26/09 [FT]米中を揺さぶる台湾の総統選



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2011/9/26 7:00
(2011年9月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 中国が再び選挙の季節を迎えている。少なくとも、北京の中央政府が中華人民共和国の不可分の領土と主張している、自前の統治機構を持つ台湾ではそうだ。台湾の総統選挙は人口2300万人程度の忘れられがちな小さな島の選挙だが、その結果には米国と中国という世界の2大大国が強い関心を持っている。
■実績の現職、独立志向の対抗馬
演説で中台の緊張緩和の成果を強調する馬英九総統(8月23日、金門島)=AP
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演説で中台の緊張緩和の成果を強調する馬英九総統(8月23日、金門島)=AP
 両国にとって誰が台湾総統の座に就くかは、おそらくフランスの大統領が誰かよりも重要な問題だ。
 来年1月に投票が行われる選挙では、現職の馬英九氏が4年の任期を終えて再選を目指す。与党・国民党の主席(党首)である馬氏は、台湾海峡における危険な緊張関係を緩和させ、中国本土との間で経済関係や交通の便を強化・拡充した実績などをアピールすることになる。
 馬氏の行動は米国政府で高く評価されている。台湾海峡という世界で最も紛争が生じやすい場所で緊張をやわらげたことに感謝しているのだ。米国は1979年の台湾関係法の下で、台湾の防衛を支援することが法的に義務づけられている。もし中台戦争が勃発するようなことがあれば、少なくとも理屈の上では、米国は台湾側について戦う可能性がある。
 馬氏のライバルの筆頭は、最大野党である民主進歩党(民進党)の主席、蔡英文氏だ。物腰穏やかな人物だが、民進党は以前、独立路線を強硬に推し進めたことがある。同党の元主席である陳水扁・前総統は、中国から危険な「分離主義者」と見なされていた。
 蔡氏は陳氏のような芝居がかった言動を控え、中国とは「穏やかで安定的な」関係を望むと語っている。ただし、中国本土との経済統合は減速させると公約している。中国経済に過度に依存すれば、北京の中国政府の政治的な勢力圏内に吸い寄せられてしまう危険性がある、というのがその理由だ。
■現職支持ほのめかす米国
 総統選挙の結果は米国政府にとって明らかに重要だ。オバマ政権のある高官は先日、同盟国の選挙に干渉しないという黄金律を破り、「馬氏を支持」する姿勢をほのめかした。フィナンシャル・タイムズとの会見に応じたこの高官は、巧妙とは言い難いメディア操作を試み、ワシントンでの蔡氏との会談について「中台関係の安定性を維持する意志と能力が彼女にあるのかという疑問がはっきり残った」と語った。
 台湾当局は米国の精神的な支援に加え、その軍事的な支援にも依存している。先日、米国政府が新型のF16戦闘機66機の台湾への供与を見送る方針であることが明らかになった。中国政府は以前から、新型戦闘機が売却されれば、政府として強く抗議し、米国との軍事交流を停止すると明言していた。
 米国は中国の圧力に屈したようで、新型戦闘機を売る代わりに、台湾が既に保有している初期型のF16「A/B型」戦闘機を更新することにした。この一件は、台湾への米国の関与が弱くなった印と解釈されるかもしれない。中国と台湾の軍事バランスは中国優勢の方向に急速に傾いており、たとえ新型戦闘機を導入できても台湾は中国の攻撃から自分たちを守りきれないのではないか、と専門家たちは指摘している。
演説する民進党の蔡主席=左=(9月9日、台北)=ロイター
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演説する民進党の蔡主席=左=(9月9日、台北)=ロイター
■態度を決めかねる中国
 中国政府も同じように1月の選挙に注目しているが、米国政府と異なり、まだ姿勢を明らかにしていない(中国があまりに強く馬氏を支持すれば、一部の台湾人は対立候補に投票する気になりかねない)。加えて中国の学者らは、蔡氏が過度に中台関係に波風を立てることはないと見ている。
 米国政府内と同様、中国政府内でも台湾に対する見方には流動的なところがある。中国の江沢民前国家主席は台湾に強硬姿勢を取り、迅速な統合を求めた。対照的に胡錦濤国家主席は統合を求める発言を控え、台湾を中国本土に密に結びつける方法として経済関係の強化に専念してきた。
 国家主義者の間では、胡主席は台湾問題で態度を和らげすぎたという不満の声も上がっている。ローウィー国際政策研究所の安全保障の専門家、ローリー・メドカーフ氏は、2013年に完了する中国の微妙な政治体制移行に向けて強硬派が勢いを増していると指摘し、「中国では今、融和的な姿勢によって得られるものは何もないようだ」と話している。
■争点は中台問題より経済
 こうした地政学的な争いを背景に、過去の台湾総統選挙は緊迫した展開となった。台湾が民主主義に転換した1996年の最初の総統選では、中国政府は台湾上空にミサイルを飛ばして祝った。2004年には陳氏が再選を果たしたが、投票前日に銃撃された。同氏は後に汚職で収監された。
 今回の選挙は、運がよければ、緊迫の度合いがずっと弱まるだろう。世論調査では、有力候補の間にはF16の機首が入るか入らないかの接戦となっている。興味深いことに、中台問題は選挙戦の最重要争点になっていない。
 有力候補は2人とも中道に歩み寄ったと見られ、蔡氏が中国政府との責任ある関係を強調する一方、馬氏は親中と受け取られているスタンスを和らげている。その結果、中台問題からトゲが取り除かれることになった。
 このため、両党は世界各地の有権者におなじみの領域で選挙を戦うことになる。つまり、雇用、福祉、所得格差、統治能力といった問題だ。
 米中両国政府の強い関心にもかかわらず、台湾の有権者は自分たちにとって最も重要な問題に重点を置く。その観点からすると、今回の総統選はニューヨークやソウル、ロンドンでの選挙と変わらないものになるだろう。素晴らしいことではないか?
By David Pilling
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2011. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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