急成長する「国家会社」の危うさ - 編集委員 西條都夫

2010/9/20 7:00


西條都夫(さいじょう・くにお) 87年日本経済新聞社入社。産業部、米州編集総局(ニューヨーク)などを経て産業部編集委員。専門分野は自動車・電機・企業経営全般・産業政策など。

 リーマン・ショックから2年たったが、この間、経済の常識もいろいろ塗り替わった。中でも最大の変化は「政府の役割」をめぐる人々の認識ではないか。金融危機以前は政府はできるだけ後方に退き、企業や市場の自由に任せるのが望ましいとされたが、危機以降は、政府の積極的な役割拡大を求める声が増えた。それに連動して、一時は死語に近かった「産業政策」も各国で復活している。


関連記事 ・9月17日日経朝刊1面「金型2社、政府主導で統合」
・8月19日日経夕刊1面「GM、再上場を申請」
・英ザ・エコノミスト誌8月7~13日号「Leviathan Inc」


 日本も例外ではない。9月17日付の日経新聞朝刊は自動車用金型の大手2社が政府主導で経営統合すると報じた。自動車用金型で国内2位の富士テクニカと同3位の宮津製作所が統合し、政府系の企業再生支援機構から出資を受けて、経営基盤を強化するという。


中国資本が金型工場を買収、日本政府に危機感

 解説記事によると、09年に金型最大手のオギハラが外資に買収され、同社の主力工場が中国資本の傘下に入ったのが、日本政府を含む関係者の危機感に火をつけたという。「経営不振の金型メーカーを放置すれば、外資に買われ、貴重な技術が流出する」という危機感である。

 英エコノミスト誌8月7~13日号は「リヴァイアサン・インク」という特集を組んだ。リヴァイアサンとは言わずとしれた国家の別称で、直訳すれば国家会社。かつての社会主義下の国営企業ではないが、政府による個別民間企業への支援や育成策を皮肉ったタイトルだ。

 同特集では冒頭でメカノというフランスの玩具メーカーの話が出てくる。リーマン・ショックで売り上げが落ちこみ、窮地にたったメカノ社に、サルコジ大統領の肝いりで作った国営ファンドのFSIが約3億円を出資し、救済したという。「おもちゃはフランスの戦略産業か」とさすがの仏メディアもこれには批判的だったいう。


“成功率”低い世界各国の産業政策


 過去、日本を含めて様々な産業政策が実施されたが、その成功率は必ずしも高くない、というのが定説だ。かつて通産省(現・経済産業省)はホンダの四輪車事業への進出を「成功の見込みは薄い」として、阻止しようとした。最近の例では1990年以降、日の丸半導体の復活を掲げて、官民が参画した技術コンソーシアムが数多くできたが、大きな成果を上げたとは言い難い。

 何も日本政府だけではなく、世界的に見ても、産業政策の成功率はあまりパッとしない。エコノミスト誌も先の特集で、環境や輸出拡大、雇用創出を理由として、政府の民間ビジネスへの関与は拡大するだろうが、「それは少数のささやかな成功例と、多数の目も当てられない失敗例を生むだろう」と予言する。出口の見えた米政府のゼネラル・モーターズ救済が前者とすれば、日本航空再建や金型メーカーへの出資はどちらの結果になるのだろうか。

source: nikkei

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