[FT]強力なスペイン救済策に潜む落とし穴



(1/2ページ)
2012/6/12 7:00
(2012年6月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 今から2年前にユーロ圏の財務相たちがブリュッセルに集まり、1100億ユーロ規模の第1次ギリシャ支援に合意した時、その後の救済策の残念なひな型ができた。曖昧な言葉を何カ月も弄した後、アジア市場が開く前に合意するため徹夜で協議したあげく、迫力に欠け、わずか数カ月で規模拡大を余儀なくされる救済策しか生み出せなかったのだ。
■危機への「先制攻撃」を自負
欧州委員会のレーン副委員長はスペイン救済計画に関して「これは先制攻撃だ」と語った(6月4日、ブリュッセルで記者会見に臨んだ同氏)=ロイター
画像の拡大
欧州委員会のレーン副委員長はスペイン救済計画に関して「これは先制攻撃だ」と語った(6月4日、ブリュッセルで記者会見に臨んだ同氏)=ロイター
 ユーロ圏にとって今回は4度目の正直となるかもしれない。手に負えなくなる危機を前に欧州連合(EU)の指導者は対応が遅く、最小限の資金しか用意しないと批判する人々に対して、スペインの救済計画は確固たる答えになるとユーロ圏の当局者は言う。
 「市場と国民に向けて、ユーロ圏は断固たる行動をとる用意があることを示す非常に明白なシグナルだ」。EUの欧州委員会で経済問題を統括するレーン副委員長は10日、こう語った。「これは先制攻撃だ」
 ユーロ圏の当局者は、スペインで今月予定される直近の銀行ストレステスト(資産査定)の完了を待たず、17日のギリシャ総選挙が招きかねない市場の混乱の前に行動に出ることで合意。9日夜の電話会議で救済策の概略をまとめ上げた。
 当局者は金額も、スペインの銀行の資金需要の試算に届かないどころか、それを上回ると指摘する。国際通貨基金(IMF)は少なくとも400億ユーロが必要と見なしていたが、ユーロ圏は最低でも1000億ユーロを供給することで合意した。「我々は意図して、安全性にさらなる余裕を持たせようとした」とレーン氏は述べた。
 「これほど大きな不測の事態に、欧州が自信を持って徹底的に対処する意志と力を見せたのは今回が初めてだ」と、あるユーロ圏の外交官は言う。「しかも、1回の電話会議ですべてがすんだ。徹夜の協議も、パニック状態で新たな手段をひねり出すことも、金額を減らそうとする論争もなかった」
■救済で膨らむスペイン政府の債務
 しかし、ユーロ圏の当局者が相当な財力で素早く行動した一方で、スピードと総額が十分かどうかは依然不透明だ。EUの指導者は、外部からの救済に対するスペイン政府の抵抗に阻まれている。アナリストの中には、不動産関連で大打撃を受けたスペインの銀行の損失に対処するには1000億ユーロでさえ不十分と考える向きもある。
 複数の高官はスペインの救済計画にはまだ欠点があると認める。スペイン、フランス、欧州委員会の当局者を最もいら立たせるのは、スペインの銀行の資本増強だけが狙いでも救済融資は政府を通じて実行せねばならず、スペイン政府が抱える5590億ユーロの既存債務をさらに膨らませる結果になることだ。
 EUの当局者はかなり前から、現在進行中の危機で最も大きな問題が生じる部分は、債務まみれの政府と、政府に資金を融通する銀行の強い結びつきだと認めてきた。
 レーン氏は先週、政府経由でなく銀行に直接融資すべきではと問われた時、「その点はもちろん、短期的にも中長期的にも重要な問題だ」と答えた。「大事なのは銀行と政府のつながりを切り離して、現在の債務危機の根元にたどり着くことだ」
■政府と銀行が影響しあう悪循環
 両者の関係は、互いに強め合う悪循環を生んだ。一部のケースでは、責任感のある政府を銀行が破滅させた。その一例がアイルランドで、危機に陥った頃に政府の財政は健全だったが、不動産関連の債務を抱えたアイルランドの金融機関を救済すると、政府は打ちのめされてしまった。
 一方、ギリシャとフランスのように反対の作用が働いた国もあった。もともとは健全だった金融機関が、スペインやイタリアのような不安定な政府の国債の保有で損害を被ったケースだ。欧州中央銀行(ECB)が昨年、域内の銀行に1兆ユーロの低利融資を提供せざるを得なくなったのは、このためだ。
 だが、ECBは1つの問題を解決したものの、別の問題を悪化させた可能性がある。スペインの銀行は低利資金を使ってスペイン国債を買い込み、金融セクターと政府のつながりを一層強めてしまったのだ。
■スペイン支援前の規則変更は難しい
 レーン氏とフランスの新政府は、ユーロ圏の5000億ユーロ規模の基金である欧州安定メカニズム(ESM)が銀行に直接資本を注入できるよう規則を変更することを要求した。
 だが、ESMが発足するのは早くても7月、ユーロ圏17カ国すべてが関連条約を批准した後のことだ。批准された後でさえ、規則変更には、新たな顔ぶれの17カ国の財務相の合意が必要になる。
 ドイツはこうした規則変更に抵抗してきた(実際、ドイツ政府は昨年譲歩するまで何カ月間も、ユーロ圏の救済資金が銀行を支援することを禁じるべきだとの主張を貫いた)。つまり、スペインの支援に間に合うよう規則が変更される見込みは薄いわけだ。
By Peter Spiegel
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2012. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

No comments:

Post a Comment