[FT]オランド仏大統領の第一歩は失策(社説)



2012/6/11 7:00
(2012年6月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 政治家はよく、政権を握るやいなや選挙公約を破ると批判される。今のところフランスのフランソワ・オランド大統領はその限りではない。大統領は6月初旬、選出されてからわずか1カ月で、一部の労働者が62歳ではなく60歳に定年退職(年金受給開始)する権利を復活させるという公約を果たした。
■改革の逆行で他国の反発も
オランド仏大統領は一部の労働者の定年退職年齢を引き下げた(6月7日、パリ近郊の小学校でスピーチする同大統領)=ロイター
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オランド仏大統領は一部の労働者の定年退職年齢を引き下げた(6月7日、パリ近郊の小学校でスピーチする同大統領)=ロイター
 広く予想されていたとはいえ残念な決断だ。確かにこの措置が適用されるのは41年半にわたり年金を積み立ててきた人だけで、その期間はいくつかの欧州連合(EU)加盟国より長い。だが、これはフランスの最近の構造改革で極めて重要な要素が部分的に逆行することを意味する。その費用(2017年には年間30億ユーロに増える)は既に高いフランスの労働コストを引き上げることで賄われる。
 年金改革の逆行で見せたオランド大統領の機敏さには明白な政治的理由がある。フランスでは今後2週間で国民議会(下院)議員選挙の投票があり、オランド大統領は左派色の強い有権者層の間で支持を固めたいと思っているのだ。
 だが、オランド大統領の措置はフランス経済のためにならないうえ、欧州におけるフランスへの信頼を低下させる恐れがある。長期的な人口動態の課題に直面して、いくつかのユーロ圏諸国は最近、年金受給開始年齢を70歳に迫る水準に引き上げた。一部の労働者のみでも60歳に戻すことで、フランスはパートナー諸国にさらなる犠牲や結束を求めるのが難しくなるだろう。
■構造改革の撤回は許されない
 年金改革は国内の観点からも厄介だ。オランド大統領とピエール・モスコビシ経済財政相は短期的な財政規律に安心感を与えるサインを送ったものの、両氏が構造改革にどれほど熱心かは大きな疑問がある。
 既に行政府がかじを左に切っている兆候がある。ミシェル・サパン雇用・労働相は失業率が10%に達したというニュースを受け、労働者を解雇するコストを引き上げたいと述べた。
 サパン氏の発言も選挙向けの策略かもしれない。だが、これはフランス企業にとって労働市場の柔軟性を下げる道を開きかねない恐れがある。政府は財政再建にも取り組んでいるため、そうなったらオランド大統領が熱心に追求する雇用と成長を一体誰が生みだすのか分からなくなる。
 オランド大統領のスローガンが今月の選挙で勝利をもたらす可能性は十分ある。だがこれを、本当に必要な構造改革を逆戻りさせる言い訳にしてはならない。選挙戦で役立つことが、すべて政府に有用とは限らない。
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2012. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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