26/09 ソニー、2年連続首位 若手の海外研修拡充 働きやすい会社2011本社調査



2011/9/26付
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 日本経済新聞社は25日、主要企業を対象に実施した2011年の「働きやすい会社」調査の結果をまとめた。2年連続で首位だったソニーをはじめ、総合ランキングの上位4社が電機メーカーだった。人材の育成や活用などでグローバルな対応を強化したり、育児・介護や多様な働き方に配慮するなど時代変化に即した取り組みを進めた企業が高い評価を得た。
 働きやすい会社調査は日経リサーチとの共同企画。企業の人事・労務制度の充実度を点数化し、ビジネスパーソンが重視する度合いに応じて傾斜配分しランキングを作成した。4つの側面別にランキングも作った。
世界各地から社員が集まったソニーの幹部研修(9月中旬、ロサンゼルス)
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世界各地から社員が集まったソニーの幹部研修(9月中旬、ロサンゼルス)
 ソニーは側面別ランキングで「人材の採用・育成」と「多様な人材の活用」が首位。「職場環境の整備」も、ダイキン工業に次ぐ2位だった。評価されたのがグローバル化に向けた積極的な人事施策。2010年秋に13年度までの人事施策の中期計画を策定し、13のプロジェクトを始動させた。特に力を入れているのが「国内社員の底上げ」(人事部門)だ。
 ソニーは海外拠点の現地化が進んだ半面、若手社員が海外経験を積む機会が減少した。このため「海外経験支援プロジェクト」と題し、従来の留学制度に加えて現地での実務研修などを拡充。1年間に100人を海外に出す目標を設定した。海外勤務を含めた公募制も10年度に営業部門でまず導入し、11年度からは全社に拡大。階層別の英語研修制度も導入した。
育児休業の利用 日立製作所多く
 総合2位の日立製作所は昨年から順位を2つ上げ、2側面で5位以内に入った。日立は各種研修や有給休暇制度が充実しており、育児休業や時短制度の利用者の多さも目立っている。
 東芝は総合3位と昨年(2位)より順位を下げたが、4側面すべてで10位以内に入った。上司と従業員本人に勤務時間の実績を配信し、赤、黄、青の信号の色で労働時間に対する注意を促すシステムを導入し、社内保育園を新設するなど環境整備も進めている。
パナソニック 女性幹部多く
 総合4位のパナソニックは、職場の多様性推進に力を入れている。4月に初の女性役員が就任し、女性部長の人数も全体で4位だった。総合5位のダイキン工業は、休暇制度などの職場環境の整備で首位。若手や外国人社員向けの技能教育も充実させている。
 資生堂は総合9位と前年(43位)から大きく順位を上げた。側面別で「多様な働き方への配慮」が首位。育児・介護休業取得率の高さなど制度の利用実績が評価された。
 調査の方法 「働きやすい会社」は今回が9回目。企業に対する調査は1575社を対象に6月から7月にかけて実施し、465社の有効回答を得た。ビジネスパーソンは7月8~19日にネット経由で調査をした。日経リサーチアクセスパネルの約1万人に聞き1829人が回答した。うち女性は517人。
企業の取り組みは「人材の採用・育成」「多様な人材の活用」「職場環境の整備」「多様な働き方への配慮」の4側面に分けて評価した。ビジネスパーソンが働きやすい会社の条件として何を重視するかを加味して配点を決定。4側面の合計得点を算出し、ランキングにした。

邦銀大手、外貨の手元資金積み増し 調達環境悪化に備え



2011/9/25 23:45
 日本の大手銀行が海外拠点でドルを中心とした外貨の確保に動いている。三井住友銀行が外貨預金を直近の半年で30億ドル増の870億ドルに積み増したほか、他のメガ銀行も外貨預金獲得を積極化している。欧州の財政不安をきっかけに、欧米のドル短期市場で警戒感が強まっている。海外での資金調達が不安定になる可能性があるとみて、外貨の手元流動性を厚くして、万が一の市場の波乱にも万全を期す構えだ。
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 銀行の外貨調達法は、企業などからの預金獲得のほか、市場調達や日本円を外貨に替える「円投」がある。ただ市場環境に左右されやすい円投はコストがかかるため、大手銀は2008年秋のリーマン・ショック後、安定した資金源となる外貨預金を積み上げてきた。
 三井住友の外貨預金残高はリーマン危機前の08年3月末(410億ドル)と比べ、8月末時点で2倍以上に拡大。ギリシャ問題などで市場環境が悪化した今夏以降、預金獲得額をさらに積み上げているという。
 三菱東京UFJ銀行の外貨預金は3月末に2000億ドルに達し、リーマン前(1577億ドル)に比べ3割増えた。同行はこのうち約半分を法人や個人から集めており、直近の約半年でさらに1割強、残高を伸ばしたもよう。みずほコーポレート銀行の3月末の残高も940億ドルとリーマン前比1割強増加し、足元では「資金調達環境の悪化を踏まえ、資金力のある日本企業などからの預金獲得を増やしている」(幹部)という。
 「リーマン危機後のような世界的なマネー収縮が起きる可能性は極めて小さいと見ている」。ある大手行首脳は、こう前置きしつつ、「資金調達環境に嫌な兆候があるのも確か」と話す。
 日本円で外貨を調達する際の調達金利が8月に一時上昇したほか、機関投資家が預金を引き出す動きが少しずつ出始めたためだ。8月以降、市場の警戒レベルをリーマン危機当時並みに引き上げるべきか、検討した銀行もある。
 日本の銀行の財務に問題があるわけではないが、万が一、欧州の銀行危機が深刻化すれば、資金調達などへの影響が避けられないというのがリーマン危機の教訓だ。円高を契機に、海外での事業拡大を前向きに考える日本企業が増えており、銀行自身も海外でのM&A(合併・買収)の機会を模索中。大手行が外貨確保に動いている背景には、こうした海外での資金需要にこたえる狙いもある。

22/09 米国にも少子高齢化の危険  移民抑制、開発規制強化が副作用



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2011/9/22 7:00
forbes
(2011年9月15日 Forbes.com)
米国にも少子高齢化の危険が…=ロイター
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米国にも少子高齢化の危険が…=ロイター
 バラク・オバマ大統領や多くの民主党員にとって「ヨーロッパ」は何か宿命的な魅力を持ち続けているようだ。リベラル系の政治家や学者、各界の専門家、政治アナリストたちが、規制強化、全米を結ぶ高速鉄道網、新エネルギー政策といった「ヨーロピアン・ドリーム」を信奉してきた。
 現在の欧州が陥っている経済危機が、最も熱心な欧州信奉者たちにも、このような“猿まね”が良いことなのかどうか、考え直させるきっかけになるように望む向きもあろう。だが、本当に米国が避けなければならないのはそのような面での欧州化ではなく、現実に欧州で致命的に進んでいる人口停滞現象である。
【記事リンク】
Immigration: It's Time To Get Serious About Legalizing All Work
(移民政策:すべての職種の合法化を)
New Immigration Measure Means Expanded Government Reach
(政府の捜査力拡大する移民労働者認証制度)
'Men in Black' and Immigration
(メン・イン・ブラック」と移民)
America's Illegal Pioneers
(アメリカを開拓した不法移民たち)
Why China's Rich Want To Immigrate To America
(中国の金持ちが米国に移住したがる理由)
 欧州の人口問題がいかに深刻か、筆者は昨年出席したシンガポールでの会議で知ることになった。ディーター・サロモン氏は環境先進都市である独フライブルクの市長で、町の将来について語っていた。30年後のドイツはどんな姿になっているかとの質問を受け、彼は少しほほ笑んでこう答えたのだ。「そもそも将来というものが存在しないでしょう」
 市長の言葉はあながち誇張とはいえない。この数十年間、欧州の人口増加率は世界で最も低かった。出生率は、人口維持に必要な値を大きく下回った。ざっとみて、出生率は米国より50%ほども低い。長きにわたり、この人口情勢が経済状況を破滅的な結果に追い込んでいる。2050年までに、現在7億3000万人いる欧州の人口は6億3000万~6億5500万人まで減り、労働人口は2000年に比べて25%減少するとみられている。
 人口減少による財政上の損失は、すでに明らかになっている。スペインやイタリア、ギリシャといった世界で最も高齢化のスピードが速い国々は、今にも破綻しそうな状況に立たされている。1つの原因は、年金やその他の福祉のコストを負担してくれる現役就労者の不足である。
 ドイツ経済は大陸の中では上位にあるが、人口統計上の「冬の時代」は避けられそうにない。2030年までにドイツでは労働人口100人に対して53人の退職者が出ると推計されている。米国は30人程度だ。この結果、ドイツは巨額の財政赤字の危機に直面するだろう。高齢化の社会的コストが、これまで倹約家で生産性の高かったドイツ経済を徐々に浸食するのだ。アメリカン・エンタープライズ研究所のニック・エバーシュタット氏によると、2020年までにドイツの国債元利払い費の国内総生産(GDP)比率は、現在苦境の立つギリシャの2倍になるという。
 もちろん、欧州だけが超高齢化現象に苦しんでいるわけではない。日本や韓国、台湾、シンガポールも、急速に進む超高齢化や労働人口の減少、人口減少という、似たようなシナリオに直面している。
 さて、一方で先進国の中で例外的に高齢化のわなにはまらないで済むとみられてきたのが米国である。ところがこの例外シナリオが崩れる可能性を示唆する兆候が出ている。
 その一つが、合法、非合法両方の移民の急速な減少だ。移民反対を唱える人たちもあまり気づいていないが、米国に入った不法移民の数は2007年から100万人も減少。合法的な移民も減っている。また、メキシコから米国に新たに移住するメキシコ人の数は2006年の100万人以上から2010年には40万4000人に落ち込んだ。実に60%もの減少だ。
【記事リンク】
Immigration: It's Time To Get Serious About Legalizing All Work
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(中国の金持ちが米国に移住したがる理由)
 もっと問題なのは、移民の中で米国に帰化する人が減っていることだ。2008年には100万人以上が帰化したが、昨年は40%も少ない60万人にとどまった。
 これまで最も帰化の多かったメキシコからの帰化も減っている。メキシコ出身者は全移民の3割を占める。2008年以降新たに米国に帰化した人の数をみると、北米出身者が65%、アジア出身が24%、欧州出身が28%それぞれ減っている。増えているのは18%増のアフリカ出身者だけだ。
 もし帰化の減少が長く続けば深刻な事態をもたらすだろう。1990年以降、米国の労働人口の増加のうち45%ほどが移民であり、全労働人口に占める移民の割合は9.3%から15.7%に増えている。こうした移民や移民の子どもたちのおかげで、米国は欧州や東アジアのような人口問題を回避してきた。
 移民の減少には、移民の主な出身国である中国やインド、メキシコその他の中南米各国で出生率が急速に低下していることも関係している。例えば、メキシコの出生率は1970年には女性1人当たり6.8人だったが、2011年には約2人に落ち込んだ。出生率低下により、メキシコの労働力の増加数は1990年代の年100万人から現在は80万人まで減少した。2030年までには30万人に縮小するとみられる。
 2つ目の大きな理由は、メキシコのような発展途上国の経済成長だ。エコノミストのロバート・ニューウェル氏によると、国民1人当たりのGDPと世帯収入は共にこの10年間で45%以上増加した。国外移民予備軍となる子どもの数が少なくなったうえに、国内で食べていけるだけの仕事が増えたのだ。
 アジアは出生率が低いだけでなく、多くの地域で経済も好調だ。この結果、教育水準が高く起業精神にも富んだ移民者たちは、少し前なら米国に来る必要も感じたかもしれないが、今や自分の国で似たような仕事につける。特にアジアから米国に来る大学生、大学院生は卒業後、米国に残らなくなった。米国が失った人材は、アジアが獲得しているといえる。
 最後に米国経済の不調を背景に、米国の出生率は過去10年の水準を大きく下回っている。出生率は間もなく、この100年で最低水準まで下がりそうだ。一般的に人は将来に対して明るい見通しがもてると子どもを生む。米国の将来について自信をもっている人の割合は現在、1930年代以降で最低だ。
 他の要因が米国の出生率をもっと押し下げるかもしれない。住宅環境である。
【記事リンク】
Immigration: It's Time To Get Serious About Legalizing All Work
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(メン・イン・ブラック」と移民)
America's Illegal Pioneers
(アメリカを開拓した不法移民たち)
Why China's Rich Want To Immigrate To America
(中国の金持ちが米国に移住したがる理由)
 イタリアや台湾ではすでに、住居費の高さや子育てに適した住宅の不足が、子どものいない世帯の増加につながっている。逆に米国では従来、単身向けも家族向けも、大都市圏郊外の住宅価格は購入しやすい水準だった。この数十年、テキサス州のヒューストンやダラスやオースティン、テネシー州ナッシュビル、ノースカロライナ州ローリーのような、人口密度が低く住宅価格も手ごろな新興住宅地がファミリー層の人気を集め、子育ての基盤となってきた。
 しかし現在、米国の多くの地方都市や州政府はオバマ政権の強い後押しをうけて欧州式の「スマートグロウス(都市規模の賢い成長)」の考え方に基づく開発規制を導入しつつある。その結果、一戸建ての総数が厳しく規制され、人々は小さな集合住宅へと追いやられようとしている。もしこの国がアパート暮らしの国になれば、出生率はもっと落ち込むだろう。
 これらが米国の将来について暗示することは何だろうか。歴史をひもとけば、人口とその国の運命の関係が見えてくる。古代ローマからルネサンス期のイタリア、近現代のオランダまで、国家は出生率が低下し人口が減少する局面で没落している。
 多くの欧州の人は、米国の超高齢化社会の仲間入りを歓迎しているかもしれない。学者の多くや環境保護主義の人たちも喜ぶかもしれない。オバマ政権のメンバーも同様だ。彼らは子どもを少なくすることがCO2(二酸化炭素)削減の手段と考えるかもしれないからだ。そして、おそらく一番喜んでいるのは、北京の権威主義的な官僚たちだろう。彼らの優秀な子どもたちは米国の大学院へ進学し、より自信を深めて母国へ戻って世界を支配するようになるだろう。
by Joel Kotkin
(c) 2011 Forbes.com LLC All rights reserved.

26/09 [FT]米中を揺さぶる台湾の総統選



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2011/9/26 7:00
(2011年9月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 中国が再び選挙の季節を迎えている。少なくとも、北京の中央政府が中華人民共和国の不可分の領土と主張している、自前の統治機構を持つ台湾ではそうだ。台湾の総統選挙は人口2300万人程度の忘れられがちな小さな島の選挙だが、その結果には米国と中国という世界の2大大国が強い関心を持っている。
■実績の現職、独立志向の対抗馬
演説で中台の緊張緩和の成果を強調する馬英九総統(8月23日、金門島)=AP
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演説で中台の緊張緩和の成果を強調する馬英九総統(8月23日、金門島)=AP
 両国にとって誰が台湾総統の座に就くかは、おそらくフランスの大統領が誰かよりも重要な問題だ。
 来年1月に投票が行われる選挙では、現職の馬英九氏が4年の任期を終えて再選を目指す。与党・国民党の主席(党首)である馬氏は、台湾海峡における危険な緊張関係を緩和させ、中国本土との間で経済関係や交通の便を強化・拡充した実績などをアピールすることになる。
 馬氏の行動は米国政府で高く評価されている。台湾海峡という世界で最も紛争が生じやすい場所で緊張をやわらげたことに感謝しているのだ。米国は1979年の台湾関係法の下で、台湾の防衛を支援することが法的に義務づけられている。もし中台戦争が勃発するようなことがあれば、少なくとも理屈の上では、米国は台湾側について戦う可能性がある。
 馬氏のライバルの筆頭は、最大野党である民主進歩党(民進党)の主席、蔡英文氏だ。物腰穏やかな人物だが、民進党は以前、独立路線を強硬に推し進めたことがある。同党の元主席である陳水扁・前総統は、中国から危険な「分離主義者」と見なされていた。
 蔡氏は陳氏のような芝居がかった言動を控え、中国とは「穏やかで安定的な」関係を望むと語っている。ただし、中国本土との経済統合は減速させると公約している。中国経済に過度に依存すれば、北京の中国政府の政治的な勢力圏内に吸い寄せられてしまう危険性がある、というのがその理由だ。
■現職支持ほのめかす米国
 総統選挙の結果は米国政府にとって明らかに重要だ。オバマ政権のある高官は先日、同盟国の選挙に干渉しないという黄金律を破り、「馬氏を支持」する姿勢をほのめかした。フィナンシャル・タイムズとの会見に応じたこの高官は、巧妙とは言い難いメディア操作を試み、ワシントンでの蔡氏との会談について「中台関係の安定性を維持する意志と能力が彼女にあるのかという疑問がはっきり残った」と語った。
 台湾当局は米国の精神的な支援に加え、その軍事的な支援にも依存している。先日、米国政府が新型のF16戦闘機66機の台湾への供与を見送る方針であることが明らかになった。中国政府は以前から、新型戦闘機が売却されれば、政府として強く抗議し、米国との軍事交流を停止すると明言していた。
 米国は中国の圧力に屈したようで、新型戦闘機を売る代わりに、台湾が既に保有している初期型のF16「A/B型」戦闘機を更新することにした。この一件は、台湾への米国の関与が弱くなった印と解釈されるかもしれない。中国と台湾の軍事バランスは中国優勢の方向に急速に傾いており、たとえ新型戦闘機を導入できても台湾は中国の攻撃から自分たちを守りきれないのではないか、と専門家たちは指摘している。
演説する民進党の蔡主席=左=(9月9日、台北)=ロイター
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演説する民進党の蔡主席=左=(9月9日、台北)=ロイター
■態度を決めかねる中国
 中国政府も同じように1月の選挙に注目しているが、米国政府と異なり、まだ姿勢を明らかにしていない(中国があまりに強く馬氏を支持すれば、一部の台湾人は対立候補に投票する気になりかねない)。加えて中国の学者らは、蔡氏が過度に中台関係に波風を立てることはないと見ている。
 米国政府内と同様、中国政府内でも台湾に対する見方には流動的なところがある。中国の江沢民前国家主席は台湾に強硬姿勢を取り、迅速な統合を求めた。対照的に胡錦濤国家主席は統合を求める発言を控え、台湾を中国本土に密に結びつける方法として経済関係の強化に専念してきた。
 国家主義者の間では、胡主席は台湾問題で態度を和らげすぎたという不満の声も上がっている。ローウィー国際政策研究所の安全保障の専門家、ローリー・メドカーフ氏は、2013年に完了する中国の微妙な政治体制移行に向けて強硬派が勢いを増していると指摘し、「中国では今、融和的な姿勢によって得られるものは何もないようだ」と話している。
■争点は中台問題より経済
 こうした地政学的な争いを背景に、過去の台湾総統選挙は緊迫した展開となった。台湾が民主主義に転換した1996年の最初の総統選では、中国政府は台湾上空にミサイルを飛ばして祝った。2004年には陳氏が再選を果たしたが、投票前日に銃撃された。同氏は後に汚職で収監された。
 今回の選挙は、運がよければ、緊迫の度合いがずっと弱まるだろう。世論調査では、有力候補の間にはF16の機首が入るか入らないかの接戦となっている。興味深いことに、中台問題は選挙戦の最重要争点になっていない。
 有力候補は2人とも中道に歩み寄ったと見られ、蔡氏が中国政府との責任ある関係を強調する一方、馬氏は親中と受け取られているスタンスを和らげている。その結果、中台問題からトゲが取り除かれることになった。
 このため、両党は世界各地の有権者におなじみの領域で選挙を戦うことになる。つまり、雇用、福祉、所得格差、統治能力といった問題だ。
 米中両国政府の強い関心にもかかわらず、台湾の有権者は自分たちにとって最も重要な問題に重点を置く。その観点からすると、今回の総統選はニューヨークやソウル、ロンドンでの選挙と変わらないものになるだろう。素晴らしいことではないか?
By David Pilling
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2011. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

26/09 UBSの巨額損失事件、増幅する欧州への恐れ  編集委員 小平龍四郎



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2011/9/26 7:01
小平龍四郎(こだいら・りゅうしろう) 88年日本経済新聞社入社。証券会社・市場、企業財務などを担当。2000年~04年欧州総局(ロンドン)で金融分野を取材。現在、経済金融部編集委員兼論説委員。
小平龍四郎(こだいら・りゅうしろう) 88年日本経済新聞社入社。証券会社・市場、企業財務などを担当。2000年~04年欧州総局(ロンドン)で金融分野を取材。現在、経済金融部編集委員兼論説委員。
 最近はドイツやフランスなどユーロ圏の銀行ばかり注目していたので、巨額損失の一報が非ユーロ圏のスイスから飛び込んできた時には少し慌てた。UBSの31歳のトレーダーが会社に無許可の不正取引で20億ドル規模の損失を出した事件だ。
関連記事
・9月12日ロイター「JPモルガンCEO バーゼル規制は『反米的』、脱退検討を」
・9月13日日経朝刊8面「英、銀行規制見直し最終報告 商業銀を投資銀から分離」
・9月15日FT電子版「ならず者を遮断するのは当然のことだ」(Of course it's right to ringfence rogue universals)
・9月16日日経朝刊8面「UBS、1500億円損失 トレーダーが不正取引」
・9月20日ニューヨーク・タイムズ・ディールブック「トレーディング不祥事で加速するUBSの変革」(Trading Scandal Could Hasten Changes at UBS)
・9月20日日経夕刊3面「ウォール街ラウンドアップ 不正取引に揺れる金融株」
今週の筆者
月(市場)小平龍四郎
竹中平蔵
慶大教授
水(企業)西條都夫
木(経済)滝田洋一
金(企業)田中陽
 報道によれば、この青年はガーナ出身で、英国の名門大学を卒業後、UBSに入社。学生時代に修めたコンピューター・サイエンスの知識を生かしてトレーダーの道を順調に歩んでいた。リーマン・ショック前のシティ(英金融街)を肩で風を切って歩いていた、利発で上昇志向の強そうなタイプを想像してしまう。
 株価指数先物や上場投資信託(ETF)の取引をしていた彼がどうやって損失を膨らませたのかは、まだ明らかになっていない。様々なブログには「組織の責任を1人で背負わされたのだろう」といった、同業者からと見られる書き込みもある。今後の社内外の調査で真相が明らかにされるのだろうが、現時点ではギリシャ危機に揺れる欧州の金融界に、不透明な要因が1つ加わった格好だ。
 米株式市場にとっても「欧州」は最大の火種だ。バンク・オブ・アメリカの北米エコノミスト、イーサン・ハリス氏は「ユーロ圏のインフルエンザ」と題するリポートで、欧州要因が米国株に与える影響を検証している。
■下落する米株式市場、「欧州」が最大の火種に
 2010年以降でS&P500種株価指数の騰落率の絶対値が最も大きかった10回の事例を抽出すると、そのうち6回は下落だった。要因を見ると、6回の下落の中で米国債格下げの懸念による1回を除き、残りの5回はすべて欧州の債務危機や金融システム不安によるものだった。
 ハリス氏は米投資家にとって欧州は分かりにくい部分が多いとしたうえで、「株価急落の一因は、未知に対する恐れによるものだ」と結論づけた。米市場関係者にとって目下の最大の「恐れ」はギリシャの債務不履行だろうが、急に表面化したUBSの巨額損失も欧州への「恐れ」を増幅させるのに十分だ。
ロンドンの金融街シティにあるUBSの拠点=ロイター
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ロンドンの金融街シティにあるUBSの拠点=ロイター
 この事件は別の意味でも米欧の金融機関にとって痛手となりかねない。リーマン・ショック後の金融規制の強化を徹底する根拠として利用される可能性があるからだ。UBSの巨額損失が判明する直前には、米JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)が厳しい資本規制を課すバーゼル3に猛然と反論を試み、「バーゼルからの脱退」まで示唆している。
■金融規制強化に追い風
 さらに英国では、投資銀行業務の損失が商業銀行に及ばないように組織を分けるringfenceという規制案が発表された。これについては反対論も根強いが、UBSの不正取引は規制支持派を「それ見たことか」とばかりに勢いづかせかねない。フィナンシャル・タイムズ紙のコラムニスト、マーチン・ウルフ氏は「(規制の必要性を示してくれて)ありがとう、UBS」とまで書いた。
 金融規制については、主に景気への配慮から行き過ぎを戒める意見も多い。米国ではすでに成立している金融規制改革法(ドッド・フランク法)を骨抜きにするためのロビーイングも活発だ。しかし、グローバル金融の風向きはまだ、規制強化を後押しするように吹いている。UBSが損失発生前に明らかにしているような1000人単位の投資銀行部門の人員削減も、加速していくのだろう。