26/09 これで分かる ギリシャ・欧州不安の今



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2011/9/26 7:00
 財政危機に揺れるギリシャの公的債務の規模は約3300億ユーロ(約34兆円)。2008年に破綻した米金融大手リーマン・ブラザーズの当時の総資産は約6900億ドル(約53兆円)――。ギリシャの国内総生産(GDP)はユーロ圏の3%弱にすぎず、債務残高は欧米巨大銀行の総資産にも満たない。それでも「リーマン・ショックの再来」と騒がれるのは欧州が通貨ユーロで経済的に深くつながっているからにほかならない。
■観光客は大幅に増えているが…
政府の規制見直しに抗議し、国旗を振るタクシー運転手(13日、アテネ)=ロイター
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政府の規制見直しに抗議し、国旗を振るタクシー運転手(13日、アテネ)=ロイター
 クレタ島やロードス島などエーゲ海に浮かぶリゾート地は、今夏も海外からの観光客でにぎわった。ギリシャ観光業協会は2011年の海外観光客を、前年比12%増の1650万人と過去最高を予想する。財政危機とは別世界にみえ、GDPの5分の1を支える観光業に陰りは見えない。
 ところが、観光客の行動をつぶさにみてみると異変がわかる。ギリシャの国内空港を利用した海外顧客は1~8月で前年同期比10%増。なかでも、ロードス島の空港は24%増、クレタ島は13%増えた。ところが、アテネ空港は1.5%減少。観光客はアテネを避けているのだ。
 アテネでは政府による緊縮財政に反対するデモやストライキが頻発し、ストで飛行機の発着に影響が出る事態にもなった。タクシーもストライキで動いていない。賃金カットや公務員のリストラ、増税で個人消費は低迷し、街には失業者やホームレスも増えている。公共の図書館は数多く閉鎖され、教師の給与削減のため、学校は午後1時に終わる。国外に脱出する人も後を絶たない。
 今年で景気後退は3年目となり、5.5%のマイナス成長と経済収縮の速度も増している。プラス成長が見込まれていた12年についても、このほど、2%程度のマイナス成長に下方修正された。08年に7%台だった失業率は今年4~6月には16.3%に上昇。29歳以下の若年層は32.9%に達する。財政危機が深刻化する前に比べ、自殺率は2倍になった。
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 銀行からは預金流出が顕著だ。個人や国内企業の預金量は09年9月のピークに比べ21%減少した。銀行は資金繰りに窮しており、欧州中央銀行(ECB)から借り入れてなんとかしのいでいる。保有するギリシャ国債は市場で半値以下。貸し出しの抑制が実体経済にも影響を与えている。
■デフォルト確率は91%
 「これ以上の歳出削減は現実的ではない」(英運用大手インベスコ・アセット・マネジメントのエコノミスト、ジョン・グリーンウッド氏)。ギリシャは公務員への手当が厚く、徴税率も低いなど他国に比べ財政が放漫な印象が強い。それでも市場関係者は、財政規律一点張りのドイツなどユーロ圏諸国の対応に疑問を抱く。欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)の融資を引き出すために政府は21日、追加策を発表したが、労働組合は反発し、実効性は早くも疑問視されている。
 ギリシャの債務不履行(デフォルト)の確率は91%――。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれ、保険の役割を果たす金融商品がある。例えば、ギリシャの5年物国債を1000万ユーロ保有する投資家が、万が一のデフォルトに備えてCDSを買った場合、500万ユーロの前金と年10万ユーロの保証料を売り手に支払えば、デフォルトした際に売り手が元本を保証する取引がされている。この保証料から算出される破綻確率は91%になる。ギリシャ国債を売れない投資家が高額の保証料を払っている。
 国債の流通市場では、ギリシャの2年物国債利回りが一時100%を超える水準まで上昇した。異常値とも言える利回りになるのは、「市場関係者が利回りではなく価格をみて売買しているため」(債券トレーダー)。2年債の価格は額面100ユーロに対して45ユーロ程度。2年債から10年債まで国債の流通価格はそろって40~45ユーロに下落しており、55~60%のデフォルトが起きることを見込んで売買している。債券の性質上、価格が同じであれば、満期が短いほど利回りは高くなるわけだ。
 ギリシャの財政が健全性を回復するには「60%程度の債務カットが必要」(英投資銀行バークレイズ・キャピタル)とも言われ、デフォルトは不可避との見方がもはや市場関係者の共通意見。ただ、デフォルトになった場合に、ギリシャ国債を保有する銀行が資本不足に陥らないよう資本注入したり、他の財政不安国にもデフォルト懸念が広がらないよう国債を買い支える仕組み作りが必要とされてきた。
 ところが、ユーロ圏が仕組み作りでもたついている間に、世界経済の減速が顕著になり、イタリア国債にも売り圧力が広がった。南欧国債を多く抱える銀行への不安も台頭。ギリシャの公的債務残高は3300億ユーロにすぎないが、PIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)と呼ばれる財政不安国の合計では3兆1200億ユーロ。08年当時、1兆ドルと言われた米サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)の市場規模の4倍になる。
■仏銀にも波及する不安
政府の緊縮政策に反対し、議会前で抗議する人たち(21日、アテネ)=ロイター
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政府の緊縮政策に反対し、議会前で抗議する人たち(21日、アテネ)=ロイター
 仮にイタリア国債の下落が深刻化すれば、資本不足に陥る銀行が出てくる可能性が高い。リーマン・ショック時にはサブプライムローンやCDO(債務担保証券)を多く抱えている銀行への貸し渋りが強まった。今回は、PIIGS国債のイタリア国債の保有が多い銀行に対し不信の目が向けられている。日本市場まで波及し、第一生命の株価が20日には一時6.6%の下落となった。
 やり玉に挙がっているのが南欧との関係が深いフランスの大手銀だ。市場では毎日のように合併説や、政府による公的資金注入、カタールによる買収などうわさが飛び交う。「ギリシャ国債が50%カットになっても資本に問題はない」(仏銀ソシエテ・ジェネラル幹部)などと、不安払拭に躍起だが、仏銀の株価は金融危機の水準まで低下している。
 ユーロ圏は金融システムを通じて経済の相互依存が進んでおり、危機が波及しやすい構造を抱える。さらに問題なのはギリシャ以外の各国も危機に「感染」しやすいほど、財政状態に問題を抱える。
 住宅バブルがはじけたスペインでは銀行の不良債権比率が7月に6.9%に達した。1990年代の前半から半ばにかけての金融危機以来の水準だ。企業向け融資のうち4割は不動産業や建設業。不動産業向けは18%が不良債権化しており、さらに上昇する可能性が指摘されている。
■欧州金融安定基金で救えるのか
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 「本命はスペイン」。ロンドンの著名ヘッジファンド、キャプラ・インベストメント・マネジメントの創業者、浅井将雄氏はこう指摘する。スペインの公的債務のGDPに占める割合は60%程度とユーロ圏の平均85%に比べて低い。しかし、アイルランドが公的資金で銀行を支援した結果、この比率が08年の44%から10年に96%にまで上昇してしまったような、「民間部門から公的部門への債務移転が起きる」とみる。
 欧州は4400億ユーロの欧州金融安定基金(EFSF)を設けて、危機に陥った国を金融支援する体制を整えている。だが、もし危機がスペインやイタリアまで波及したら、「EFSFで救えるというのはまったくの空想」(英債券運用大手のM&Gインベストメンツのファンドマネジャー、デービッド・ロイド氏)。
 経済規模がユーロ圏で3位と4位の国をドイツをはじめ他の国が救うことは難しく、ユーロ圏の解体すら現実味を帯びてくる。これまで、財政問題が深刻化しても通貨ユーロは堅調だったが、為替相場は直近で一時1ユーロ=102円台をつけるなど、10年ぶりのユーロ安水準まで下落してきた。
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 何とかして危機の広がりを防がなければならならいが、ドイツなどはユーロ圏全体の信用力で債券を発行するユーロ共同債など、危機を未然に防ぐ仕組み作りには消極的だ。これ以上の救済コストは払いたくないとの自国世論を反映しており、「緊縮財政が唯一の解決策」(ショイブレ独財務相)との姿勢を崩さない。独仏首脳の「ユーロを守る」とは言葉だけで実行を伴っていない。
 ロンドンの株式トレーダーは「株価はまだまだ底を打っていない」(米系投資銀行モルガン・スタンレー)と頭を抱える。日本の投資家を顧客とする債券トレーダーも「最近はイタリアやスペインの国債の売り注文ばかり」(日系投資銀行)と嘆き節だ。市場関係者は現状をまだ危機の入り口に過ぎないと見ている。
(ロンドン=松崎雄典)

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