[FT]新銀行規制、新興国の金融市場に悪影響も



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2012/6/15 14:00
(2012年6月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 国際業務を営む銀行に対する規制強化により、発展途上国は過度の痛手を被るだろう。自己資本と流動性の新規制を満たすために欧米の銀行が利用できる手段が、他のどの国でも利用可能なわけではないからだ。英スタンダードチャータード銀行のピーター・サンズ最高経営責任者(CEO)がフィナンシャル・タイムズ紙に語った。
■「バーゼル3」の一部規制を問題視
英スタンダードチャータード銀行のピーター・サンズCEO
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英スタンダードチャータード銀行のピーター・サンズCEO
 サンズCEOはメキシコのグルポ・フィナンシエロ・バノルテのギジェルモ・オルティス会長とともに、企業首脳会議「B20」のタスクフォース共同議長を務める。同タスクフォースは17日にも報告書を公表し、その中で2008年の金融危機の再発防止を目的とした国際的な新資本規制「バーゼル3」が、欧米の金融機関に重点を置き過ぎていると主張する見通しだ。流動性や取引相手(カウンターパーティー)リスク、貿易金融に対する規制が、新興国での信用供給を減らし、信用コストを上昇させる恐れがあると警告する。
 「規制改革の主眼は欧米が実施する必要のあることに置かれている」とサンズCEOは言う。金融システムがそれほど発達していない国に対して「規制の一部は意図せぬ結果をもたらし、きわめて危険なものになりうる」と語る。
 新興国に多くの拠点を持つスペイン大手銀BBVAの調査によると、資本金と流動性準備を20%増やすと、1人当たり国内総生産(GDP)は全世界では2%、新興国では3%低下するという。
■新興国から資金引き揚げる銀行も
 バーゼル3の中でも「流動性カバレッジ比率(LCR)」規制として知られる規制が特に新興国には痛手が大きい、とB20タスクフォースは主張する。LCR規制では、市場危機の際にも現金化が容易な資産を保有することを銀行に求めている。そうした資産は質の高い社債や国債であり、資本市場が十分発達していない国では不足し、さらにイスラム金融の規則に従う国には存在すらしない。
 同様に取引相手リスクに対する「信用評価調整(CVA)」により、新興国の銀行は過度に不利な扱いを受けると同タスクフォースは分析する。欧米の銀行は取引相手のデフォルト(債務不履行)に備える金融商品「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」を購入することで、こうしたリスクをヘッジ(回避)できるが、CDSは新興国市場の企業や銀行の多くは利用ができないからだ。
 同タスクフォースは欧州の銀行はバーゼル3を守るため推定2兆ユーロの資産を削減すると予想。それにより銀行がリスクの高い新興国から資金を引き揚げ、さらに競争が低下するため信用コストが上昇する懸念があるとしている。バーゼル銀行監督委員会はLCR規制の変更を検討中だ。
 金融規制国際センターの調査担当ディレクター、リチャード・リード氏は言う。「新興国が特有のニーズを強調すればするほど、(規制の緩い地域を銀行などが選択する)『規制裁定』の問題が生じる」
By Brooke Masters
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