不安な世界経済 欧州危機の早期収束がカギだ(1月9日付・読売社説)

欧州発の金融危機を克服するメドが立たないまま、世界経済の重苦しい新年がスタートした。
危機拡大を防ぎ、世界景気の急減速を回避できるか。いくつものハードルが待ち構え、波乱含みだ。
国際通貨基金(IMF)は昨秋、2012年の世界経済について全体で実質4%成長と予想したが、1月中にも、3%台半ば程度に下方修正する公算が大きい。
金融危機と緊縮財政などに伴い、ユーロ圏はマイナス成長に陥りかねない。それが米国や日本だけでなく、好調だった中国など新興国の足も引っ張り、景気減速は不可避とみられている。

景気失速を回避せよ
だが、世界景気が急激に落ち込むような失速は回避しなければならない。そのためには、欧州危機の早期収束が重要だ。
昨年は、放漫財政のギリシャが発端になり、巨額の財政赤字を抱えたイタリアやスペインなどに信用不安が飛び火した。市場は動揺し、株価が低迷した。
1999年の導入以来、最大のピンチに陥ったのが通貨ユーロだ。ユーロ安が加速し、年末から年明けにかけ、1ユーロ=100円を割り込んでいる。
独仏などのユーロ導入国を含む欧州連合(EU)の首脳会議は昨年12月、ようやく、財政規律の強化などを柱にした対策を決めた。対応が後手に回ってきた欧州が動き出したことは評価できる。
しかし、その後も、イタリアなどの国債が売られ、国債流通利回りは上昇傾向にある。イタリアとスペインが大量の国債償還を控えている。それを乗り越えることができるかどうか、市場は警戒を強めているのだろう。
大手格付け会社が、フランスなども含め、欧州各国の国債を一段と格下げする恐れもある。混乱の火種は消えない。
EUの危機対策は、金融不安の払拭にはまだ力不足である。欧州各国が結束を強め、危機対策に本気で取り組むことが肝要だ。
ユーロ導入国はまず、ギリシャ支援策を着実に実行すべきだ。ギリシャのユーロ離脱は非現実的といえる。独仏などが全力で支えねばならない。
安全網として、首脳会議が合意した欧州金融安定基金(EFSF)の資金基盤拡充も急務だ。イタリア国債などを保有する銀行の資本増強も待ったなしである。
“ユーロの番人”の欧州中央銀行(ECB)の役割は増す。イタリアの国債購入拡大など、大胆な策を検討してもらいたい。
通貨は一つだが、財政はバラバラということが、欧州の根本的な問題だ。首脳たちが財政規律を強化し、互いに監視する方針で合意したのは妥当だ。独仏両国が足並みを乱さず、欧州統合を深化させる行動力が問われよう。
米国経済も綱渡り
米国経済は緩やかに持ち直しているが、本格回復は遅れている。失業率は約9%に高止まりし、個人消費の持続力は不透明だ。
今後、欧州経済の悪化が波及すると、景気低迷も懸念される。加えて、財政、金融の両政策とも手詰まり感が目立つ。
焦点の財政赤字削減を巡る与野党の対立が続き、オバマ大統領の追加景気対策の実施は、事実上、困難になっている。
巨額財政赤字を抱える米国の財政再建も必要だが、過度な緊縮財政には、景気を冷やし過ぎる副作用もある。大統領選に向け、与野党の駆け引きが激しくなる中、大統領は議会と妥協策を探る手腕を発揮してほしい。
一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)は、異例のゼロ金利政策を2013年半ばまで継続する方針を決めたが、景気下支えの効果は限定的とみられる。
FRBは、欧州危機と金融市場の推移、不安定な米国景気などを注視し、一段の量的緩和策を含めて、機動的な金融政策の発動をためらうべきではない。
中国への期待大きい
日米欧の先進国に、中国、インド、ブラジルなど新興国を加えた主要20か国・地域(G20)の結束も、改めて求められる。
08年のリーマン・ショック後、G20がそろって、財政と金融政策を総動員し、世界不況を克服した。とくに巨額の景気対策を実施した中国の役割は大きかった。
焦点は、今や、世界第2位の経済大国になった中国が、今回の欧州危機に対し、どんな貢献ができるかだ。欧州のEFSF債の積極的な購入は一案だろう。
欧州向け輸出減などが原因で、減速傾向がでてきた中国経済の景気テコ入れ策も期待される。
日米欧に比べると、中国は財政刺激策や、一段の金融緩和に踏み切る余地がある。機動的な政策で安定成長を維持することが、世界経済の下支えに役立つ。
(2012年1月9日01時24分  読売新聞)

No comments:

Post a Comment