政策ミスが不況をつくる=ロバート・ジェネツキー氏



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2011/9/8 15:06
ロバート・ジェネツキー氏
クラシカルプリンシプルズ社長
 米国はじめ世界の大半の国々で景気鈍化の兆しが出ている。もともと日本の原発事故が起こしたサプライチェーン問題(供給混乱)によるものと説明されていたが、夏になっても景気は回復しない。世界経済は長期的に停滞あるいは再びリセッション(景気後退)に陥るとの観測が強まっている。
 米国では、住宅市場における投機的な動きや住宅ローン証券化の不備から発生した住宅市場関連の問題が景気悪化の原因とする見方が優勢だ。それはそれで深刻な問題であることに間違いはない。しかし、住宅関連の問題が景気を急激に冷え込ませたのではなく、それらは景気悪化がもたらした結果だ。金融危機と、その後の弱々しい景気回復は、米国あるいは他の国の政府による重大な政策ミスの結果なのである。
 世界経済は相互に密接に関連している。米国経済は巨大であるがゆえに、その金融政策はしばしば他国の中央銀行に影響を及ぼす。米連邦準備理事会(FRB)は2001~05年、政策金利を人為的に低水準に押さえ込むことで金融を著しく緩和した。住宅市場の投機的な動きを助長し、経済全般にレバレッジを効かせた取引が横行する原因を作ったのが、その金融緩和政策だった。
 FRBは05~08年、今度は金融を極度に引き締める政策に転換した。政策金利を04年の1%から06年後半にかけて5.25%に引き上げたのだ。そのあおりで国内支出は減少し、そして経済全般でレバレッジ解消・縮小の動きが始まった。07年にFRBは利下げに転じたが、金融そのものは一段ときつくなった。08年夏には、(中央銀行が供給するマネーの指標である)銀行準備が3年前の水準から3%も減少した。
 銀行準備を減らすことでFRBは流動性を抑制。流動性低下の影響は住宅市場などにも波及し、国内支出が急激に落ち込んだ。一方、財務省は08年9月にファニーメイ(連邦住宅抵当公社)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)の優先株を購入。流動性は急激に高まったが、優先株の株価が急落したため優先株を保有していた米銀のバランスシートを毀損するという結果を招いた。
 08年11月、FRBは今度は銀行準備を増やす方向に動く。すぐに銀行システムに流動性が戻り始め、企業倒産が減り始めた。09年の春から夏にかけて景気は回復基調となった。
 このように、FRBだけでなく世界の中央銀行の多くが、その政策が流動性を細らせ、リセッションを引き起こすという予期せぬ危険をはらんでいることを認識していない。
 また過去に例がいくつもあるように、誤った財政政策が経済の傷口を広げる可能性もある。政府の借り入れが増えれば景気浮揚に役立つと欧米では信じられている。しかしそれは、企業が事業拡大や成長に必要な信用を得ることをさらに困難にすることがある。
 経済の先行き不安から株式相場は世界的に下落している。その不安はもっともだ。前回のリセッションを引き起こし、その後も景気回復を遅らせている政策ミスを、当の責任者たちが無視し続けているからだ。ミスに気付かない限り長期にわたる低成長か、再度のリセッション入りの確率は非常に高くなる。

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