02/12 日本のTPP騒動 米国の無関心(NY特急便)


米州総局・西村博之

2011/12/2 10:08
 「御社を買収して、大手メーカーに転売したらもうかるだろうか」。最近、訪米したラクオリア創薬の長久厚社長は米国のある投資家にそう言われて驚いたという。
 米系製薬会社ファイザーの研究者らが独立して設立したベンチャー企業。7月にジャスダック市場に上場したが株価は低迷し、株主のすそ野を広げようとファンドや機関投資家を回った。
 「赤字でも技術や将来性しだいで思い切って資金を出す米投資家なら当社を評価してもらえる」と確信していたが、転売発言まで飛び出す“アニマルスピリット”には、さすがに面食らった。
 低迷が続く米経済だがアップルなどを挙げるまでもなく、新たな企業を育てる制度や文化には、なお定評がある。米国では赤字の医薬ベンチャーが巨額の資金を集め、ヒット薬を連発しているという。逆に、この点が日本の弱さ。赤字ベンチャーの資金調達の難しさはほんの一例だが、久しく指摘されながら、ずっと解決できずにいる。
 ウォール街そばのホテルで、1日から開かれている日米財界人会議。参加者の1人は、こううらやましがる。「型破りのイノベーションを生み、それを形にできる米国には底力がある」。
 日米経営者が年1回集まって経済問題を討議する同会議は今年で48回目だが、近年は大物の出席がめっきり減った。今回も日本側の米倉弘昌経団連会長が体調不良で欠席すると米側議長もあっさり代役を立て、米側の関心の薄さを映した。
 背景には「改革できない日本」がある。「今回の財界人会議が前哨戦になる」との声が多かった環太平洋経済連携協定(TPP)も一例だ。
 日本では、米国に強引な市場開放や規制緩和を迫られるとの警戒感も渦巻くが、「嫌なら、どうぞご勝手にというのが米国の基本姿勢。本来、これは日本が自身をどうするかという選択の問題」と対日政策に影響力をもつ有力研究者は語る。
 人口減や高齢化に直面する日本経済の潜在成長率を高め、先細りを防ぐには生産性の向上が不可欠。これには農産品の市場開放にとどまらず、サービスや製造分野にも外からの資金や企業を招き入れて競争し、自らを鍛えるしかない。
 その過程で、先の新興企業の立ち上げを妨げるさまざまな「壁」も含め、日本経済が抱える非効率を幅広く崩す。TPPはそのきっかけ、と先の研究者は指摘する。
 先にニューヨークで記者会見した米国務省のホーマッツ次官(経済、エネルギー、農業担当)は米国の通商政策について広く語ったが、口にしたのは中国、韓国、チリ、コロンビアなど。日本への言及は皆無だった。
 その点を問うと「日米の経済関係は成熟しているから」と答えた。関心がない、とは言えない。まさに外交辞令だろう。

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