中国、内陸経済は離陸するか(アジアBiz新潮流)

 中国の北京から山西省などを抜け、チベットにつながる全長3000キロ超の京蔵高速道路。そのうち山西省から北京に向かう区間で今年8月14日から約10日間、100キロにわたって車がまったく動かないという大渋滞が発生し、中国はもちろん欧米メディアで「史上最悪の大渋滞」と話題になった。高速道路上にとじ込められた車の大半はトラック。山西省から沿海部に向けた石炭やセメント、鉄鋼製品などの輸送用だ。


「史上最悪」と話題になった中国の8月の大渋滞(河北省)=AP

 山西省は中国最大の産炭地だが、国内のエネルギー需要の急増で省内の炭鉱は国有石炭会社の大規模炭田から個人経営の中小炭鉱までフル稼働状態。財産を築いた炭鉱主は「煤老板(メイラオバン)」と呼ばれ、中国全土でマンションやオフィスビルを買いあさり、不動産投機の原因と言われるまでになっている。山西省などの内陸部は沿海部へのエネルギー、資源の供給地帯として成長の新たなステージに入っている。

 37%の企業が珠江デルタ脱出を計画し、そのうち63%が広東省から撤退する――。最近、香港工業総会が広東省に工場を置く香港企業にヒアリングした結果だ。深セン、広州、東莞などを中心とする珠江デルタは電子機器、家電、自動車など産業が発展し、世界トップクラスの産業集積だが、この1、2年深刻化した人手不足や賃金高騰で工場の脱出が加速している。移転先の中心は内陸だ。広東省の縫製、靴、帽子などの工場は湖南省、家電は安徽省、電子機器は四川省などに移転するケースが多い。その結果、内陸では新たな雇用が生まれ、関連産業や消費も活性化しつつある。

 これまで内陸の経済を支えてきた農業にも上向きの気配がある。中国政府の農産物買い入れ価格の引き上げ、農民への直接支払いで、農村の経済水準が底上げされつつあるからだ。2008年11月に打ち出された景気刺激策による内陸のインフラ整備の工事で農民の出稼ぎ場所が内陸に生まれたことも農村経済に追い風となっている。

 1978年にトウ小平氏が発動した「改革開放」政策30年で、高度成長を遂げたのは沿海部だ。今、起きている内陸の活況は「改革開放」の第2フェーズといえるだろう。だが、このまま内陸経済は離陸するのか?

 人類史上、沿海から離れて内陸に向け開発を進めた代表例に、北米大陸の西部開発とロシアのシベリア開発がある。ともに今の米国、ロシアの国家の枠組みを規定し、経済力を押し上げる契機となった。中国の内陸開発にも共通性があるが、ひとつ違う点がある。米国の「GO WEST」は太平洋に至り、カリフォルニアができあがった。ロシアのシベリア開発も太平洋岸に達し、東の不凍港ウラジオストクが建設された。だが、どこまで行っても海に至らない中国の内陸開発には当然、ゴールはない。それは単に物理的なゴールの不存在だけでなく、開発そのものがゴールのない政策になりかねない不安も暗示していよう。

source: nikkei

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