沈む先進国株価、避難港は新興国株か



証券部 北松円香

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2011/9/8 20:18
 「ここからの相場は、新興国株の方が先進国株より優位」。株式市場でこうした見方が増えている。欧州の財政問題がくすぶり続けるうえ、欧米や日本の経済の先行きも不透明。こうした局面ではすでに低金利の先進国より、これまで利上げを進めてきた新興国の方が利下げ余地が大きく、景気を下支えしやすいとの見立てだ。もっとも投資家が分散投資を進めるほど、先進国株の動揺が新興国にも波及しやすくなるジレンマもある。新興国シフトを一段と進めるべきか否か。資金の避難港(セーフハーバー)を求める投資家の悩みは続きそうだ。
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「最近は欧州の機関投資家から、アジア株ファンドの解約が相次いでいる。自国の金融市場の混乱が影響しているのだろう。逆に、流入資金のほとんどは米系投資家だ」。今週来日したアバディーン・アセット・マネジメント・アジアのシニア・インベストメントマネジャー、クリストファー・ウォン氏に最近の投資家動向を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
 ウォン氏の担当はアジア株運用。アジアを中心とした新興国株に強気な理由はたくさんある。人口が増え、平均年齢も先進国より若いから、まだまだ消費の拡大が見込める。逆に欧米など先進国は政府の財政も家計も立て直しに5~10年かかりそうという。
 経済成長率の違いに加えて長期的な追い風とみているのが、同社のファンドの資金流出入にもみてとれる需給動向だ。米国の投資家が分散投資を本格化しており、新興国株への一段の資金配分が見込めるという。
 米国株は世界の株式市場の時価総額全体の4割を占める最大市場。それだけに米国の投資家は自国資産に重点的に投資する「ホームカントリー・バイアス」が強いとされてきた。だが「最近は新興国株への理解が深まってきた。米国で低金利が続けば、新興国株への投資でドル安・新興国通貨高の恩恵も受けられる」(ウォン氏)。
 実際、投資信託の資金流出入には米投資家の分散投資の進展が表れている。大和証券キャピタル・マーケッツの集計によると、2005年以降、米国では海外株投信への資金流入が米国株投信を毎年上回っている。資金が流出した年も、海外株投信の方が米株投信より流出額は小さかった。成瀬順也チーフストラテジストは「足元では米国の個人投資家はリスク回避のためいったん株式全体から資金を引き上げているが、長期的にみると米国株から新興国株にシフトしている」と指摘する。
 株価の動きをみても、今年初めまでの先進国株優位の構図は後退している。昨年後半から今年初めまでは、先進国の金融緩和や人口増加による需要増でインフレが進み、新興国では金利引き上げが続くとの懸念から新興国株は伸び悩んだ。足元では逆に「中国も物価の上昇は峠を越えた。世界景気減速の不安が強まる局面では、相対的に景気が底堅く、利下げ余地もある新興国の株式が評価されやすい」(しんきんアセットマネジメント投信の三浦直人ファンドマネージャー)との声が聞かれるようになってきた。
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もっとも投資家にとって悩ましいのは、先進国株と新興国株の相関が年々高まっている事実だ。先進国と新興国の株価指数の月次騰落率の相関(24カ月ベース)は、1990年代初めは0.5前後だった。それがここ数年は、0.8から0.9程度で推移している。相関係数は1で完全一致を意味するので、かなり連動性が強いといえる。
 市場間の垣根が低くなり、各国の投資家の分散投資が進むほど、1つの市場の混乱が他市場に波及しやすくなる。もちろん、先進国株、新興国株のどちらか一方に集中投資するよりは、資金を分散させた方が運用の安定性は高まるだろうが、先進国の株価が急落すれば新興国株も打撃を免れない。
 「次にリスク資産を買うなら新興国株式。でも、もう少し様子を見てからにしたい」。今月7日、ピクテ投信投資顧問の松元浩資産運用部長は顧客にこんな内容のリポートを配った。「新興国の株価は、欧米経済の減速による外需低迷を織り込みきっていない。買うのはもう一段下げてから」(松元氏)。多様な資産の連動性が高まった今日の株式市場では、完全に安全な避難港など見つけられない。無事に乗り切るには日々マーケットに向き合って資金配分の戦略を練り、投資のタイミングを計るしかなさそうだ。

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