24/09 金銀暴落、「劇場のシンドローム」は続くか



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2011/9/24 10:18
 リーマンショック直後を連想させる貴金属の換金売りのウエーブが止まらない。昨晩(23日)も金銀とも暴落。金は24時間で1754ドルの高値から1628ドルの安値まで100ドル以上下げ、その後1650ドル台で推移している(日本時間9月24日早朝)。
 銀の下落は更に厳しく、5ドル以上下げて30ドル台へ。
 先週末時点で銀は40ドル、金は1812ドルであった。週間下げ率で見れば金が9%、銀が25%ほどになる。これにより年初からの騰落率は銀がマイナスに転じた。金はそれでもプラス16%である。 価格変動の激化で米国商品先物取引所は先物取引にかかる証拠金を金で21%、銀で16%引き上げる決定を、昨晩の引け後に発表。来週月曜引け後から適用される。これによりロング(買い持ち)の投機筋による手仕舞い売りが加速する可能性もあるが、新規のショート(空売り)を抑制する効果もある。事実、換金売りの津波に乗じて投機的に空売りを入れる動きが見られていた。
 さて、今回の貴金属「総売り」は、昨日本欄で述べたように、特に突発的に1つの大きな要因が引き起こしたわけではない。
 市場の流動性が枯渇する中で、「大手ヘッジファンドが売った」などの根拠の無い噂で、一斉に市場参加者が売りに走った。混み合った劇場で誰かが「火事だ」と叫び、観客全員が我先に非常口に走るという「劇場のシンドローム」だ。
 この換金売りは長くは続かない。一巡して鎮静化するは必至。
 いずれにせよ、このようなパニック売りは市場の緊張感がピークに達したときに起こりがちだ。
 更に、価格が買われ過ぎでオーバーシュートした後には、反動で売られ過ぎアンダーシュートしがちなもの。このプロセスを繰り返しながら価格は新たな需給均衡点へ収斂(しゅうれん)してゆく。
 週明けのアジア市場では新興国による現物買いが集中的に出るだろう。既に今週の急落過程で現物需給は著しくひっ迫している。香港やドバイの現地渡し金価格が、国際標準のロンドン渡し金価格に比べ割高(プレミアム)に転じてきた。キロバーなどの供給が需要に追いつかず足りない。
 NYでは先物の売りが優勢。ワンツーパンチのごとく派手に効いている。しかし先物売買は所詮買って売ってのゼロサムゲーム。一巡後には何も残らず、長期的にはマーケットニュートラルである。対して安値圏に殺到する新興国の現物買いは長期保有。じわりボディーブローのごとく効いてくるもの。残高がストックとして残り、その分、金価格水準の下値を押し上げるのだ。日々の派手な乱高下に惑わされず、冷静に市場の底流を見極めることが肝要である。
 リーマンショック後と同様、投機的売りによる急落局面を長期保有の買いはチャンスと待ち構えている。
 なお、日本の休日に大きく下げたので、逃げ切れず生殺し状態の日本人投機家も多い。劇場が火事になったのに非常口が閉まっているわけだ。
 特に銀の暴落は市場規模が小さいだけに、回復には時間がかかりそうだ。
豊島逸夫(としま・いつお)
 ワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて貴金属ディーラーとなる。同行で南アフリカやロシアなどから金を買い、アジアや中近東の実需家に金を売る仲介業務に従事。さらにニューヨーク金市場にフロアトレーダーとして派遣され、金取引の現場経験を積む。その後東京金市場の創設期に参画。ディーラー引退後、WGCに移り、非営利法人の立場から金の調査研究、啓蒙活動に従事。金の第一人者であり、素人にもわかりやすく金相場の話を説く。
日経BP社から6月21日、ムック本『豊島逸夫が読み解く金&世界経済』が発売されました。

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