ソロス流の社会的責任投資とは  編集委員 梶原誠

2010/9/16 7:02

梶原誠(かじわら・まこと) 88年日本経済新聞社入社。ソウル、ニューヨーク、証券部編集委員、論説委員を経て09年から米州総局(ニューヨーク)編集委員。興味分野は「市場に映るものすべて」。

 著名投資家のジョージ・ソロス氏は、世界的な慈善家としても知られる。特徴は2つの顔を完全に使い分けること。投資家として冷徹に運用益を上げ、もうけを社会貢献に回してきた。


関連記事 ・7月5日日経夕刊7面「社会問題ビジネスで解決?(ニッキィの大疑問)」
・7月14日毎日新聞朝刊「ユニクロ、グラミン銀行と合弁会社」
・9月14日日経朝刊15面「市場立国・米国の賭け(一目均衡)」


 それだけに気になっていたのは、同氏が今年、SKSマイクロファイナンスというインド企業の株式を買ったニュースだ。SKSはインドで貧困層の女性に融資する銀行。これまでの原則を破り、インドの貧困解消を投資で支援したいのでは、という疑問がわく。

 先週ソロス氏に尋ねたら、こんな反応だった。「投資家として運用益を極大化したいだけ。ビジネスモデルが気に入った。株価はまだ魅力的(割安)だ」。

 あっさり否定されたわけだが、この答えには「社会的責任投資」の本質が隠れている。社会に貢献する企業は長い目で見れば成長し、株を買った投資家の利益にもなるという考え方だ。

 社会的責任投資の対象は、環境に配慮するなど社会との共生を目指す企業。だが、そのための費用がかかるため、手っ取り早く収益を上げて欲しい投資家には根付きにくかった。投資で社会に貢献したいという強い意志あっての、慈善色の濃い手法ともいえた。

 しかし、経営者や投資家が長期的な視点に関心を持ち始めたことで、風潮は変わってきた。例えば今、「ソーシャルビジネス」が頻繁に報じられている。非営利組織(NPO)が主役だった貧困や教育などの社会問題を、企業が営利目的で手掛けるようになった。

 7月には「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが話題をさらった。貧困層への融資で知られるグラミン銀行と組み、最貧国のひとつであるバングラデシュで衣料を製造・販売する。

 雇用創出や生活水準の向上という社会貢献はもちろんだが、目標は収益でもある。「(人口約1億6000万人の)バングラデシュは将来、巨大な市場になる。将来のユニクロファンを作る」と柳井正会長兼社長の視野は長い。


リーマン・ショックで企業と社会との「共生」に目を向け始めた投資家


 短期的な視野に疑問符がついたきっかけは、2008年のリーマン・ショックだった。ウォール街の金融機関は目先の収益にこだわる投資家の求めに応じ、短期的な市場シェア競争に明け暮れた。共振が限界に達した結果が、歴史的な不況の引き金を引いたリーマン・ブラザーズの破綻だ。生活を傷つけられた人々は怒り、ウォール街は今も信頼の低下に悩んでいる。

 危機と同時に企業の持続可能性(サステナビリティー)が話題になったのは偶然ではない。手間をかけてでも社会と共存しないと企業が永続できないことに、経営者も投資家も気づきはじめた。

 ソロス氏がほかの投資家と違うのは、社会的責任投資などという特別な言葉を使わないところ。ソーシャルビジネスが利益を生むのなら、確かに慈善活動ではなく将来の成長を見込んだ普通の投資だ。企業は幅広い投資家層のリスクマネーに支えられ、社会問題の解決も後押しするだろう。

 リーマン・ショックから2年が過ぎた。市場経済の暗部は山ほど表面化したが、衝撃が生んだ進化の芽も間違いなくある。

source: nikkei

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