09/08  [FT]米国債格下げの影響、本当に怖いのは(社説)



(1/2ページ)
2011/8/9 7:00
(2011年8月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)による米国債の格下げは意外ではなかったはずであり、世界の金融市場に直接与える影響は限定的だろう。S&Pは先に米国債を格下げ方向で見直す「ネガティブウォッチ」に指定して警告していたし、格下げは米国政府の壊れた財政制度について、投資家がこれまで知らなかった情報を与えはしなかった。また、ほかの格付け機関は今のところ米国債の格付けを維持している。しかし、格下げの間接的な影響はもっと厄介なものになるかもしれない。
■格下げの連鎖起こるか
スタンダード・アンド・プアーズは米国債の長期格付けを引き下げた(ニューヨークにある同社のビル)=ロイター
画像の拡大
スタンダード・アンド・プアーズは米国債の長期格付けを引き下げた(ニューヨークにある同社のビル)=ロイター
 米連邦準備理事会(FRB)は即座に、FRBが引き続き米国債を担保として受け入れ、格下げの結果、銀行が自己資本比率に関する罰則を科されることはないと発表した。週末に関係者が電話会議を重ねた先進7カ国(G7)や主要20カ国・地域(G20)の財務省からも、同じような確約の言葉が出始めている。
 だが、S&Pの格下げに続き、早ければ8日にもファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)やフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)などの米国政府系機関の格付けに関する発表がある。このため格下げがさらに続く可能性は高い。8月5日の米国債格下げの判断が、次第に金融資産全体に及ぶにつれ、公的機関だけでなく企業も含めた借り手の格付けが連鎖的な格下げに見舞われるかもしれない。
■行き過ぎた懸念呼ぶ恐れ
 格下げは米国の財政政策と経済全体に残るリスクへの懸念を強める恐れがある。ある意味、それは良いことだろう。運が良ければ、米国の政策当局者はこうした懸念にせきたてられ、自国の長期的な財政問題に取り組むうえで、より責任を持ち、より賢明に行動するかもしれない。
 その一方で格下げは、そもそも正当な理由があって欧米経済に対する信頼が低い時に、国債利回りを上昇させ、行き過ぎた懸念を引き起こす恐れがある。
 根本的な返済能力という点では、米国債は依然、世界で最も安全な債券の1つであるはずだ。確かに、長期的には米国の公的債務は危険な軌道に乗っており、これは金利の上昇や金融の脆弱性が増す恐れがあることを意味している。だが、米国が債務を返済できなくなる危険は今のところ見えない。
 このため、S&Pの分析には不備がある。単に債務比率の予想に使う正しい基準を混同するというみっともないミスを犯しただけでなく、極めて可能性の低いシナリオを過度に重視しているからだ。すなわち、米国がいずれ債権者に支払いができなくなるというシナリオである。
■断固たる行動が必要な米欧
 しかし、米国政府が実際に債務を返済しないことを選びかねないという新たな危険を強調した点で、S&Pは正しい。ワシントンは債務上限を巡るパントマイムの最中に、自発的なデフォルト(債務不履行)の瀬戸際まで平然と歩み寄った。
 この前例が作られてしまった今、もう元には戻せない。議会は、このエピソードが2度と繰り返されないことを保証するために行動すべきだ。債務上限を設ける法律そのものも破棄する必要があるだろう。
 一方、他国の政府は、少なくとも事態の悪化を防ぐことに尽力できる。本紙(英フィナンシャル・タイムズ)が印刷に回された時点で、G7の経済担当者や欧州中央銀行(ECB)理事会の緊急協議が始まろうとしていた。ユーロ圏の政策当局者は、なおエスカレートする欧州債務危機と、効果のない格闘を続けている。彼らは自分たちの政策に対する市場の信頼を呼び覚ますために、今よりはるかに決然と行動する必要がある。
■中国は非難でなく協調を
 格下げ後の中国の介入――強い表現で米国の財政政策を非難し、新たな国際準備通貨を求めた国営新華社通信の評論記事――は、とりわけ無責任だった。これは誰の利益にもならない。中国が大量の米国債を保有していることを考えると、このように事態をかく乱させることは、特に中国の利益にならない。
 今は、国内でも国際的にも協調を深める時であって、芝居じみた抗議をする時ではない。こうした協調において、より見識ある中国の為替政策は少なくとも、より誠実な米国の財政政策と同じくらい重要な構成要素になる。
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2011. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

No comments:

Post a Comment