27/11 欧州財政危機、経済政府と共同債は有効 前ドイツ首相


時論

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2011/11/27 3:30
 欧州単一通貨ユーロが揺れている。ギリシャなど周辺国の債務危機はイタリアとスペインに及び、さらに大国フランスやドイツの足元も脅かす。崖っぷちのユーロ体制を救うための方策は。欧州の政治家はどんな責任を負うべきか。2005年までドイツ首相を務め、労働市場や社会保障の改革を進めたゲアハルト・シュレーダー氏に聞いた。
ゲアハルト・シュレーダー氏(Gerhard Schroeder)弁護士を開業する傍らドイツ社会民主党(SPD)で頭角を現す。98年~05年に独首相。03年に失業保険や年金など包括的な構造改革策「アジェンダ2010」を出した。67歳。
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ゲアハルト・シュレーダー氏(Gerhard Schroeder)弁護士を開業する傍らドイツ社会民主党(SPD)で頭角を現す。98年~05年に独首相。03年に失業保険や年金など包括的な構造改革策「アジェンダ2010」を出した。67歳。
 ――欧州債務危機が深刻さを増しています。
 「ギリシャは欧州連合(EU)の域内総生産(GDP)の3%足らず。一国だけで単一通貨を揺るがす存在にはならない。いま重要なのは、適切な措置で他の欧州諸国への波及を防ぐことだ。欧州は結束して、市場の攻撃を受けた国を守っている」
 「市場は欧州中央銀行(ECB)の明確なシグナルを必要としている。ECBはユーロ圏の国債購入という使命を無制限に果たすと宣言すべきだ。日本や域外の国がユーロ崩壊を心配する必要はない。欧州の政治家はユーロ体制を守る意味を分かっている」
 ――ドイツの動きが鈍いとの批判に対しては。
 「メルケル首相は最初に一つの過ちを犯した。ギリシャに手を貸す必要はないと余りに長く考えた。だが欧州の結束で救済する必要が明確になってからは、ドイツがフランスと協力して10月末の首脳会議でギリシャ支援を強化した」
 ――危機の根源はどこにありますか。
 「ユーロの導入時に金利が大幅に下がった南欧が財政規律の改善と構造改革による経済の競争力強化を怠ったことにある」
■並行して構造改革
 ――あなたが首相在任中、ギリシャのユーロ参加を認めたのは過ちでしたか。
 「当時は入手可能な数値が全てユーロ導入を是認できる内容。欧州委員会も一部が間違いだったとは思わなかった。真実の数字を知っていたら参加は恐らくなかった。だが当時、ギリシャの参加は保守系を含む欧州議会の全政党が賛成した。いま重要なのは問題の解決。ギリシャは合意実行の必要性をよく理解し、新政権は全力を注ぐだろう」
 「将来をみれば、純粋な緊縮策だけでは役に立たない。ギリシャを節約で死なせてはならない。例えば、欧州連合(EU)の援助でギリシャ経済の成長回復を支えることだ。成長と金融面の支援がなければ、ギリシャは独り立ちできない」
 ――危機克服へ各国がやるべきことは。
 「ユーロ圏がスペイン、ポルトガル、そしてイタリアのような国を支える十分な手段を用意することだ。これらの国は財政規律を守り、ドイツが約8年前に進めたような構造改革の実行を決めねばならない。これらより財政の良い国も内需を高水準に保ち、景気停滞を避ける責任を負う」
 ――あなたは2003年に欧州の財政ルール緩和を主張し、今の危機を招いた張本人との指摘があります。
 「その批判は公正でない。安定・成長協定の基準は動かしていない。財政安定だけでは十分でなく、成長の達成に努める余地がもっとあると言ったのだ。ドイツが財政赤字基準に違反した03~04年は厳しい構造改革を導入した時期。それに加えて何十億ユーロもの財政緊縮は不可能だった。改革と緊縮を同時に追求したら今のギリシャと似た混乱が起こりえた。ドイツは時の流れを認識し、社会制度の秩序を回復する大胆な改革を進めた唯一の国だった」
 「財政規律に注意するのは大切だが、赤字を出しても財政支出すべき局面が、リーマン危機後の大連立政権の時期にもあった。問題は好況期にケインズ政策の反対となる財政健全化ができるかどうかだ」
■監視は欧州議会が
 ――欧州の中期的な安定には何が必要ですか。
 「ユーロ創設時の誤りをいま直さねばならない。金融政策の一本化だけでなく、財政や経済政策も合わせる必要がある。ユーロ圏は『欧州経済政府』の創設で合意した。保守政党はずっと反対してきたが、単一通貨の長期安定に必要なのだと今になって分かった」
 ――赤字基準の違反国に監視や制裁は必要ですか。
 「財政や経済政策の監視が必要なのは疑いない。だが、それは民主的な負託のない専門家でなく欧州議会がやるべきだ。各国議会から欧州議会に権限が移るのに合わせ、ユーロ導入国出身の議員が担えばいい」
 ――ユーロ圏の共同債を発行する構想を巡り、欧州の意見は割れています。
 「議会の監視のもとで欧州の経済や財政政策を調和し、健全に仕組むのなら、ユーロ共同債は正しい道具立てだ。大規模で魅力的な国債市場ができることを意味するだろう。だが明確な条件は不可欠だ。低金利で野放図に資金調達ができる手段ではだめだ。財政健全化が常に見返りになる」
 ――欧州各国の政治家は国民に改革を説得できずに苦しんでいます。
 「民主主義社会の基本的な問題だ。政治指導者は時に多くの人々が反対する厳しい決断を迫られる。ドイツの改革がまさにそうだった。前向きな効果は何年か後にしか出ず、時間の空白ができる。権力維持のためにその決定を逃げるのは全くの誤りだ。次の選挙に勝てないと覚悟してでも政治家は確たる決断を下さねばならない。そのリスクは指導者に付き物だ」
■民主主義のコスト
 ――ドイツは域内の金融支援で一件ごとに議会の委員会承認が必要になりました。激しい市場の動きに対処できるでしょうか。
 「それが民主主義のために払わねばならないコストであり、払いたいと我々は思う。民主的な決定は、独裁国家よりも少し長い時間がかかるかもしれない。だが、そうすることで決定が社会に受け入れられ、法律の信頼性をより高めることにつながる」
改革の痛みを説く信念
欧州政治の実行力不足は深刻だ。怠け者を税金で救うなと抵抗するドイツの人々。給与や年金のカットは許さないと反発する南欧の人々。助ける側も助けられる側も、政治はユーロを守る大胆な手段を国民に説得できず、後手後手の対処を続けるばかりだ。
支持基盤の労働組合と衝突して失業手当を減らし、年金改革を進めたシュレーダー氏。再選リスクを冒してでも信念を説けと直言した。退陣後に復活したドイツの自画自賛とはいえ、欧州の難局打開のカギがそこにある。日本も危機の一歩手前だ。野田佳彦首相はどう聞くか。
(ベルリン支局 菅野幹雄)

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