面での欧州化ではなく、現実に欧州で致命的に進んでいる人口停滞現象である。
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(アメリカを開拓した不法移民たち)
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(中国の金持ちが米国に移住したがる理由)
 欧州の人口問題がいかに深刻か、筆者は昨年出席したシンガポールでの会議で知ることになった。ディーター・サロモン氏は環境先進都市である独フライブルクの市長で、町の将来について語っていた。30年後のドイツはどんな姿になっているかとの質問を受け、彼は少しほほ笑んでこう答えたのだ。「そもそも将来というものが存在しないでしょう」
 市長の言葉はあながち誇張とはいえない。この数十年間、欧州の人口増加率は世界で最も低かった。出生率は、人口維持に必要な値を大きく下回った。ざっとみて、出生率は米国より50%ほども低い。長きにわたり、この人口情勢が経済状況を破滅的な結果に追い込んでいる。2050年までに、現在7億3000万人いる欧州の人口は6億3000万~6億5500万人まで減り、労働人口は2000年に比べて25%減少するとみられている。
 人口減少による財政上の損失は、すでに明らかになっている。スペインやイタリア、ギリシャといった世界で最も高齢化のスピードが速い国々は、今にも破綻しそうな状況に立たされている。1つの原因は、年金やその他の福祉のコストを負担してくれる現役就労者の不足である。
 ドイツ経済は大陸の中では上位にあるが、人口統計上の「冬の時代」は避けられそうにない。2030年までにドイツでは労働人口100人に対して53人の退職者が出ると推計されている。米国は30人程度だ。この結果、ドイツは巨額の財政赤字の危機に直面するだろう。高齢化の社会的コストが、これまで倹約家で生産性の高かったドイツ経済を徐々に浸食するのだ。アメリカン・エンタープライズ研究所のニック・エバーシュタット氏によると、2020年までにドイツの国債元利払い費の国内総生産(GDP)比率は、現在苦境の立つギリシャの2倍になるという。
 もちろん、欧州だけが超高齢化現象に苦しんでいるわけではない。日本や韓国、台湾、シンガポールも、急速に進む超高齢化や労働人口の減少、人口減少という、似たようなシナリオに直面している。
 さて、一方で先進国の中で例外的に高齢化のわなにはまらないで済むとみられてきたのが米国である。ところがこの例外シナリオが崩れる可能性を示唆する兆候が出ている。
 その一つが、合法、非合法両方の移民の急速な減少だ。移民反対を唱える人たちもあまり気づいていないが、米国に入った不法移民の数は2007年から100万人も減少。合法的な移民も減っている。また、メキシコから米国に新たに移住するメキシコ人の数は2006年の100万人以上から2010年には40万4000人に落ち込んだ。実に60%もの減少だ。
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 もっと問題なのは、移民の中で米国に帰化する人が減っていることだ。2008年には100万人以上が帰化したが、昨年は40%も少ない60万人にとどまった。
 これまで最も帰化の多かったメキシコからの帰化も減っている。メキシコ出身者は全移民の3割を占める。2008年以降新たに米国に帰化した人の数をみると、北米出身者が65%、アジア出身が24%、欧州出身が28%それぞれ減っている。増えているのは18%増のアフリカ出身者だけだ。
 もし帰化の減少が長く続けば深刻な事態をもたらすだろう。1990年以降、米国の労働人口の増加のうち45%ほどが移民であり、全労働人口に占める移民の割合は9.3%から15.7%に増えている。こうした移民や移民の子どもたちのおかげで、米国は欧州や東アジアのような人口問題を回避してきた。
 移民の減少には、移民の主な出身国である中国やインド、メキシコその他の中南米各国で出生率が急速に低下していることも関係している。例えば、メキシコの出生率は1970年には女性1人当たり6.8人だったが、2011年には約2人に落ち込んだ。出生率低下により、メキシコの労働力の増加数は1990年代の年100万人から現在は80万人まで減少した。2030年までには30万人に縮小するとみられる。
 2つ目の大きな理由は、メキシコのような発展途上国の経済成長だ。エコノミストのロバート・ニューウェル氏によると、国民1人当たりのGDPと世帯収入は共にこの10年間で45%以上増加した。国外移民予備軍となる子どもの数が少なくなったうえに、国内で食べていけるだけの仕事が増えたのだ。
 アジアは出生率が低いだけでなく、多くの地域で経済も好調だ。この結果、教育水準が高く起業精神にも富んだ移民者たちは、少し前なら米国に来る必要も感じたかもしれないが、今や自分の国で似たような仕事につける。特にアジアから米国に来る大学生、大学院生は卒業後、米国に残らなくなった。米国が失った人材は、アジアが獲得しているといえる。
 最後に米国経済の不調を背景に、米国の出生率は過去10年の水準を大きく下回っている。出生率は間もなく、この100年で最低水準まで下がりそうだ。一般的に人は将来に対して明るい見通しがもてると子どもを生む。米国の将来について自信をもっている人の割合は現在、1930年代以降で最低だ。
 他の要因が米国の出生率をもっと押し下げるかもしれない。住宅環境である。
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(中国の金持ちが米国に移住したがる理由)
 イタリアや台湾ではすでに、住居費の高さや子育てに適した住宅の不足が、子どものいない世帯の増加につながっている。逆に米国では従来、単身向けも家族向けも、大都市圏郊外の住宅価格は購入しやすい水準だった。この数十年、テキサス州のヒューストンやダラスやオースティン、テネシー州ナッシュビル、ノースカロライナ州ローリーのような、人口密度が低く住宅価格も手ごろな新興住宅地がファミリー層の人気を集め、子育ての基盤となってきた。
 しかし現在、米国の多くの地方都市や州政府はオバマ政権の強い後押しをうけて欧州式の「スマートグロウス(都市規模の賢い成長)」の考え方に基づく開発規制を導入しつつある。その結果、一戸建ての総数が厳しく規制され、人々は小さな集合住宅へと追いやられようとしている。もしこの国がアパート暮らしの国になれば、出生率はもっと落ち込むだろう。
 これらが米国の将来について暗示することは何だろうか。歴史をひもとけば、人口とその国の運命の関係が見えてくる。古代ローマからルネサンス期のイタリア、近現代のオランダまで、国家は出生率が低下し人口が減少する局面で没落している。
 多くの欧州の人は、米国の超高齢化社会の仲間入りを歓迎しているかもしれない。学者の多くや環境保護主義の人たちも喜ぶかもしれない。オバマ政権のメンバーも同様だ。彼らは子どもを少なくすることがCO2(二酸化炭素)削減の手段と考えるかもしれないからだ。そして、おそらく一番喜んでいるのは、北京の権威主義的な官僚たちだろう。彼らの優秀な子どもたちは米国の大学院へ進学し、より自信を深めて母国へ戻って世界を支配するようになるだろう。
by Joel Kotkin
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